世界の構造と呪いについて
世界の構造には様々なものがある。
まずは、歴史の始まりから終わりまで脇に逸れることなく一本の糸のように
繋がっていて、運命は変わることがない、というもの。
一方で、過去は変えられないが、未来には無限の可能性が広がっているという
花咲き型もある。
確定しているのは現在のみであり、未来は不確定。過去はポロポロと綻びなが
ら消えていく。という世界もある。
世界とは面であり、時間の最低経過速度一反応速度ごとに一枚の面が積み重ね
られていく、という解釈もある。
そして、パラレルワールドに代表される『蹴鞠型』の世界。
運命によって定められているのは始まりと終わりの二点だけ。世界は誕生と同時
に可能性を広げて、最大限度を経由し、終焉に向かって収束していく。という世界
も存在している。
しかし、この世界はそれらのどこにも所属していなかった。
***
座標が定まる。
凶和の国。
死体とカラスばかりの荒れ野に、レインネスト・ライフベッター。まだ五歳の
姿があった。
雨巣命と呼ばれていた頃だ。
彼は日の和の国の生まれで、両親からも愛されていた。
普通に育ってきた。
だが、竜虎の山を越えて凶和に迷い込んでしまってから、人生が狂う。
凶和の国は、特殊な考え方をする人間が多い。
『凶なるを和の基本とする』
要するに「悪いことができるヤツだけ仲間な」という人々なのだ。
盗みを働く者は盗賊団に誘われる。
人を殺す者は侵攻軍に誘われる。
悪口を言うことで連帯感を高め、何かを害することで証を立てる。
そんな中に子供が放り込まれて、無事に帰れるはずがなかった。
雨巣命は死体を漁り、武器を探した。
偶然にも身包みを剥がされていない死体から妖刀を手に入れた彼は、凶和の
住人を迎え撃つことにしたのだ。
戦って、争って、傷つけた。
そのうちに雨巣命にとっては敵の敵である勢力から「仲間にならないか?」と
誘いが来て、彼はソレに応じた。
あとは仲間を助けるために、多くの敵対者を殺すだけの日々が続く。
敵対する組織が潰れるほど殺して、自国が傾くほど殺して、他国を滅ぼすほど
殺し尽くした。
極悪非道の殺人鬼。
だが、彼は仲間のために働いただけだった。
自分の身を守っただけ。
すべてが間違いではなかった。
しかし、正しくもなかったのだ。
雨巣命の肉体は精神的なものが影響したのか、太っているわけでもないのに
重くなった。
まるで人を殺すごとに、殺された人が神様へ告げ口をしているかのように。
実際、彼を知る人間が死ねば死ぬほど運が落ちた。
そして、雨巣命は死んだ。
仲間に裏切られて、背中を刺され、いともアッサリと死んでしまった。
死の間際、彼の心を支配したものは大きな後悔だ。
『なぜ正しく生きられなかったのか』
あの日、あの妖刀を拾わなければ。
人を傷つけなければ。
大抵の人間は、正しく生きたいと思うより先に罪を犯している。
だからこそ、彼は深く、自分自身を呪うほど強く後悔していた。
そして『正史』に戻る。
荒れ野に放り出された雨巣命。五歳の子供の前に、全身を呪いに侵された黒い
男が立ち塞がっていた。
妖刀を拾うな。人を殺すな。
彼は幼い自分に警告を発し、強い呪いを与えた。
死にたくとも死ねない正しさの呪い。
『お前は今日から”レインネスト・ライフベッター”と名乗れ』
自分自身に呪われて、正しく生きるしかない。
そんな少年を、凶和の国が受け入れるはずもなく、幾度となく死にかけながら
国を抜けた。
彼は今、呪いを断ち切る『何か』を求めて、各地のダンジョンを攻略しつつ、
旅を続けていたのだ。




