第36話 勇者、第二王子と出会う
「……お前命が惜しくないとみえる。そこまでの根性気に入ったぜ」
「おいおい……俺はどんな拷問でも耐えてきた隠密だぜ。なにをしようが無駄だ」
「ギョロ美ちゃん。後は頼んだ。多分イケメンだぜこいつは」
「承知しましたわぁ~! 今のままでも充分ですわ!」
「おい……なにをする気だ」
「今からギョロ美ちゃんにベロチューをしてもらう。半魚人のベロチューは格別だぜ。唇がとれるらしい。そうしたあと、人間のお腹に魚卵をしこたま入れる儀式があるらしい。そうして半魚人は数を増やしている」
「えっ……ちょっと待ってくれ」
「どうした? なにか不満でもあるか? ギョロ美ちゃんの子孫欲しいだろ」
「当たり前よね~! かわいい子が生まれるわ! じゃあ行くわよ~!」
「ま、待て待て待て! 正体言うから! 頼む! やめて――」
聞こえていないのか、ギョロ美ちゃんは猛烈にベロチューしていた。
半魚人といえど魔物。生臭さとその勢いのある吸引力にその者はすぐに失神していた。その勢いで変装していた顔の面がすっぽりとれた。
その顔を見た瞬間、アネスはギョロ美ちゃんを制止した。
「ギョロ美ちゃん! ちょっと待って! この顔……もしかして」
「っんもう! これからって時に! 誰か知ってるのあーちゃん?」
「この方は……ゴードン王国第二王子『ヘンドリクスディアム・ゴードン』王子よ」
――勇者一行に、新たな火種が舞い降りてしまった。
「新たな人物が舞い降りた勇者一行ぉ! ただの怪しい奴かと思い、ギョロ美ちゃんが拷問した結果、なんとその正体は、ゴードン王国第二王子『ヘンドリクスディアム・ゴードン』であることが判明したんだぎゃ! なぜ変装をして我々を尾行していたのか。ギョロ美ちゃんのベロチューはどうだったのか。そもそも『もみあげ狩り』とはなんだったのか。様々な疑問が残る中、我々はそこに立ち尽くしていたぁ!」
「いや、うるせぇよトモミチ。なに急に喋りだしてんだよ」
「す、すんまへん。なんか口が勝手に……」
「後で、トモミチの喉は切り裂くとしてぇ~」
「えっ⁉ 今のだけで⁉」
「問題は、この『王子」ね……」
皆で意識不明の王子を運び、勇者宅へと戻った。まだ、目は覚ましていない。
その端正な顔立ちはまだ、幼く見える。美しい金髪の髪型で年齢は二十歳前後。身長はそれほど高くなく百六十センチほどだろうか。華奢ではあるが、貧相な体ではなく、ほどほどに筋肉がついているようだ。その体型を活かし、隠密行動をしているように見えた。
「あーちゃん。第二王子の存在は公にはなっているのか?」
「それが十八歳の時に消息を絶ったと私は聞かされていたわ。でも、顔は覚えているわ。よく城で見かけたもの」
「なるほど……こいつは事情ありって感じだな。俺たちに時間はない。すまんがギョロ美ちゃん。また頼めるか?」
「……ちょっとなにをする気よ」
「おっけ~、エデン様! ベロチューね!」
「ギョロ美ちゃんさすがに死んでしまうわ! やめてあげて!」
その声は届かず、ギョロ美ちゃんはまたかぶりつく勢いでベロチューしに行った。
その瞬間、王子は飛び起きた。




