第12話 勇者、死亡する
――これは、私アネスが聞いた勇者の前日譚だ。
たくあん製造工場からの定時退社。ワークライフバランスを重視した結果、窓際族になった。それを実現して早二年。一度も残業などしたことがない。
現在、二十五歳。確実に充実していた。そして、俺は急いでいた。
前から来たかった駅に着く。そして、駅前の居酒屋のカウンター席を陣取る。周りの様子を見る。俺の趣味は「おじさん観察」だ。
この世はおじさんでできている。そういっても過言ではない。変なおじさんが大勢生息していそうな駅をあらかじめ検討し、目的の駅に降りた。
しばらく時間が経ち、隣の席でいい感じに酔っぱらったおじさん同士の小言が聞こえる。
「はぁ……今日も事務の成美ちゃん可愛かったなぁ。俺のこと好きなんじゃないやろか」
「お前なに言ってんだ? あんなかわいこちゃん、お前なんぞ見とるわけないやろ?」
「な……なに言ってんだ⁉ お前みたいな五十五のおっさんと一緒にするなや」
「お前も同い年やろ! ハゲが偉そうにすんじゃないよ!」
「お前ついに言いよったな! 酔った勢いで首絞めてやるわぁ!」
店は大惨事になりかけた。俺が追い求めているのはこれだ。今日は大当たりだった。
メモに『醜いハゲおじさんにはなりたくない。あと、ハゲていた部分にデカいほくろがあった』と、メモしておいた。
気持ちよく酔って帰宅していると、ふとつまずき、足がもつれた。その瞬間、横にあった謎のでっけぇ石に頭をぶつけた。
――俺は、どうやらこれで死亡したらしい。
目を開けると、そこは全面、白い世界。なにが起きたかわからなかった。
すると、目の前にこの世のものとは思えない『なにか』が出現した。
そう。それはよくアニメや漫画で見るような天使そのものだった。金髪ロン毛でパーマがかかっている。見た目はかなり若く見える。その者が告げる。
「えーはい。私は守護天使ハマエルと申します~。いつもあなたを見てましたぁ」
いきなりそう言われても理解できない。俺はボケ~っと見ていると。
「あなたの名前は、炎乃富士でよろしいですか? ってかこれ本名⁉ さすがに四股名すぎない?」
うわっこいつの背中の翼、ちょっと茶色くなっていて、動物園で実際に見る動物って意外と汚いんだなぁっていう感覚に似ているなぁという表情を浮かべ、まだボ~と見ていると。
「えっなんも反応なし? 大体、ここどこですかとか聞かれるけどなぁ」
「大丈夫です。うわっこいつの背中の翼、ちょっと茶色くなっていて、動物園で実際に見る動物って意外と汚いんだなぁっていう感覚に似ているなぁという表情を浮かべてただけなので」
「初手から失礼すぎないかい君?」
「あと、あなたはおじさんですか?」
「いやまずそこ気になるかな? まぁ見た目は若く見えるけど実際、百才は超えてるよ」
「じゃあハゲとけよボケ」
「えっいきなりよくわかんない暴言吐かれてない?」
「それで……そのハゲエルさんはなにしに来てくれたんですか?」
「いやだからハゲてないって! ハマエルねハマエル! 守護天使ってそもそも知ってる?」
「ハゲ天使にチェンジってできます?」
「なんでそんなハゲにこだわるんだよ! いくら『おじさん観察』が趣味だからって」
――その者は俺のすべてを知っているみたいだ。




