第73話 勇者、もはやアイテムのおかげ
トモミチ一行は私たちに地下を案内させるためのグールを一匹残しておいてくれていた。
案内役のグールと共に私たちは地下を巡る。今度は前のゴブリンの洞窟よりもさらに複雑な洞窟であった。しかも穴のサイズも大きい。ヒュドラがここを通ってきている証拠だ。
そして、戦いの音が聞こえ始めた。もうすぐだ。そこに、トモミチと卵王がいる。前に討伐したマンティコアがいた洞窟よりもさらに広い空間で二人は戦っていた。
ヒュドラを眼前に捉えた。こちらもケルベロス同様、見上げるほど体長がデカく十メートルは優に超えている。そして、猛毒の牙を持つ九つの首が縦横無尽に襲い掛かっていた。
その牙に対して、二人は延々と対峙していた。いや、どちらかというとトモミチだけが踏ん張って戦っていた。後ろで卵王が指示を出している。
状況は、ただただヒュドラの攻撃を耐えているだけだった。特に交戦しているわけではなかった。
おそらく、卵王の魔法でトモミチの分身を増やして戦わせている。分身ならただ影として消えるだけだが、本物でも勇者の羽衣でなんとか傷をごまかせる戦法だった。
私たちが来るまでの二時間超。ずっとこのように戦っていたらしい。
「あっやっと来たかお前ら! 遅いじゃないか!」
「ちょおおおおおお! やばいですってエデンはん! はよ倒したってください! わしが死んでしまうさかいにぃ!」
「今回は少しだけトモミチに同情するよ……」
「そうでっしゃろ⁉ こやつ従わなかったら奴隷紋使うって言ってくるさかいに従うしかなかったんですわぁ! お願いします! はよぅ助けてくださいまし!」
会話中もヒュドラの猛追は続いていた。器用なことに会話をしながらただのグールのくせに上手いこと攻撃を避けているのがエデンには滑稽に見えてきた。
「すごいなこれ。面白いからあと何時間攻撃に耐えられるか、賭けでもするか」
「見せもんちゃいまっせエデンはぁん! はよ助けてくれな死にますって!」
「ギョワアアアアアアアアアアアアアアア!」
さすがのヒュドラも成す術がなくなってきたのか怒り狂って咆哮した。そして、トモミチの周辺だけではなく私たちに向けても猛毒を吐き出してきた。
「やばいわ! 防御障壁!」
その毒は岩をも溶かす。すぐに障壁を張ったものの、毒から発生するガスが洞窟に充満するのは時間の問題だった。そして、そのガスを吸ったのかトモミチはすでに動けなくなっていた。
「あっやば。様子見すぎたなこりゃ」
「さすがに殺すのは可哀想だ! 助けに行くぞ!」
私が卵王に障壁を張り、卵王が急いでトモミチを助けに行った。息が止まりかけていた。治癒魔法をかける。毒がトモミチを蝕んでいた。
「やばい状況ねエデン……どうする?」
「こいつは食っても美味しくなさそうだし、ペットでもキモいし転送するか」
「ここまで大きな魔物の転移ができるものなの?」
「こいつの出番だな。そんで魔王城に返してくるわ」
「えっ魔王城に行くの⁉ 自殺行為よやめなさい!」
「大丈夫だって。混乱に乗じて帰ってくるからさ。実はこの『ミニマムライト』小さくした後、もう一回、照射すると元の大きさに戻るからさ。それで、魔王城てんやわんやなるだろ」
「そんな効果あるのねそれ……。頼むわよエデン……絶対死なないで」
「大丈夫。どうしても、リヴァイアサン食べたいからね」
「死にたくない理由そこなんだ……」
エデンに防御障壁を張った。ヒュドラへ向かっていく。エデンが身体能力を向上させているため、ケルベロス同様、姿が見えていなかった。そのまま、背後へと回り込み、ヒュドラが気づかぬうちに体を小さくした。
「キュワアアアアアアアアアアアアアアアア!」
もはや、恐るべき姿ではなくなった。かわいい九つの首を持った、ただの蛇になった。
「じゃあ、みんな行ってくるわ! その間にこの毒が充満した洞窟の浄化とかできる?」
「わかったわ。風の精霊の力で浄化しとくわ! 終わったらビーチでパーティーよ!」
「いいねぇ! 任せたぞ!」
――エデンは、ヒュドラと共に魔王城へ転移した。




