第68話 勇者、追い詰められる
一方その頃、私たちはハマエルの予想通り、ぐうたらしていた。すぐ襲い掛かってくると思っていたが、あれから一ヶ月経って完全に気が緩んでいた。
「そういえば、ハマエル。まだなにもしてこないわねぇ」
「あぁ。いたなぁそんなやつも。いざとなって怖気づいたんだろ」
「どこまでいっても失礼ねあんたは……この間に異変が起きてなければいいけど」
「おいおい。また前フリなんかしちゃってあーちゃんはさぁ~。そんなことばっか言ってるとくるんじゃないのか~?」
「そんなつもりじゃないのよ! ただ、あれだけ怒っていたハマエル様がなにもしないなんてことは――」
そんなことを話していると、漫画を読んでいたギョロ美ちゃんの様子が変わった。
「やばいわエデン様……海からとんでもない魔物の気配がするわ……」
そして、屋根裏から斥候の卵王も慌てた様子で伝えてくる。
「エデン! そこでランチしていたら国民が慌てていて、どうやらこの国の近辺に巨大な魔物が現れたらしいぞ。すでに兵士が向かっているらしい!」
外の檻の中にいたトモミチにも、どうやら他のグールから情報が入ったらしい。
「エデンはん! 大変なことになっとるで……とんでもない魔物が地下の洞窟からこの国へ向かって来とるみたいや! もう近いらしいでぇ!」
「……やばっ。結構大ごとじゃないこれ?」
「エデン。もしかしてこれって……」
「そうだエデン。私だよ。待たせてすまなかったなぁ!」
予想通り、天空からハマエルが舞い降りる。長い準備を済ませ一気に魔物を動かし始めた。
「いや。そんなに待ってないよ。また来年ぐらいに来てくれない?」
「そんなわけにいくか! 残念ながらお前らはもう終わりなんだよ……」
「もう勘弁してよ~。前もこんなことあって疲れたのにまた頑張らないといけないの~?」
「頑張るどころで済むと思っているのか? 俺がこの国の近辺に放った魔物はすべてS級だ」
「なんですって⁉」
「海に放ったのはリヴァイアサン。北方の海で暴れ狂っていた魔物。地下からはヒュドラ。蛇の頭を九つ持つ地下に眠る迷宮の財宝を守護していた伝説の魔物。そして最後にケルベロスだ。魔王城の守護をしている冥府の番犬だ!」
「なんだって⁉ 長文でよくわからなかったから、もう一回言ってくれ」
「あぁ……ほんとに聞こえてなかったのね。まぁいい! すごい魔物がいっぱいこの国に向かっているってことだよ! お前らは終わったんだよ!」
「エデン……さすがにこれは大変な事態よ。ここに向かっている魔物はすべて伝説級……私では手も、足も出ない。前に倒したマンティコア級が三体もいる……」
「あ、なんだ。あれくらいなの? ならなんとかなりそうだけどな」
「お前が強すぎるのはわかっているんだよエデン。だから、準備をしていたのさ。同時にこの国を攻めてお前が一匹にしか対処できないうちに残りの二体で国を滅ぼしてやるってな!」
「あ~なるほど。そういうことか。それは結構やばそ」
「あんた! 落ち着いてる場合じゃないわよ! 本当に滅んじゃうレベルよ……」
「う~んなんとかしないとなぁ。みんなどうにかできる?」
「できるか! ぜんぶあなたが招いたことなのよ!」
だが、一匹の魔物が自信をもってこう答えた。
「……エデン様。リヴァイアサンの方は深海国のみんなと力を合わせて私がなんとか食い止めてみせるわ。だから、その間に他の魔物をどうにかしてちょうだい!」
「ギョロ美ちゃん⁉ それは命がけじゃないの! 本当に大丈夫なの?」
「やって見せるわ。ここで力を発揮しなくちゃ次期国王の名に泥を塗ることになるわぁ!」
「ギョロ美ちゃん。お前は半魚人の中の半魚人だよ。最悪、ギョロ隈兄さんを犠牲にして踏ん張ってくれ!」
「わかったわ! なんとかしてみせるわ!」
――ギョロ美ちゃんは急いで深海国へと向かっていった。その顔には死をも覚悟した女(男)の決意がはっきりと浮かんでいた。




