恩返しのために
パチカの若者が十五歳になったら必ず体験する成人の儀式。
冒険者用の装備を渡されて、いきなりダンジョンに放り込まれる。という荒行
を乗り越えた者達の間には妙な連帯感が生まれると言う。
マルムと仲間達もその例に漏れず、成人の儀式が終わってからも頻繁に連絡を
取り合っていた。
駆け出し冒険者の十人パーティー『グラスナイフ』の誕生である。
普段の会議は全員参加だが、今日は女子だけの会合だった。
半月型のテーブルに、四人が並ぶ。
砂色レンガ通りの一角にあるカフェ『太陽のウロコ亭』。
荷物は何でも持ち込み自由で、場所を貸すだけのお店だった。
マルムは、艶やかな女魔法使いレゾナ。兄妹双子の妹のほうセルク・ドローズ。
獣人の女の子メルフェノンを呼び出していた。
そもそもの目的である”あのこと”について、相談するためだ。
「「恩返しができない?」」
「うん」
女子三人の優しくも厳しい確認の言葉に、マルムはうなずいた。
マルムとレインネストは一緒に行動して親しくなったが、恩返しのほうは見事
に空振りしている。
そして、これから先も空振りが続きそうだ。
笑み男は完璧すぎる。
生半可な方法では『恩返しが出来ない』のだ。
「物はダメ。そもそも必要ない上に、たくさんありすぎて逆に困らせるだけだと
思う。料理は美味しいものを自分で作るし。労働力にも困ってなさそう」
「「………」」
小動物系の獣娘、メルフェノンが首を傾げる。
「その人、神秘錬金術が使えて、家事全般こなすの? その上、コブシひとつで
モンスターなぎ倒すの? なに、そのミスター・パーフェクト。人間なの?」
「どうだろう……。ちょっとわからないかも」
レインネストは純粋な人間なのか?
知り合いでも答えに詰まる問いだった。
「恩返しできないんじゃ一人なのも納得だねー。パーティーに入ってもらっても
息が詰まっちゃいそう」
セルクが嫌そうにぶんぶんと首を振る。
そこはメルフェノンも、レゾナも同調してうなずいていた。
「一方的に借りを作り続ける関係は、精神衛生上よろしくありませんわ」
「恩返しはしたいんだけど」
マルムには案がない。
それゆえに女子三人が集められていた。
「そうだ!」
セルクがなにか閃いたのか、目を輝かせる。
「マッサージは? 疲れを癒す的な?」
「ダメ」
マルムの即答だった。
「どうして?」
「私が恥ずかしいから。まだそこまでの関係じゃないもん」
セルクはテーブルに突っ伏して、ジタバタと。
「お子様マルムー。つまんないー」
今度はメルフェノンが手をあげた。
「マッサージがダメでも、マルムちゃんがデートしてあげればいいと思うの」
「あの人、女の子にも困ってないよ。お店に行列を作るくらいだし」
マルムは腕を組んで、眉間にシワを寄せていた。
三人は察しが良いようで。
アイコンタクトにより「他の女の話はタブーね」と確認し合う。
その理由はマルムの恋を応援するため、と、もうひとつ。
彼女をからかって、楽しむためでもあった。
「マルムさん。女の武器を使ってみてはいかがです?」
レゾナは大きな胸を包む服に、深い切れ込みのある部分を見せ付ける。
するとマルムは、自分が着ている実用一辺倒な革鎧を見て、顔をしかめた。
「もうすこし着飾った方がいいかな」
肩までの髪は手入れされているらしく髪質は艶やかだった。
顔は美しいというより、やや可愛い寄りの平凡さ。だが、胸だけは長身レゾナ
のそれと張り合って上回るほどに大きい。
身長がそれほど高くないため、なおさら凶悪に見える。
「「(……ミス・アンバランス……)」」
セルクの指はマルムの胸を指差していた。
「ソレ。何キロ?」
「言わない」
マルムの頬が赤くなる。本人は隠そうとしているようだが。
「素晴らしい胸をお持ちですこと」
「レゾナさんは他人のことを言えないと思うの。そして三人とも」
「「?」」
「世の中には胸の重さが測れない人もいるの。自重して」
ペタン子代表みたいなメルフェノンに睨まれて、他三人の額に冷たい汗が。
自重した結果、話は別の方向へ。
「この地味な子に真っ赤なドレスを着せてみたいですわ。おのぼりさんの夜会
デビュー。ああ! なんという無防備! その日のうちに取って食われてしまい
そうですわよね。んふふふふ♪」
「「…………」」
うっとりしながら妄想を垂れ流すレゾナの目がヤバイことになっていた。
メルフェノンは全身の毛を逆立てている。
「いまは恩返しの話をする時なの」
「わかっています。だからこそ、ですわ。贈り物は『自分になにが出来るか?』
ではありません。『相手が何を望んでいるか?』を考えるべきです」
「「おおー……」」
まさかの正論。
バーサーカー状態で錯乱している最中とは思えない発言に一同、感心する。
「マルムさんにドレスを貸して差し上げますわ。今日の夜にでもレインネスト様
のところへ夜這いに!」
「「ああー……」」
残念な人に戻ってしまった。
ただ、レゾナの考え方は悪くない。
彼が何を望んでいるのか。
どうしてダンジョンに挑むのか。
今日まで何をしてきたのか。
それがわかれば、彼の希望を叶えることができるだろう。
座標を変える。
時間は十五年前に。
距離は数千キロを移動して、日の和の国の隣、凶和の国へ。




