第63話 勇者、いつもの日常を送る
平凡な毎日だ。私たちはあれからも怠惰な日々を過ごしている。
その一方で、『勇者商会』の売上は過去最高益を更新し続けていた。見たこともない遊戯場の噂は、周辺諸国にも広がっていた。いまでは多くの人が訪れるいわば観光地扱いになっている。
その恩恵にあずかり、私たちはなにもせずとも大金を得ることができるようになっていた。そして、季節は冬を通り越し、とうとう春を迎えた。勇者と出会って早一年。
「……ちょっと待って。本当にこの一年、私なにしてたんだろう」
「なにって漫画やゲームだろ? 一番楽しそうにしてたじゃないか」
「私主導じゃないわよ! エデン。あなたが薦めるからじゃない!」
「それを選択してるのはあーちゃんだからなぁ」
「そうよぉ。人のせいにしちゃいけないわあーちゃん」
横から口を挟んだギョロ美は家族間の問題が解決して、益々元気になり日々を過ごせるようになった。
「うっ……ギョロ美ちゃんに言われるとなにも反論できないわね」
「確かになぁ……俺も全然城に帰ることもなくなってしまったよ」
卵王も横で呟く。するとエデンがこう言った。
「卵王。お前……アニオタになっただろ?」
「……なにをいう。俺は芸術としてアニメが好きなだけだぞ?」
「卵王。こう言ってはなんですが、あなた幼女系アニメばかり見ていませんか?」
「え、はい? そんなことありませんけど?」
「しかも、無表情で凝視するようにな。お前、将来犯罪者になれるよ」
「失礼なことを言うな! 俺は危害を加えるようなことはしない! ただ、たまーに可愛い子供たちが集まっているのをだな――」
「卵王。あなたストーキングとかしてないですよね?」
「……安全に帰宅できるように、見守っているだけだ」
「あ~もしもし。そちら衛兵隊の方でしょうか? 今、僕の家にストーカーがいまして――」
「待て待て待て! 変な交信をするな! さすがに現実はヤバいと思って最近は自重している!」
「本当かなぁ……そういう変態はすぐにはやめないからなぁ」
「変態って言うな! この国を将来、背負って立つかもしれない子供を好きでなにが悪いんだ!」
「……それとストーカー行為は別ですよ?」
「……反省します」
「卵王ちゃん。そんな子供じゃなくていつでも私がお相手差し上げますからねぇえ!」
「大丈夫。まだ魚人の趣味はないから」
楽しく会話しているところに、外のプールサイドから声が聞こえる。
「あ、あの~!」
「……うるさいなぁ。なんだよクソミチ」
「まずはトモミチに名前を戻していただきたいところですが、この檻からはいつ頃出られるんでっしゃろー!」
深海国での一件以降、誰からも信頼を失ったトモミチは、人並みに生活ができる檻に収監されていた。外にあるので、この冬を乗り越えるのは大変だっただろう。
「う〜ん。その命の灯火が消え失せるまでかな」
「それ死んでますて! 冬本当にそうなりそうでしたでぇ! そろそろ出してくれまへんやろかぁ!」
「え〜みんなどうする? 殺す?」
「違いますて! 問いがおかしいですて!」
「口縫いたいなぁ。うるさいし……まぁしょうがない。そろそろ出してやるか」
檻をエデンが開ける。ゆっくりと出てきたトモミチは家へ入り、皆に土下座していた。
「ほんまにすんまへんでした! もうあんなことは一生、しまへん! 仲間としてもう一度認めてくださいまへんやろか! ……とでも言うと思ったかぁああああああ!」
なにも変わっていなかった。全員、エデンから奴隷紋を操る魔法を授かっていたので当然その瞬間、トモミチの意識は飛んだ。
「……ハッ! ちょっと待ってや。今何時や⁉」
「ん? 寝てたのか? 三時間ぐらい経ってるぞ」
「あれ……わて檻から出てなかったかいな?」
「出てないわよ。あなたはずっとそこにいたわ」
「そうねぇ。そこで寝てるのは見えましたわよ」
「大丈夫。お前の居場所はずっとそこだよ。トモミチ」
「そ、そうでしたかいな……出してもらえた気がしたんですが……」
意識だけではなく、記憶まで飛ぶようになっていた。 私たちの中で、もうトモミチは考えを変える気がないとわかったため、永遠に幽閉すると決めた。なにも後悔などなかった。
「さ、みんなでまたゲームしようか」
「そうね。これでちょうど四人だし」
「楽しみねぇ〜。なにしようかしら今日は」
「そろそろ俺もゲームに慣れてきたからなぁ〜。なんでもいいぞ!」
「……わてもそこに入れてくれまへんやろかぁ!」
「大丈夫。お前には永遠に退屈しないようにいいものを置いておいたぞ」
「えっ⁉ 通信対戦でもできるようにしてくれたんやろか! ありがとうやで!」
「そんなわけないだろ。『ジェンガ』っていうもの置いといたからそれやっとけよ。めちゃくちゃ楽しいから」
「おお〜。なんや不思議な棒やな。これを積んでくんやなぁ! 楽しみやでぇ」
「エデン。あれはどういうゲームなの?」
「一人でやっていたら精神崩壊するだろうな……」
エデンの予想通り、トモミチの笑顔はたった三日で消え失せていた。
私たちは日常を毎日過ごしていた。安泰だった。
そんな私たちの様子をずっと怒りに満ちた表情で天空から眺めている者がいた。
――そして、ついに審判の時がきた。




