第85話 勇者、クリウスをもろともせず
「じゃあ次は泥髪。お前だな」
「ま、まて勇者――」
「ちょっと~……なに勝手に終わらせてんのよ。なにも終わっていないわよ」
飛ばされた瓦礫の中から再度、姿を見せたクリウスはその様相が変わっていた。黒い鎧のようなモノを纏っていて、先ほどとは雰囲気も、魔力もけた違いに上がっている。
「まだ私からなにもしてないじゃな~い。これが私の真の姿『黒蝋鬼神』よ……久しぶりにこの姿へなったからにはなぶり――」
エデンは長すぎる話に飽き飽きしたのか、もう一度顔面にパンチをくらわした。だが、その顔面には一つも傷はついていなかった。
「ちょっと……まだ私が話している途中でしょうがぁあああああああああ!」
クリウスのパンチが勇者を捉える。その瞬間、城の王の間の壁がパンチの圧だけで吹き飛んだ。とんでもない力にランドレスは驚愕した。エデンは死んだかのように思えた。
「なんだよ~。そんなパンチできるなら最初からしろよ~」
全然、そんなことはなく、先ほどと同じようにクリウスの隣でぴんぴんしていた。
「うそ……なんであなたまた隣に――」
「じゃあ俺も少し本気だな! 聖拳突きっと!」
エデンの聖拳が見事にクリウスの腹に直撃する。その強さは鎧を突き抜ける程の強さで腹の部分の鎧が吹き飛び、クリウスは再度、壁に叩きつけられ意識が飛びそうになる。
「え……うそ。俺の聖拳ってそんなに強すぎるのか?」
腹の鎧が砕け散ったクリウスだが、まだ息はあった。振り絞るように疑問を投げかける。
「あ……あなた……いったい何者なの……この姿の私が一撃なんて……」
「えっなんだろ。しがないパチスロ経営者ですっていうのが一番の正解か?」
「なにいってんのこいつ……」
そこで、クリウスは意識を失った。
「あっでもそうか。聖拳くらわした魔物、穴空いてたからその鎧みてぇなやつすげぇんだな」
「そ……そんな……あのクリウスがたった二発のパンチで……」
「よ~し。疲れたぁ。もう終わりでいいか? お前も戦うのか泥髪」
ランドレスに勝機はなにもなかった。だが、ここで引き下がるわけにはいかなかった。
「……私は、もう引き下がることはできない。魔族と契約し、この『魔眼』を手に入れた時点でなぁ!」
ランドレスはこのゴードン王国の乗っ取りにすべてを賭けていた。魔族と契約し、そこそこの魔物であれば使役することができる。その力でコカトリスも『魔眼』で使役していた。身も、心も魔物に染まりきっていた。
「私はここで終わるわけにはいかないんだ! これで魔物を操れるんだよ!」
「えっ、でも操る魔物どこにもいないじゃん」
「『そこ』にいるだろ? 意識を失っている状態なら操れるんだよ! 動けクリウス!」
魔眼がクリウスを捉える。その瞬間、本来であれば強大な力を持つ魔族であるクリウスを操ることは到底不可能だ。しかし、今は意識がない。その瞬間だけは魔眼で操ることができた。
意識を失ったはずのクリウスが宙へと浮き上げる。
「最後の魔法だ! 『ドラゴアス』!」
「……ウゴォアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」
意識がないクリウスは無理やり姿を変えていく。いや、ランドレスに無理やり姿を変えさせられているのが正しい。どんどん姿が変わっていき、最後には巨大な黒龍へと変貌を遂げた。そこへ、私たちが合流した。
「うぉおおお! やっと来たわよ! って黒龍がいるじゃない!」
テンションが異常におかしい私たちがその巨大なドラゴンに慌てふためく。
「ひぇええええええ! 初めて見たでぇこんな魔物! あ! エデンはんもおるで!」
「エデン! やっと追いついたぞ! 先に来てたんだな!」
「うん……君たちなんだかテンション高すぎて怖いからさ……」
「エデン様! これはどういう状況ですのぉ⁉」
「う~ん。なんか『歯抜けのクリニカ』だっけな? そいつ殴ったらドラゴンになった」
「なに言ってるのか全然わかんないわよ! まぁどっちにしろドラゴンは倒さないといけないのね!」
「おっしゃ! やれるところまでやりましょか~!」
「いや、見てていいよ。みんな魔力も、気力もないだろ?」
確かに、こんなドラゴンを相手にすることなど私たちにはできなかった。それがエデンにはお見通しだったらしい。それができないならせめて。
「じゃあそこの第一王子であるランドレス様を捕えましょう!」
「お前らなんぞに捕まるか! このドラゴンを倒してから――」
「兄上――。もう逃げられない」
その喉元には、ナイフが突きつけられていた。すでに卵王が動いており、兄ランドレス王子を捕まえた。




