第35話 勇者、正体を見破る
「あんな枯れ木みたいなじじいのもみあげ見てどうしようってんだ⁉ 今後、生きていく上で使い道もないようなじじいのもみあげ持っていってなにが楽しいんだよ! どうせ、孫もいなさそうなあのじじいは誰に看取られることもなく――」
「めちゃくちゃ言いすぎよ! おじいちゃんにとんでもない恨みでもあるの⁉」
「これが『もみあげ狩り』の洗礼なんだよ。今後、俺たちが絶対に間違いを犯さないためのな」
「さすがエデン様やでぇ……わてらのために……」
「あっ。汚いから耳毛返しとくね」
抜いた耳毛をそのままトモミチに返す。
「でも、あのおじいちゃん。あんたの声デカすぎてさすがに聞こえてたわよ」
「あのおじいちゃんは今後警戒して、もみあげを狩られることはないだろうな」
「生きてるうえでもみあげを狩られることなんてないわよ」
その様子を、一人の者が覗き見ていた。
『斥候のカゲミツ』彼はそう呼ばれていた。その存在は、王と側近しか知らない。主に王の命令にて動く者。城下町の民の様子や周辺諸国の情勢、または魔王軍の動きを把握するなどやることは多岐にわたる。王の命令でカゲミツに勇者一行は目をつけられていた。
(こいつら……城下町に来てまでなにをするのかと思ったら人間観察しているだと? 一体なにがしたいんだ……)
カゲミツは、変装の達人でもある。町中で顔を晒すわけにはいかない。だが、運悪くこの日はその辺にいるおじさんの変装をして陰から様子を見ていた。
煙草をふかしてしまった。その様子をエデンは見逃さなかった。
(あのもみあげ……まさか⁉)
「食らえ! 『鎖で拘束羽交い絞めの魔法』!」
「そんな魔法ないわよ!」
カゲミツは隠れていた影の中から無数の鎖が現れ、魔法の名の通り羽交い絞めにされた。
「なんでできちゃうのよあなた……」
「すげーな。俺もびっくりしてる……」
「う、うわあああ! 嘘だろ⁉ この俺が簡単に捕まるなんて……」
「俺の目を騙せるとでも思ったか?」
「……や、やめてくれぇ。俺が一体なにしたってんだ?」
「お前、ただのおじさんじゃないな?」
「なんですとぉ⁉ どういうことやエデンはん⁉」
「……ちっ。あんな一瞬でバレちまうとわな」
「あぁそうだよ。その煙草……の煙で見えにくかったけどお前のもみあげは口髭と繋がっているようで、ほんの数ミリ隙間があるんだよぉ!」
「あ、あああああ! ほんとだわ! このもみあげ立派そうに見えて偽物よ!」
「あっ、煙でバレたとかではないのか……このもみあげかよ!」
「もみあげ狩りの最中の俺の目を騙せるとでも思ったか?」
「いや、そんなことしてるとは思ってなかったからさ……」
「でも、あなた変装までしてなにか怪しいわね? 魔王の手先かしら?」
「……それは言えないなアネス」
「こいつ、なぜ私の名前を?」
――めちゃくちゃ簡単に正体がバレそうになるカゲミツであった。




