第7話 勇者、登場せず
翌日、今日こそ勇者と共に冒険に出る。そう考え、すでに旅支度をしていた。
そこに、私の師匠である大賢者ロマーニ老師が訪ねてきた。
「アネスや。まだここにおるのか? 勇者と共に冒険へ出ると聞いておったのじゃが……」
「すみません、老師。これがなにかと厄介な勇者でして……まだ出立できておりません」
「就活?」
「出立です。今更、就活はいたしません」
老師は齢八十。もう耳はほぼ聞こえていない。だが、魔法の腕は今でも超一流だ。
「そうかい。お前がまだ旅に出ていないと聞いてワシが王より拷問を受けておるよ」
「ご、拷問⁉ こんな老師を痛めつけるとはなんとも無慈悲な……」
「やから、なるべくはよいってもらえると助かる。まぁ拷問は拷問で気持ちええんじゃが」
「えっ? 老師今なんと?」
「なにも言っとらんよ。さぁはよいけ。軟弱者が」
「最後のあいさつにしては厳しくないですか?」
なにはともあれ、老師は私のせいで痛めつけられているらしい。早く冒険へ出ないと。向かうは、勇者の家。なにかと遠くて腹が立つ。
【ピンポーン】いつもの音が鳴り響く。そして、出迎えたのはグールのトモミチだった。
「またお前かい! 毎日この家に来てるの?」
「ヘイ。兄貴に呼ばれればいつだってきますわなぁ」
「で、その兄貴は今どこにいるのよ」
「まぁそう慌てなさるな。とりあえず、『プール』にでも入ったらどないでっか?」
「『プール』?」
「そうですわ。この水場みたいになってるのが『プール』っちゅうもんらしいですわ。まぁ小さい海とでも考えてもらえればええです。しかも、温水になってていつの季節でも泳げるっちゅう代物ですわぁ」
「なるほど……これは『プール』というのね」
「さようですわ。この家は我々には見たこともないモノで埋め尽くされておりますわなぁ」
「あのドアについているモノも転生勇者の時代にあったモノっていうことね」
「そうですわ。あれは『インターホン』っていうモノらしいですわ」
「『インターホン』……このでかい家には必要なモノね」
「ささ。まぁこの服に着替えてもらって泳ぎなはれや。その間に勇者様呼んでくるさかいに」
渡されたのは、なんともこの時代にそぐわぬ胸と下半身を隠す『水着』だった。
「なによこれ。こんなの恥ずかしいじゃないのよ」
「いやいや、乳姉。これは勇者様の時代では普通の代物でさあね。着てみたらわかるものですわな。それで泳いだら心地いいのなんの……」
「乳姉言うな! 本当に大丈夫なんでしょうね……」
怪しすぎるが、とりあえず着替えてみることにした。少し露出は多い。だが、解放
感があってこれで泳ぐことを考えるとすごく気持ちいいだろうと考えてしまった。
「トモミチ。着替えたわよ。じゃあさっさと勇者様呼んできなさいよ」
「うっひょ~。これはこれはお似合いで……ささ、どうぞお入りください」
トモミチが首からなにかぶら下げているのが気になったが、とりあえずプールに入ってみた。
泳ぐのには慣れていなかったが、すごく気持ちよかった。その間、トモミチが首からぶら下げているモノから『カシャ』『パシャ』みたいな音が聞こえていた。




