魔力について
無名の魂が世界に溶けていく。
観察者こそが世界の心臓であるかのように、時間が動き出した。
***
マルムが女子会に参加していた頃、レインネストは魔法を使っていた。
いつものように白色バナナ、首飾りイチゴ、珊瑚リンゴがガラスの釜へと投下
されていく。
すると泡のような黒マナが空中浮遊をはじめた。
「同調」
レインネストが右手をかざす。
黒マナは彼の手元に集まり、バスケットボール程度の大きさになって――
「――『炎の黒玉』――」
彼が呪文を呟くと、燃える球体へと変化した。
魔力には様々な種類がある。
ひとつ。魔法の材料となる物質、マナの力。
ふたつ。肉体のエネルギー。プラーナ、オーラ、気、などの生命エネルギー。
みっつ。人側の儀式など、働きかけによって反応するモノ。精霊や神様、幽霊
魂などの能力を借り受けるモノ。
エレメンタル。召喚。憑依。降霊など。
よっつ。呪文、文字、動作などによって世界に干渉するモノ。
テトラグラマトン、ルーン、神楽舞など。
いつつ。自己を拡張することにより、世界の力を使うモノ。小源に大源を引き
入れ、他より優れた力を行使するという方法論的魔力。
ソウル・エンジン。魔力生成、チャクラなどの変換系。
むっつ。魔法使いに特有の魔力発生臓器によって生み出されるモノ。
人体の空白部位、胸腔、腹腔に存在する。
ななつ。ナノマシンなど極微細な機械装置の持つ科学的な力。
やっつ。人に外部から力を与えるモノ。巫女や魔法少女に多い。
ここのつ。黒マナにもっとも近いモノが『旧エーテル』だ。
旧エーテルはすべての物質の材料になる。
通常は初期化物質とも言うべき混沌とした状態だが、錬金術師が指示を与えて
やれば、あらゆる物質を再現できる。
馴染んでさえしまえば、普通の物質と見分けが付かない。
しかし、黒マナは旧エーテルと似て非なるモノだ。
とう。ブラックボックス系。
絶対に開示されることのない黒マナの中身は変幻自在の『未知』だ。
それは、炎を発生させる何かが詰まっているかもしれない。
冷気を伴った何か、かもしれない。
どんな結果を出すものか、想像も付かない『神秘の箱』だ。
神秘錬金術師とは、目には見えない黒マナの中身を操り、自身の望んだ成果を
引き出す者だった。
黒玉が燃えて、凍り付き、風を巻き、土くれに還る。
「…………」
しかし最終的には……
机の上に移動して、テーブルを飾る花瓶と百合の花に変化した。
黒マナの魔法は、攻撃への転用が難しい。
なにせ、釜がないと黒マナが調合できないからだ。
自宅で火の玉を作ろうが、氷の塊を作ろうが、そこにはモンスターがいない。
攻撃する対象がいないのでは、結局、日用品の作成に目が向けられるというのも
道理だった。
だが、もし彼がひとりではなかったら……
そのことに気付いているのか、いないのか。
レインネストは黙々と、部屋の改装にいそしんでいた。




