第62話 勇者、抜け目などない
私は気になったことがあったので、エデンに訊ねてみた。
「あなたもし、あのじゃんけんに負けてたら、どうするつもりだったのよ」
「いいや。そもそも負けるはずはなかったんだよ」
「……えっどういうこと?」
「あれ極端にいえば動体視力なんだよ。だから、目に『動体視力向上』の魔法かけて相手の手を先読みしたんだ。だから、俺の方が実はコンマ一秒手を出すのが遅いんだよ」
「……あなた本当に抜け目ないわね……最初から真剣勝負なんてする気なかったのね⁉」
「いやいや。それも真剣勝負だから。半魚人の『勇者商会』での労働力は捨てられないし、ギョロ美ちゃんもキャラいいし、絶対勝たなきゃならなかったんだよ」
「エデン……お前は魔物というより悪魔だよ。一緒にいるのが怖くなってきた」
「なんでだよ。これで丸く収まっただろ? ギョロ美ちゃんも帰ってくるし、国も滅ばなかったし」
「まぁそれはそうなんだけど……」
「よっしゃ。今日も疲れたし、漫画やらアニメ見ながら寝るかぁ~」
「……まぁいいわ。これでいつもの日常に戻れるってことね」
「そうだな。読みたい漫画もあるし、とりあえず飯食べて休息を取ろう」
――久しぶりに身体を動かした私たちは、ご飯を食べるとそのまますぐに寝てしまった。
それから、一週間ほど経過した。私たちは海に現れた魔物どもを討伐したという嘘のような本当のことが国中に噂として広まり、勇者エデンは崇められる存在となっていた。
それに乗じて、さらに『勇者商会』の売上は増していった。私たちはもう魔王討伐のことなど忘れて自由な生活を謳歌していた。最近は魔導書なども読まず、漫画ばかり読んでいるが、これほど楽しいことはなかった。そして――。
「皆さぁん! ただいま戻りましたわぁ!」
ギョロ美ちゃんが帰ってきた。
「ギョロ美ちゃん! よく戻ってきたなぁ! なんとか深海国は収まったか?」
「すべての會を合併しましたの。私の力とトライデントでなんとかなりましたわぁ」
「すごいわねぇギョロ美ちゃん! 帰るなって言われなかった?」
「ママはすごく泣いてましたわ。でも、パパは男の約束に二言はないって言って笑顔で送り出してくれました。兄は相変わらず憎たらしい顔をしていましたけど」
「あの『沼兄貴』な。唇が分厚くてナマコみたいで気持ち悪かったよなぁ」
「言いすぎでしょ! 確かに変な顔してたけど」
「これでまたいつもメンバーといつもの日常を過ごせますわぁ!」
「そういうことですわなぁ! わてらやり遂げましたなぁ!」
なぜか、横にトモミチもいた。
「うわ臭いのいるじゃん! いくぞぉおお! 食らえこれが聖剣――」
「ちょっと待っておくなましぃ! わてですって! トモミチですってぇ!」
「なんだクソミチか。なんでお前いるんだよ。向こうで奴隷するはずだろ?」
「……それがグールの匂いが深海国で受け入れられず、奴隷としてもいらないと言われたんですの……」
「お前どこにも需要がないな。排水溝ぐらいしか居場所ないんじゃないか?」
「そんな暗い場所に追い込まんといてぇな! わての居場所はここしかないんでっせ!」
「はぁ……しょうがない。クソミチには奴隷紋を刻み込んであるんだ。みんなもこいつに苛立ったりしたら意識飛ばせるようにしとくわ」
メンバー全員に奴隷紋の魔法を授けてくれた。これでムカついたらいつでも意識を飛ばせるらしい。
「信頼無くなりすぎちゃいますかわて⁉ 絶対使わんといてくださいよ!」
「別にこいつのことだけで苛立たなくても使ってもいいぞ。カサブタ剥がれて地味に痛いとかそんなもんでも」
「ダメダメ! そんなことで使われてたら、わし日中意識失うことになりますて!」
「……まぁいいわ。どっちにしろこれでいつもメンバーになったってことね」
「よかったよ。またみんなで怠惰な生活を送ろうな!」
「そんなまとめ方ある?」
――私たちはこんな生活が長く続いてほしい。ただ、そう願うだけだった。




