4 お茶会
マリア様に言われた通りにシャーリーン様を脅すと、あっさりお茶会に応じてくれた。
王宮の中庭、綺麗に整えられた花々に囲まれて、わたしとシャーリーン様は紅茶を飲んでいた。
紅茶を淹れてくれた使用人たちは、一礼をしてから退席した。近くで見守ってはいるが、会話が聞こえない距離で控えている。
「…………」
「…………」
……沈黙が重い。
脅して連れてきたんだからそりゃそうだろう。
「あの、単刀直入に言います」
わたしはティーカップを口から離し、シャーリーン様を見つめた。シャーリーン様は紅茶に視線を落としたままだ。
「わたしとマリア様に危害を加えるのをやめていただきたいのです」
「……何のことかしら?」
シャーリーン様はティーカップを持ち上げた。
えっ、ここまできてとぼけるの?
予想外の返事に、わたしは体が固まってしまった。
だって、「わたしたちを殺そうとしたナヴァロ様はあなたの差金ですよね?」とゆすられたから、シャーリーン様はこの席に座っているはずだ。
お茶会にいる時点で犯行を認めたも同然なのに、ここからとぼけるなんてどういうつもり……!?
「わたくしがナヴァロに指示したという証拠でもあるのかしら?」
「でもナヴァロ様が、シャーリーン様の名前を出して……」
「知らないわ、あの子が勝手に言っているだけでしょう」
ピシャリと跳ね除けられてしまった。呆然とするわたしに、シャーリーン様の冷たい眼差しが突き刺さる。
「あのね、証拠もないのに人を殺人者呼ばわりするなんて失礼じゃない? あなたのほうこそ、王妃に殺人の罪をなすりつけたと広めるわよ」
「……っ!」
確かにそうだ。わたしはナヴァロ様が呟いたのを耳にしただけで、確固たる物理的証拠があるわけではない。こんなふうにとぼけられてしまったら、もう打つ手がないのだ。
……詰めが甘かった。
シャーリーン様がお茶会に応じたのは、わたしが孤立した状態で脅すため。マリア様と相談できないように。
「……申し訳ございません」
「わかればいいのよ」
そう言って、シャーリーン様は持っていたティーカップをわたしの頭の上で逆さまにした。
「……っ!?」
紅茶がばしゃりと降り注ぐ。ダージリンの香りが髪の毛を伝って広がっていった。ぽたり、と紅茶が雫となって落ちる。
あぁ、なんか久しぶりだな、この感じ。
ルカ様に見初めてもらって、マリア様に弟子入りして……そんなに時間は経っていないはずなのに、魔女だと蔑まれた日々が遠い出来事のように思っていた。
実家にいた頃は、飲み物をかけられるなんてよくあることだった。
よくあること、よくあること。少し前のわたしにとって、日常だった出来事。
自分に言い聞かせる。
最近、ちょっと勘違いをしてしまっていたな。
「似合っているわよ」
そっとティーカップをテーブルに置くシャーリーン様。その顔は、侮蔑の表情を浮かべていた。
「濡れてしまいました……」
髪、肩、腕と紅茶が滴り落ち、濡れてしまった手袋を外す。チラリとシャーリーン様を盗み見れば、勝利を確信して油断し切っていた。わたしはその隙をみて、彼女の手首を掴む。
「な、なにするの!? 離しなさい! 無礼者!!」
わたしがやるべきことは、ここでショックを受けて凹むことじゃない。
以前のわたしなら失意に呑まれて脱力していただろうが、今は違う。やるべきことがあるのだ。
咄嗟の出来事で反応できずに慌てるシャーリーン様の声を聞きながら、わたしは脳裏に浮かぶ映像に集中する。
場所は王宮の大広間だ。舞踏会が開かれた場所。
広い空間には、国王エヴァレット様と王妃シャーリーン様しかいない。
エヴァレット王に謁見するのは、舞踏会の開会宣言以来だ。
何を話しているかは聞こえない。
シャーリーン様はエヴァレット様に詰め寄ろうとして、動きが止まった。
喉を抑えて、呼吸が苦しそうにしゃがみ込んだ。
ずっと上手く息ができないまま──映像は途切れた。
この症状は……?
「離せって言ってるでしょう!!」
「きゃあ!」
シャーリーン様に手を振り払われ、その勢いでわたしは尻餅をついてしまった。
「ふん、あなたはそうやって地べたに座っているのがお似合いね」
シャーリーン様は鼻息荒く、そう言い残して去っていく。
シャーリーン様付きの使用人たちが慌てて彼女を追いかけていき、わたしに付いている使用人たちは手助けをしていいのか迷っていた。
そうよね……王妃様に悪態つかれた姫を助けたら、同じ目に遭うかもしれないから。
わたしは手袋を付け直しながらゆっくりと立ち上がる。
「わたしは平気よ。片付けておいて」
「は、はい!」
使用人たちの返事を背中で受けながら、わたしは濡れた服を着替えるために、自分の部屋を目指して歩き始める。
それにしても、シャーリーン様の症状が何かわからない。マリア様に対処法を教えてもらえば、もしかしたら彼女を助けられるかもしれない。
マリア様のところにも行かなければ……!
「いたっ……」
先ほど怪我をした足が、急に痛み出す。ちょっと傷口が開いたのかもしれない。わたしは片足を庇いながら廊下を進んだ。
「エリザベス? びしょ濡れじゃないか!?」
「あ、ルカ様……」
読んでくださり、ありがとうございます!
ぜひ☆やリアクションをポチッとよろしくお願いします!
感想やレビュー、励みになります!




