第78話 勇者、第一王子と出会う
その頃、私たち勇者一行は人が少ない海に面した岩場へ来ていた。
「いや~。やっぱ都会の喧騒を離れると気持ちいいなぁ~」
「すぐそこだよ家。でも、立派な岩場だ。ここなら釣りできそうだな」
「私たち、本当に暇ね~。てか、ギョロ美ちゃん的に仲間が釣られるのは大丈夫なの?」
「ええ。それも弱肉強食だからしょうがないわよねぇ~。しかも、エデン様に食べてもらえるなんて羨ましいかぎりだわ~!」
「……そう。聞いた私が間違いだったわね」
「よし! じゃあ餌作ろう。トモミチ! お前の死肉!」
「えぇ⁉ わしって餌要員だったんどすかぁ⁉」
「グールの血肉が一番食いつくらしいから! 早く!」
「めちゃくちゃや……わてだって釣りしたかったのに……」
「自分の肉でできるじゃん。地産地消って感じだな」
「どこがですの! もういいですわ好きなだけ持っていってくだせぇ!」
トモミチの肉片で釣りをするなど、なんともエグイ光景だ。それでも野次馬から離れ、満面の笑みで私たちは釣りを楽しんでいた。
ちょうどその頃――。
「ここが勇者の家……なんかめっちゃ人いるなぁ」
「あ、勇者様の関係者ですか⁉」
「えっ? 違う違う! なんだお前らは!」
「助けてくださいよ~。一目勇者様を見たいだけなのに番犬がいて」
「番犬だと……?」
「ガォオオオオオオオオオオオ!」
「おい待て。あれはケルベロスじゃないか。お前たち今すぐ離れろ! ここは危険だ」
「えっあれケルベロスなのか⁉ 早く逃げよう!」
野次馬が去っていった。そのうちにランドレスは中の様子を確認しようとした。しかし。
「ガォオオ!」
家の前に犬小屋設置してあり、ケルベロスが勇者宅の番犬をしている限り入れない。
一瞬、ランドレスがケルベロスと目を合わす。すると、ケルベロスは大人しくなってしまい戦意を喪失してしまった。
「さて……おい勇者! 早く出てこい。我が名はランドレス! この国の第一王子である」
なにも返答がなかった。すると、プールサイドから声が聞こえた。
「その声はランドレスか?」
「ん? まさかお前は……ハマエルか? なにをしているそんなところで」
「まさかあなたにこんなところを見られるなんてね……情けない限りですよ」
「そうか。魔王様が言っていたハマエルが帰ってこない原因はここに監禁されていたからか」
「そうだ。だが、今の私なぞ魔王様に合わせる顔などない。会ったら殺される」
「なるほどな。これはいい手土産になりそうだ」
「は? なにを言っている? 北方から帰ってきたばかりでまた向こうへ帰るのだろう?」
「ふん。ハマエルにはそう伝わっているのか。お前の失敗で俺にすべてが任されたんだよ」
「まさか……この国を滅ぼしに来たのか?」
「もう計画は始まっているんだ。そのために俺は『契約』も済ました」
「……馬鹿な人間だ。もう後戻りできないぞ」
「あぁ。だからもう城ではあの方が――」
そんな話を玄関までしていると、釣りを終えた勇者一行が家に帰ってきた。
「むっ。なにやら灰色髪の怪しいやつ発見! いっけぇ! エクスカリバー!」
「いやあんた早いってエデン! あの方は――」
もう遅かった。まだなにもしていないのにエデンはエクスカリバーを振りかざした。
衝撃波がランドレスめがけて襲い掛かる。
「えっなに?」
ランドレスの横をとんでもない衝撃波が通りすぎた。地面には大きな傷跡ができていた。
「ちっ! また外しちまった!」
「あっぶな! 当てるつもりとかヤバいだろお前! 誰なんだ一体⁉」
「よかったわ外れて……失礼しました! 今のはその……挨拶みたいなものなのです」
「えっ。そうではないんだけど……」
「黙りなさい! この方は――」
「ランドレス第一王子――。俺の兄上だ」
――新たな火種が勇者たちのもとにやってきた。




