第69話 勇者、ケルベロスと戦う
「無駄なことを。どれだけの間、生きてきた魔物だと思っている。倒せるはずなかろう」
「うるせぇぞ。金クソ堕天使」
「おい! 純粋な悪口やめろ!」
「え~と、じゃあ地上のケルベロスは俺とあーちゃんで行くか」
そこで卵王が驚いたように声を上げる。
「ちょっと待て! 俺一人でヒュドラか⁉ 勝てるわけないだろ!」
「いや、いるだろ。俺たちには立派な戦士(奴隷)がよ」
檻の中にいるトモミチを見た。露骨に嫌そうな顔をしていた。
「ちょっと待ってくれやぁ! そこでワイ殺す気やろ! それだけはやめてくれぇ!」
「大丈夫。二人でなんとか時間を稼いでくれ。最悪、一人は犠牲にしても構わない」
「ワイの声聞こえとる⁉ やっぱり殺されてまうぅうううう! いやぁあああああああ!」
「あいつを使ってやってくれ。卵王」
「……心配でしかない。頼むから急いでケルベロスを倒してくれ。頼んだぞ」
シュッと消えるようにして、トモミチからヒュドラの情報を聞きだし、二人で向かっていった。
呟くようにハマエルは語りかけてくる。
「さぁ……楽しみだなエデン。これは俺とお前の戦争――」
「よ~し。じゃあ早速行くか。あーちゃん」
「無視するな! まだ私の話を聞け!」
どうせしょうもない話だろと勇者は呟き、私たちは転移魔法でケルベロスの所へ向かった。
卵王から聞いた魔物の出現場所は、ゴードン王国からそれほど離れていない南方の岩稜地帯。岩がひしめく道なき道。平民や行商人たちが踏み歩いたその跡が、国と国を結ぶ道になっている。そのだだっ広い地帯に、突如ケルベロスが出現したという。
すでに多くの兵士が向かったもののあえなく撃沈しているらしい。私たちが着いたころには、やはり惨状となっていた。なんとか戦っている兵士が五、六人。他の兵士はすべて動けなくなっている。
元凶の魔物が暴れていた。名をケルベロス。三頭の頭を持つ冥府の番犬。その体躯は人間が見上げる程高く、およそ十メートルはあるだろう。そのような魔物が荒れ狂えば場が混沌と化すのに時間はかからない。
「エデン……あれよ。あれがケルベロスよ」
「ふ~ん。すごいことになっているな。兵士たち大変そうだなぁ」
「なに言ってるの! 早く助けるわよ!」
「ちょっと待てあーちゃん!」
「なによ! 早くしないと兵士が全滅するわよ!」
「あのケルベロス……案外、毛並みがモフモフしてるぞ!」
「後で言ってくれない⁉ 今どうでもいいから!」
「これは大事なことだぞ……ちょっと具現化能力使うから時間稼いどいて~」
「またあんたってやつは! 前と同じじゃない。早く来なさいよ!」
「へいへ~い」
エデンはこの状況でものんびりしているので放っておくしかない。私は急いで戦場へと向かった。兵士たちが圧されている。兵士たちを逃がすため、私はケルベロスに対して拘束魔法を使った。
「チェーンエッジ! 私たちは勇者の仲間よ! 早く逃げてあなたたち!」
「勇者が来てくれたのか! す、すまない! 助かった!」
兵士たちがお互いの傷をかばい合いながら安全な場所へ避難する。
ケルベロスを一時的に拘束することはできたが、ものすごいパワーだ。長くは持たないだろう。次の対策を立てる。伝説上の生き物になにが通用するかわからないが、雷の魔法を使用した。
「最大出力……トライデント・ストライク!」
天空から大きな雷の一撃をケルベロスに与えた。ギョロ美ちゃんのトライデントの力を参考にし、自分で魔法を編み出した。私が持つ雷魔法で最も威力が高いものになった。直撃させられれば、その辺の魔物など一撃で焼き殺せるだろう。だが。
「ウォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!」
咆哮をあげる。痛みなど感じていないようなその雄たけびは、私の耳を潰す勢いだった。
ケルベロスを拘束していた鎖がはじけ飛んだその時には、私の目の前にケルベロスの牙が迫ってきていた。目を離した一瞬で距離を詰められ、襲い掛かってきたのだ。
瞬時に防御障壁を張ったが、勢いすさまじく、私ははじけ飛ばされ、岩に叩きつけられた。障壁がなければかみ殺されて一撃で死んでいた。
「……っく」
圧倒的な差だった。これが伝説級。さすがに一人で太刀打ちできるものではなかった。
ゆっくりとケルベロスが迫ってくる。そして、ケルベロスの三頭の口に炎が宿りだす。まずいと感じたその瞬間、三つの頭からこの一帯を包むほどの業火が私に向かって吐き出された。
逃げられない。障壁を張る時間がなかった。死ぬ――そう思った瞬間。




