第67話 勇者、危機が近づく
ハマエルはすぐに魔王城に向かった。魔王と勇者のことで話があると伝えた。
魔王の間へ通されると、早速、勇者のことで言及された。
「久しぶりじゃない? 何年ぶりだよ~ハマ君。そんなことより西の勇者はいつ来るの?」
「話の展開早いですグランドニエル様……あと先月も来ましたよ」
魔王グランドニエル。この世界を魔物で満たす諸悪の根源。本来、守護天使という存在が謁見するなど禁忌に値する。だが、勇者を供物として魔王城へ斡旋しているハマエルは斡旋料として魔王から金を得ているため、特別に許可されている。
魔王は意外とラフに接してくれてはいるが、人間やミスを犯した魔物には容赦はない。
「君が連れてくるって言ったんだよ? だから、斡旋料渡したんじゃん~。約束は守ってくれないと~」
「……それがとんでもない勇者でして、全然来ようともしたがらないですよ……」
「なんで来ないのさ! 転生勇者なんでしょ? おかしいじゃん」
「そうなんです。本当におかしいですよ。あいつは」
「なに言ってる? おかしいのは君だよ」
「……えっ?」
「いや転生勇者としてこの世界に導いているのは君じゃん? その君がここに連れてこられない事態になっていること自体がおかしいといってんだよ~。わかる?」
至極、ごもっともなことを言われてハマエルはなにも言い返せなかった。
「だからさ~。君の監督不行き届きだよこれは。反省しないと。指一本いっとく?」
「ちょっと待ってください! 勘弁してください!」
「……冗談じゃ~ん! 君がこのままで終わらせるわけがないよね? なにか策があるんでしょ?」
冗談の顔ではなかった。本気で指を取りに来ていた。そう感じたハマエルは恐る恐る口を開いた。
「……勇者のいる国を滅ぼしたいと思っております」
「いくとこまでいくね~。で、どうやって滅ぼすのさ」
「そのことで今日はご相談したいことがあるのです。魔物をお貸しできませんでしょうか?」
「えぇ~。そんな安くないようちの魔物は。んで、どんな魔物借りたいの?」
「できればS級ランクの魔物を三体ほど――」
「ハマ君……舐めんのも大概にしようか?」
全身がすくみあがるほどの威圧的で低い声だった。完全に魔王は怒っている。
「それほどの魔物を貸すってなると、こちらにもかなりのリスクがある。しかも、S級。いろんなところで勇者たちと戦闘している魔物もいる。それを貸すってことはどういうことかわかるか?」
「……負ければ魔王側にとって相当な痛手になります」
「そうだろ? それだけじゃない。S級の魔物がいなくなれば魔物側が支配している地域を簡単に奪取される。そもそも人間の国を一つ滅ぼすのに、どれだけの時間がかかるかわかる?」
「……あの勇者のことです。かなりの時間を要するかと……」
「そういうわけだ。そういった状況でも借りたいというならそれ相応の覚悟が君にも必要だ」
「……わかりました。もし負けてしまった場合、私は堕天使となり魔王軍に正式に加入いたします。そして、勇者を滅ぼすことを――」
「いらないよ~負けたやつなんて。そうなったら君の命と交換だよ。当たり前だよね?」
「そんな……命はさすがに……」
「甘いなぁハマ君。だから、君はよくわからない勇者に負けたんじゃないのかい?」
ハマエルの心が揺さぶられる。魔王に核心を突かれたような気がした。
今まで散々、甘やかしてきた勇者にあっさり負けて自分の弱さを知った。もうハマエルは負けるわけにはいかなかった。なりふり構っていられる状況ではなかった。
「……わかりました。約束しましょう。私の命を懸けます。ですので、S級の魔物をお貸しください! お願いいたします!」
「……いいねぇ。そうこなくっちゃ! よし。なら君が持っていきたい魔物を選んで持っていきなさい。あ、一応この契約書にサインしてね」
契約書? と疑問に思ったが、気づいた時にはサインしていた。もう、後には引けなかった。これで勇者に勝てる。
「ありがとうございます。グランドニエル様。絶対にここへ勇者の首を献上しに参ります」
「おう。まぁ気楽に頑張れよ~」
ハマエルは珠玉の魔物三体を選択し、ゴードン王国近辺へ放つことにした。
準備が完了するまで一ヶ月。あの勇者のことだ。どうせその間も遊び呆けているだろう。
これから勇者の死ぬ顔を拝めると思うとニヤケが止まらなかった。
というか、ここまでするくらいヤバい天使だったっけと自分でハマエルは考えていた。
――すべては、あの勇者エデンへの復讐のために。




