第80話 勇者、この期に及んでも城に行かない
ランドレスが城に戻る頃には、城はすでに魔物の巣窟となっていた。
「〇〇様。ここまで協力していただき本当にありがとうございます」
「いえいえ。あなたも相当な覚悟をもって、今回の謀反を企てたのですから」
「感謝いたします。これは私だけでなく双方の利害によって成立しているもの。勇者さえいなくなればこの国は乗っ取ったも同然です」
(私が、それだけのためにお前ら魔物どもをここまで侵入させると思うか? バカめ)
「それでランドレス王子。その勇者はいつ頃来られるの? もう五日ぐらい経ってるけど……」
「……本当にバカなのです。はっぱはかけたのですが、一向にくる気配がなく……」
「もう順番に人間を殺してもよくって? それくらいのプレッシャーがないと、来ないのじゃないかしら?」
「そ、それはお待ちください。もう少しです。もう少しで来るはずなのです」
「……まぁいいわ。ここまで来れば私たちの勝利は決まったようなものよ」
(この人間も甘いわね。いつか私たちの餌にしてやるわ)
「その通りでございます。我々に恐れて城に来ることができないのかも知れませんしね。ハハハ!」
――そんな話が繰り広げられている城の考えとは全く見当違いで、私たちは魚を食べた日からお腹を下していた。どうやら食中毒に当てられたらしい。
なにも食べられず、水を飲んでく生活をしていた。五日ほど経ちようやく体調が戻ってきたところだった。
「いや〜。一時はどうなることかと思ったよ。魔物より食中毒の方が怖いんじゃないか。ハハハ!」
「笑っている場合⁉ 私たちあれから城のこと放ったらかしよ! もうみんな死んでいるかも……」
「でも、今のところパチスロ店には大勢客がきているし、国民はなにも知らないみたいだな」
「なんだ。俺たちがいつになっても城に来ないもんだから、国民一人一人殺していくかもなぁ〜とか思ってたんだけど、よかったな」
「おぉい! そんな考えなら早く城に向かえよ! 城の中の人は殺されているかも知れないのよ!」
「それは……そん時だな。蘇生魔法とかある?」
「死んでいる前提で話を進めないで! さぁもうみんな全快したでしょ! 早く城に行きましょう!」
「……寝込んでたから、なんにもできなかったよな」
「……確かにそうねぇ。私、読みたい漫画まだあったのよねぇ……」
エデンとギョロ美ちゃんが不穏なことを言い出した。追随するように階段下の部屋からトモミチも顔を出して余計なことを喋り出す。
「確かにそうですわなぁ……この五日みんなでゲームしてまへんもんなぁ……」
「……あーちゃん。頼む。明日にしないか?」
「ちょっとふざけてるの⁉ まだ昼なのよ! 今からでも全然行けるわ。早く行かないとみんな死んでいるかも知れないのよ!」
「それなら今日行っても、明日行っても変わらないかも……」
この言葉には、さすがの卵王も黙っていなかった。
「エデン! さすがに正気かお前! 一応、俺の家族の命と国が懸かっているんだ! 頼むから行かないか?」
「……そうだ。卵王が様子を見に行って、それで行くか、行かないか判断しない?」
「いや、行かない可能性もあるの⁉ それは勘弁してくれよ!」
「えぇ〜。わかったよ〜。じゃあ一回! 一回だけみんなで『梨鉄』しよ!」
「……わかったわよ! 一回だけよ一回だけ!」
「アネス⁉ 受け入れていいのか? 本当に行くかわからないぞ!」
「ここまできたらエデンはなにがあっても引き下がらないのです。一回だけだし、満足させるまでやらしてあげましょう」
「……アネスがそう言うなら従うよ! 一回だけだぞ! それが終わったら絶対、一緒に行ってくれよ!」
「よし! 交渉成立だな! 一回だけだから百年設定にしてと……」
「おおい! 一回が長すぎるだろ! それはずるいぞエデン!」
「そうよ! それ始めたらまた二、三日かかるじゃない!」
「えっ……まさか国を代表する君たちが約束を破るわけないよね……?」
「それは確かにそうよねぇ……あーちゃんなんて国直属の賢者だし、卵王様は王子様ですものねぇ〜……」
「それが嘘つき言うたらこりゃ大変なことになりまっせぇ……。一回は一回やもんなぁ」
「……あなたたち寄ってたかっていい加減にしなさいよ! いいわよ! 永遠にやり続けて、すぐに終わらせてさっさと城に行くわよ! いいですね卵王!」
「アネス……君まで挑発に乗るなよ……ここから地獄の始まりか……」
「こりゃ……熱い夜になりそうだぜ……」
私たちは、そこから本当に寝食も忘れて、ぶっ通しで『梨鉄』をやり続けた。四十時間でやり遂げることができた。皆、この時点で満身創痍だった。




