第61話 勇者、なんとか争いを収める
「いいのだな? 圧倒的な力がありながらもそんな勝負で」
「あぁ。だが、舐めない方がいい。これは真剣勝負なんだ。死ぬ気で来いよ」
「よかろう。本気で挑ませてもらう」
海から深海国国王が上がってきた。その体躯は、はるかに人間を凌ぐ。トライデントをひっさげてきたが、砂浜にぶっ刺した。あくまで飾り。勝負はその拳一つで決まる。
二人は、配置につき目を合わす。そして、言葉を交わした。
「じゃあやろうか。俺が勝てばギョロ美ちゃんは地上で暮らす」
「私が勝てば二度と地上には来させない。いいな?」
全員が固唾をのんで勝負を見守っていた。王妃が言葉をかける。
「あなた~! 絶対に勝って。負けは許されないわよ~!」
「そうだそうだ! ギョロ美だけ地上なんてズルいぞ~!」
「ギョロ隈。あなたは黙ってなさい」
「あっはい。すいません」
「エデン。頼んだわよ」
「あぁ。だが、正直言うと、どっちでもよくなってきた」
「いやエデン様ぁ⁉ 私の気持ちを優先してくるんですわよね⁉」
「冗談だよ。勝ってみせるさ」
二人が相まみえる。勝負の態勢に入った。お互いの目が合った瞬間、互いの手が動いた。
「いくぞ! じゃんけん」
「「ポンッ!」」
お互いの声が大きく響いた。勝負はどうなった。全員が結果を見守る。
そして、大きく歓声を上げたのは勇者エデン側だった。
「よっしゃ~! やってやったぜ! 勝ったぞぉ!」
「よくやったわエデン! 一発勝負これは文句ないわ!」
「エデン様ぁ! 本当にありがとう! これで私は自由になれます……」
「まさか一番魚人が出しにくいであろうチョキを出してくるとは……さすが国王だな」
「あぁ。案外策士だぜ。あの国王は。それだけ本気だったんだよ。ギョロ美に対して」
見事に完敗した深海国国王ギョロ凱は、すべてを納得した口調で答えた。
「……完敗だよ勇者、いやエデンよ。くれぐれもギョロ美を頼んだぞ」
「あぁ。なにを任されたかはわかんないけど、地上の生活はサポートするぞ」
「ありがとう……それでは皆の者、退散だ。深海国へと戻るぞ。とりあえず深海国の争いを鎮めるため、少しの間ギョロ美を借りる。また、すぐに地上に戻すから安心してくれ」
「わかった。これでギョロ美ちゃんとトモミチを交換だな」
「エ、エデンはん? なに言うとりますん? わても一緒に解放されるんとちゃいますん?」
「えっ誰か行かないといけないからトモミチ、お前も頑張って来いよ。勇者の羽衣あるし争いも手伝って来い。そのあと、向こうで奴隷でもすればいいだろうし」
「『奴隷でもすればいいだろうし』⁉ そんなことありますん⁉ わてなんて要りませんよね魚人はん⁉」
どうせ要らないだろうと高を括っていたトモミチであったが、王妃から意外な回答があった。
「そもそもこいつのせいでギョロ美は連れていかれたのですから、奴隷にしましょう」
「お、王妃⁉ それだけは勘弁してくやぁ~! 地上で暮らさしてくれやぁ!」
「やったなトモミチ! お前のことは忘れないぞ」
エデンは簡単にお別れした。
「今までありがとう。トモミチ。楽しかったわ」
私も特に思い出がなかったので簡単に済ました。
「出会ってそんなにたってなかったからあんまりいうことがない。ありがとうな」
卵王はとにかくトモミチへの対応が冷たかった。
「ちょ、ちょっと待ってぇや! 助けてくれぇええええええ!」
「それでは、みなさま。深海国を鎮めてまいります。その後、またあの日々に戻れるのを楽しみにしていますわ」
皆でギョロ美ちゃんに声をかけて送り出す。魚人の大軍勢は一斉に海を去っていった。
――トモミチも連れていかれたが、そのことを気にする者はいなかった。




