第57話 勇者、今度こそ事情を聞く
「……う~ん。ありゃもう夕方になっちゃったか~」
「……おはよ~。ほんとね。カーテン閉めなきゃ」
「あぁ~よく寝たなぁ。腹減ったし俺がなんか作るぞ。斥候飯だ」
「みんなおはよう~。卵王ちゃんの斥候飯おいしいのよね~」
「俺たちの世界で例えるなら鶏肉にからしを練り込んで、叩きつけて後に焼き上げて、海に戻すって感じの味が好き――」
『海』というワードを聞いて皆が一斉に思い出した。
「あ! やばい。ギョロ美ちゃんの話聞いてない上に今日が約束の日だ!」
「そうだったわねぇ! やばいわ今日来てたのかしらぁ……」
「……しょうがないわよ。ここまで来たら忘れてたフリで行きましょう」
「確かに。もう俺たちにはできないしな。集合時間も聞いてないし」
気になった卵王がチラッとカーテンの隙間から海の様子を見て、叫んだ。
「おい! 悲しい夕焼けを背景にとんでもない数の魚人やらなんやらがいるぞ!」
「なんだと! それは……でかい岩とかじゃないか?」
「さすがに見間違うか! 昨日までにあんな大きいのはなかった!」
「……今日岩が生えたんじゃないか?」
「そんなわけないでしょ!」
「えぇ~でも、インターホン鳴らしてこなかったしな。そりゃ気づかんわ」
「確かにねぇ~。鳴らしてくれれば起きたのに」
「そういう問題ではないでしょ⁉ どうするのこれ……」
「ん~。今からギョロ美ちゃんの話は聞くとして、遅くなったらやめとくか」
「確かに。それが無難よねぇ」
「そうね。夜は出歩いたら危ないわよね」
「まぁこっちも漫画読んで疲れてるしな。しょうがないな」
卵王もツッコむことをやめた。
そして、ギョロ美ちゃんが皆の前でゆっくりと話し始めた。
「私、こう見えて半魚人なの」
「なにぃ⁉ そうだったのか」
「そういうのいいから早く話進めてよギョロ美ちゃん……」
「ごめんなさい。でも、私は地上の人間たちにずっと憧れてたのよ。たまに様子を見に行っては仲良くなれないか、ずっと機会を窺ってたの……私の生まれは『深海国スプラッシュマウントレーニア』の生まれ。そして、王族と言われる『ギョロの會』の第二王子よ」
「なんだそのおもしろアミューズメント飲料みたいな名前は!」
珍しく、エデンがツッコんでいた。
「そんでお前も王子かよ⁉ しかも、同じ第二王子……」
「なんちゅうメンバーなのよ、この勇者一行は……」
「そんな私は、周りから期待されていた。なぜかって私は『ギョロの會』で唯一、トライデントに選ばれた女(男)だったからよ」
「なるほど。あれにも選ばれるの理由があるのね」
「そうなの。他にも王族はいるのだけどトライデントは現国王とそれを受け継ぐであろう者しか持つことが許されないものなの。私はそれに選ばれてしまった。半魚人のなかで二番目に偉くなってしまったも同然だった。そこからは、修行の日々よ」
「確かになぁ。俺がトライデントならあの変な沼兄貴に触られたくないもんな」
「まぁ……ヌメヌメになりそうだしな」
「もしかしたら、それも私がトライデントに選ばれた理由でもあるかもしれないわね……」
「沼兄貴嫌われすぎだろ」
「それで、修行の日々でもう地上に行くことはほぼ不可能になってしまったわけね」
「そうだったの。でも、どうしてももう一度地上を見に行きたくて、配下の者の協力を得て、地上へ出た。そしたら出会ってしまったの。トモミチに」
「うわぁ……よりにもよってあいつかよ」
「王子様でもなんでもないわね」
「最悪のファンタジーだよ……」
「彼は、私たちを利用したのかもしれないけど、優しくしてくれたわ。それからも抜け出すたびに地上の情報をくれたり、近隣諸国の情勢なんかも教えてくれた。そして、運命のあの日を迎えたのよ。エデン様を奇襲するっていう作戦ね」
「あぁあれってやっぱりそんな感じだったんだ」
「勇者の記憶で見たけど、トモミチって魔物の中でも最悪な部類よねほんと」
「そんなことされたのか。あいつの人間性っていうかグール性がキモイな」
「すごい言われようね……でも、為す術なく敗れて、私恋しちゃったの。ここに私の王子様がいるって思っちゃって……深海国王子なんて肩書要らないからエデン様と過ごしたいって本気で思っちゃったのよ。でも、今は平和に過ごせるこの日々がなによりの宝物だわ」
「……ッひく。いいこと言ってくれるじゃねぇかギョロ美ちゃんよぉ……」
「あなたはなにも悪くないわ……自分で道は切り開いているもの」
「ギョロ美ちゃん。本当にすごいな。君は立派だよ……」
その瞬間、自然と皆で抱き合っていた。私たちはここで本当の友情を手に入れた気がした。
その日は、その思いを胸に、皆でゲームを楽しんだ。そして、いつも通り眠りについた。




