第79話 勇者、第一王子をいなす
卵王が複雑な面持ちで紹介した。まさか、弟がここにいるとは思わなかったランドレスはこう口を開いた。
「……なんなんだこれはヘンドリクス。なぜ、こんな野蛮な奴らといる? 死にかけたぞ」
「申し訳ございません兄上。これがこの国の勇者なんですよ」
「ふん。こんなのが勇者か。そんなお前は今では斥候になって色々情報を集めているらしいじゃないか? 惨めだとは思わないか?」
「……なにも思いませんよ兄上。私はあなたの悪事を暴こうと――」
「ごめんごめん。兄弟水入らずのところ悪いんだけど、魚腐っちゃうから先に冷蔵庫入れてきていい?」
「……お前ふざけているのか? 俺が直々に来てやったんだぞ?」
「だからなんだよ。お前よりみんなで釣ったカンパチやらサバの方が大事だわ。帰れ」
「エデン! その口の利き方は――」
「お前舐めるなよ……こんな不敬な奴は処――」
「もううるるさいよ。はいどいて!」
『処刑だ』という言葉を吐く前にランドレスをエデンは思い切り裏拳で吹き飛ばした。
向かいのパチスロ店まで飛んでいくランドレス。
「さ、早くさばいてみんなで食べようぜ~」
「そうねぇ~! 自慢のお魚召し上がれ~」
「もう知らないわよどうなっても……」
すると、先ほど吹き飛ばされた店の中から、傷を負ったランドレスが出てくる。
「おい! 逃げるな勇者ぁああああああ! 戦え!」
無視して、全員入っていく。一人その場に残ったのは卵王だった。
「兄上……勇者はとんでもなく強い。あなたがどれだけ暗躍しようが勇者エデンを止めることはできない。諦めたほうがいい」
「……待っていろ。そんなに地獄を見たいなら見せてやる」
「なに?」
「こい! 『コカトリス』!」
ランドレスが叫ぶと、どこからともなく魔物コカトリスがとんでもない速さで駆けてきた。
コカトリスもかなり上級の魔物。ランクで言えばA。鶏の身体をしつつも蛇のしっぽを合わせ持った魔物である。今までの敵に比べるとそれほどの体躯ではない。
おおよそ人間を少し大きくしたぐらいだが、恐ろしいのはその俊敏性。その速さと口から散布する毒液で相手に致命傷を負わせ、喰い殺すのが特徴。
だが、なぜそれほどの魔物をランドレスが操れるのか卵王にはわからなかった。
「兄上! どうやってそんな魔物を連れてきたのです!」
「どうせ死ぬお前らに教えるわけがないだろ? さぁ……この家の者を全員殺せ!」
「コケェエエエエエエエエエエエエエエエエエ!」
「一旦、退散だ。こいつはヤバい!」
卵王も家に引き上げる。だが、コカトリスはとんでもない速さと跳躍力で追いかけてきた。(まずい! やられる!)
そう思ったのも束の間、家に張られた障壁のおかげでギリギリ卵王は助かった。
「あっぶな~! マジで喰い殺されるとこだった!」
「うるさいよさっきから。なにしてんの?」
「いや聞いてなかったの⁉ 兄貴暴れ散らかしてるよ家の前で!」
「ちっ! なんだこの障壁は。魔物を通さないようになってるのか」
「なんだお前。もう今日は用もないなら早く帰れよ。親父が心配するぞ~」
「なめ腐りやがって……いいだろう。お前たちに一つだけ教えといてやる」
「もういいって。魚食ってるから。絶対一つだけにしてね」
「私はこの国を乗っ取ることにした!」
「あぁそうなのか。おっし。一つ言ったな。お疲れ! カンパチ旨めぇなお前ら~」
「なんでそんな興味ないんだよ! ヘンドリクス! 城はもう魔物の手に染まっているぞ」
「なんだって⁉ 兄上……そこまで堕ちたのですか……」
「なに? そんなやばい状況?」
「やばいわよ! 城が乗っ取られたって……ロマーニ師が……」
「あぁマカロンなぁ。まぁ歳も歳だし……ね?」
「あんたどこまで薄情なのよ! 絶対、死んでほしくないわ!」
「どうなっているだろうな。早く城に来ないと大変なことになるぞ」
「やばいわエデン。魚食べている場合じゃないわ!」
「え~! せっかく頑張って釣り上げたのになぁギョロ美ちゃん!」
「そうねぇ~! この子たちも早く食べてくださいって言ってるわ……」
「そんなの聞いたら悲しいわよ! それなら急いで食べるわよもう!」
「みんなで掻き込むんやぁ~! 急げぇ~」
少し違和感を感じたランドレスが訊ねた。
「……そもそもなんで魔物が勇者に協力してんの?」
「好きだからに決まってんでしょ~! あんたの百倍イケメンよ! 鼻でか白髪ちゃん!」
「私は鼻もでかくないし、白髪でもない! これは灰色だ!」
「うさん臭い兄ちゃんやなぁ~。白髪染めてんちゃうの~?」
「……お前だけは城に来た時点で殺す」
「なんかわてだけ厳しくない⁉」
「とりあえずわかったろ? 今、魚を一杯食ってるからhぶxヴsxvsvぅs」
「エデン。口から魚こぼれまくってるわ」
ランドレスは、本当にこんなやつらがS級ランクの魔物三体も倒したのか甚だ疑問だった。
おちゃらけているだけで本気で世界を救う気などあるのだろうか。
「お前らこっちが心配になるレベルだよ……急がないと国が終わるぞ! じゃあな」
ランドレスはコカトリスと共に城へ戻っていった。
――私たちは魚のことで頭がいっぱいで、城のことはそれほど気にしていなかった。




