第6話 勇者、冒険へ出ず
「そんなわけにはいかないわよ! 我々、西のゴードン王国として魔王を討伐すれば一生、国は繁栄を約束されるわ」
「誰に約束されてるんだよ?」
「……まぁそれは国が有名になれば人の往来は増えるでしょう?」
「誰も約束してないんだな? じゃあ俺は遠慮しときます。自分が幸せならそれでいいので」
「ちょっと⁉ あんた勇者の職務を放棄しないでよ!」
「ちょっと~。先輩やめてくださいよ~。パワハラじゃないっすか~」
「ぱ……ぱわはらってなに⁉」
「心身に支障をきたしましたよ……先輩に恫喝されたら怖いですよぉ。僕だって人間なんですから……」
「こいつめっちゃ被害者面してきやがる! めんどくさいから行かないだけでしょ?」
「違いますよ~。忙しいだけですよ~。悩める国民を救うことで精いっぱいなんですよ~」
「なにを救ってるのよあなた! それよりもまず魔王を討伐しに行くのよ普通!」
「いや~。思ったよりも金貸しの仕事が儲かっちゃて……悩める国民多いんだよね」
「おおおい! 勇者が金貸しの仕事なんてしないでよ! さっさと王のところへ行くわよ!」
「わかったわかった。まずはそっちの仕事が落ち着いたらでいいか?」
「……いつ落ち着くのよそれ?」
「十年後ぐらいかなぁ」
「最初から行く気ないでしょあなた⁉」
「じゃあお前も手伝ってくれよ」
「なんで私が手伝うのよ⁉」
「一緒に行きたいんだろ? なら、そっちを落ち着かせてからじゃないと俺は行けないなぁ」
「……ちょっと考えさせなさい。どうにかできるか城に帰って相談してみるわ」
「あぁ。わかった。帰れ帰れ」
「冷たくない⁉ なんであんたみたいな人間が転生勇者なのよ……」
「じゃあ待ってるぞ~。あと、足臭いからちゃんと洗えよ~」
「うるさいわよ!」
勇者があれほどのクズ人間だとは思わなかった。話しているだけで喉と心が憔悴しきった私は、ボロ雑巾のように城につき、王に報告した。
「どうであったアネスよ。勇者には会えたか?」
「……いえ。どうやら留守で会えませんでしたのでこのまま引き続き調査いたします」
もう嘘をつくことしかできなかった。こんな出来事を報告するわけにはいかない。
自室に戻った時、ふと思い返した。
「そういや、あいつの名前すら聞いてないわね!」
もう疲れ切っていた私は、自然とそう叫んだあと、泥のように眠っていた。




