第45話 勇者、冬を迎える
壮絶な魔物との戦いから二ヶ月。季節はすでに冬を迎えていた。勇者一行は特にやることもなく、ゲームと漫画とアニメに明け暮れていた。
「それにしても何回やってもこのゲーム『ソラライド』は飽きないなぁ」
「でげすね~。もう百回ぐらいはこのモードやってますもんなぁ」
「そうねぇ。伝説のマシンを作り上げた時の興奮と言ったらないわぁ!」
「……確かに。周りのマシンをぶっ壊しに行けるのも最高よね」
私は、完全に『あちら側』に染まりつつあった。
「おいお前ら! あの緊迫する戦いから二ヶ月、なにもしてないじゃないか! まだまだ討伐依頼はあるんだぞ!」
天井裏から物申していた新たな仲間である王子『卵王』であったが、自身も勇者宅に居を構え、生活用品を持ち込み、家庭用ゲーム機で一人RPGを楽しんでいた。
「えぇ~。もう無理したくないもんなぁ。遠かったし」
「距離とかは関係ないだろ! 一瞬で行けるんだから!」
「聖拳使って手痛かったもんなぁ~。あんとき結構本気出したからね」
「二日だけ、筋肉痛になって終わっただろ!」
「卵王はん。どちらにせよ季節も冬になるし、外なんか出てられへんでぇ」
「そうよぉ~。冬なんて寒いだけなんだからぁ~!」
エデンが皆の意見を参考にして、こう宣言した。
「そうか。みんなの意見を尊重しよう。よし! 今年はもうなにもしない!」
「おい! 勝手に決めるな!」
「卵王子。仕方ありません……こうなったらテコでも動きませんからこいつらは」
そんなことを言っている私も、冬は苦手だ。できれば家に籠っておきたい。
「……君からの卵王子もちょっと傷つくなぁ。一応、僕の配下なはずなんだけど」
「あーちゃん。ここでのルールは守ろうな。『子』つけるのもやめよう。『卵王』でいこう」
「……申し訳ありません。エデンがこういうのでここでは『卵王』と呼ばせていただきます」
「君もそこまで勇者色に染まっているなんて思わなかったよ。あーちゃん……」
関係性がぐちゃぐちゃになった。賢者と王子という身分の差が友達感覚になってしまった。
「よし。それでこそ勇者一行というものだ。また一段と結束力が高まったな」
「なにが正解かわからなくなってきたわ……」
「よし。じゃあこれから寒くなるお前たちに特別なものを具現化してしんぜよう」
「おぉ! 一体、なんですかエデンはん!」
「それは、なんと『コタツ』だ!」
「なんですのそれは一体⁉」
「別名『あったかい机のような形をした悪魔』だ……」
「あ、悪魔やってぇ……どんなモノなんや一体……」
「いくぞぉ~……ほい!」
簡単に出てきた『コタツ』なるものは確かにただの机だ。だが、机に布団が挟まれている形になっていて中に入れる構造らしい。一同、中に体を入れてみる。
「う~ん……確かに外よりかはあったかぁなりますけど、空間が空いとって寒いっちゃ寒いですなぁ」
「エデン。これはみんなで温め合うっていう意味なのかしら?」
「そんなめんどくさいことするかよ……こっからがこいつの『真髄』だぞ?」
エデンは手に持っていた『コタツ』のスイッチを入れた。すると、みるみるうちに『コタツ』の温度が上昇していく。
「な、なんやこれは! あんなに冷え切った身体が一瞬であったまりましたで!」
「すごいわぁ! これならどんな冬でも乗り越えられるわ!」
「これはすごい……こんなモノがエデンの世界にあるんだな。革命だよこれは……」
「ふふふ……そうだろ。まぁそのまま各自過ごしてみな。そうすると、次の試練が襲い掛かってくるぜ」
「試練ですって? こんな気持ちいいものに試練なんてないでしょう?」
――私たちはエデンのしょうもない試練に付き合うことになった。




