第34話 勇者、もみあげ狩り開催
私はなにをしているのだろう。結局、王の来訪からまた一ヶ月経過していた。
あれから、勇者エデンに言われるがまま、ゲームや漫画に没頭する日々。いくらあっても時間が足りない。いくつもの神作品に出会い、一喜一憂する日々を過ごしている。勇者がサボりたくなるのも少し頷ける。
私は、なんて怠惰な人間だろうか……王から討伐の依頼書を受け取ったものの、なに一つ進んでいない。簡単な討伐任務のはずなのに。
今日こそ、エデンと討伐の依頼について話を進めよう。絶対にだ。季節はもう秋になり冬を迎えようとしていた。
「勇者エデン。もうすぐ冬を迎えるな」
「あぁ確かにそうだな。寒くなるなぁ」
「そうなのよ。寒くなるのよ。その前にやることがあるとは思わない?」
「えっなんかあったっけ? お、お前まさか⁉」
「そうよ。王が言っていた討伐依頼を――」
「あの秋に行われる伝説のイベント『もみあげ狩り』にでも行こうってのか⁉」
「いや知らんわ! なによそのイベント!」
「俺たちの国は『もみじ狩り』というのがある……それの反対勢力が『もみあげ狩り』だ……」
「その『もみじ狩り』もよくわかんないわね。その二つはなにをするの?」
「『もみじ狩り』はこの秋ごろ山や庭園に行って、赤や黄色に色づいた葉を鑑賞するのが風情とされている。決して狩ったり集めたりするわけではない。対して『もみあげ狩り』も、この秋ごろその辺を歩いているおじさんのもみあげを対象とするスタイルだ」
「おっさんのもみあげ見てなにが楽しいのよ」
「ちなみに『もみじ狩り』と違う点は、気になったもみあげは持ち帰ることができる」
「いやダメでしょ⁉ なんで、持ち帰ることができると思ってんの⁉」
「そりゃあ、いいもみあげがあったら持ち帰りたいだろ……。ちなみに『もみあげ狩り』創設者の『秋野曼陀羅棲』先生もそれを容認している」
「いや誰よそれ⁉ ていうか、創設者が容認してても、もみあげは持っていっちゃダメでしょ!」
「その先生によって『もみじ狩り』協会の人たちのもみあげは全員回収されたよ」
「怖いって! もはやレジスタンスじゃない! 私はそんなことしないわよ!」
「まぁまぁ。そんなに欲求不満なら、一回やってみればいいじゃないか」
「欲求不満じゃないわ! もしそうでも、もみあげ見て解消されないわよ!」
「あーちゃんはん。こうなったらエデンはんはそう簡単には引き下がりまへんで」
「そうねぇ! まぁ暇だし、町の様子を見てみるってのもありですわねぇ!」
「ちょっと! 討伐はいつ行くのよ!」
「討伐ってなに?」
「……あなた記憶力どうなっているの?」
逆らう気力もなく、私たちは城下町へと繰り出すことになった。
そんな私たちの様子を、終始、監視している者がいた。
(アネス……あやつは一体なにをしているのだ? 四六時中遊んでいるだけでは……王からの報告は誠であったか……なんとかして勇者を冒険へと向かわせねば……)
その者も、勇者一行の後を付けた。
「ほほう……この世界も中々のもみあげじゃないかぁ」
「久しぶりに町へ出ましたのう! 最近、引きこもってばかりいましたから人に会ってなかですもんね!」
「下等な人間がたくさんいますわねぇ! もみあげもたくさんですわよエデン様!」
死ぬほど目立っていた。このメンバーと私は一緒にいるところをなるべく見られたくないので、存在を薄くする魔法を使用していた。
「おっ! あやつのもみあげなんてどないでっかエデン様?」
トモミチが指をさしたのは齢九〇ぐらいのおじいちゃんであった。
大層なもみあげではあったが、エデンはトモミチの耳毛を引っこ抜いた。
「お前も立派な耳毛にしてやろうかぁ⁉」
「いったぁあああああああああ!」
(耳毛にするってどういうことだ……)
皆、不思議と心の中で通じ合った。




