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93.剣の行方

ジーク達が階下に降りると、もう食事を終えた様子のファルテアとライガがくつろいでいた。いや、どうやらファルテアはライガに付いてきたようで、長椅子に腰掛けているライガの耳や尻尾を弄っている。ライガはくすぐったそうに表情を歪めているが、逃げ出して無駄に体力を消耗するのも嫌になったのだろう。ファルテアは逃げ出したライガを確保するために凍らせるなどということをしかねない。


「来たか、おい、この女を剥がしてくれ、起きてからずっとこの調子でやってられねえ」


「えー、私は気持ちいいから、このままでいいでしょ」


「良いわけあるかっ!くすぐってえしなんか変な感じするんだよ!!」


 ライガがファルテアを引きはがそうと顎に向かって手を伸ばすが、ひょいと軽々避けられてしまう。


「獣人の動きを見切るって、あの子実は凄いんじゃないの?」


「能力的に目は良いのだろうな」


「暢気に話し合ってないで助けろよ……ふあっ!?」


 少しファルテアから目を離した隙に、耳と尻尾を強く掴まれ、ライガは情けない声を上げながら、体の力が抜けてしまう。ついに主導権を手にしたファルテアはゆっくりとライガの体に手を這わせ、


「ファルテアさん、そのあたりでやめてあげなさい」


 ジークに右腕一本で抱え上げられた。


「えー」


「えーじゃないです、人の嫌がることをやっちゃいけないんですよ」


「ジークせんせ、お父さんみたい。私、お父さんのことなんて知らないけど」


 計算高い子供のブラックジョークが、容赦なくジークの心を突き刺した。思わず表情が引きつる。


「ええっと、その……」


 流石にジークも言葉に詰まる。ファルテアはこういった、他人の心を抉る言葉選びの才能があるらしい。


「ファルテア、そのあたりでやめてやれ、お前の家庭事情は複雑なんだから、そんなことを言われれば誰でも困ってしまう」


 メディが苦笑しながら、ジークの言葉を真似してファルテアを注意した。ファルテアもライガとジークをいじめるのに満足したようで、はーいと返事をした。


「さて、私達は外で食事をして、適当にブラつくつもりなんだが、お前達はどうする、付いてくるか?」


「私は、行くよ」


 ファルテアが手を上げて同行の意を示す。それを見たライガは改めて長椅子に身を沈め、


「その女が行くならオレは行かない、勝手にやってろ」


 と冷たくあしらった。ファルテアは寂しそうな顔をしたが、先程注意された手前、強要することも出来ない。


「わかった、まあ、一人で出かけることがあるかもしれんが、そこはお前の自由だ、勝手にやってろ」


 皮肉っぽく言葉を返すメディに、ライガはふんと鼻を鳴らすだけだった。



***


「まずはジーク君の剣の回収ね、そう遠くでは無かったからすぐ見つかると思うわ」


「?ジークせんせ、剣、使ったの?」


「はい、昨夜、ちょっと小競り合いに巻き込まれまして、その時に」


 嘘ではないが、真実をぼかした表現だ。ファルテアもどこかそれを感じたが、敢えて追求しないことにした。彼女は人にはあまり言いたくない事実もあるということを知っている。


「お前にしては上手いごまかし方じゃないか」


 ちょいと肘でジークをつついてメディが言った。その後ろに、「まあバレているがな」という語句が続くのだが、ジークはそれを察することなく、申し訳なさそうに曖昧な笑みを浮かべる。騙そうとした側が騙されているという奇妙な状況である。背後でアマカも微笑している始末これはいつものことだがである。

 そんなこんなで他愛もない会話をしながら、ジーク達は剣が刺さっているはずの場所へやってきた。


「これは、なんですか……?」


「あー、この町の住人が見過ごすはずも無かったか」


「人、いっぱい」


「無理してでも昨夜の内に片付けておくべきだったわね」


 口々に、ジークの剣を取り囲む状況に対する感想を述べる。取り囲む、そう、ジークの剣は、その物珍しさから人々に取り囲まれていたのだった。その熱に圧倒されて眺めていると、剣の側に設置された壇上に、身なりの良い男が立った。


「さあ、これなるは昨夜の内にいつの間にか刺さっていた名剣でございます!名剣と言われると疑う方が居るかも知れませんが、どうぞご覧あれ!」


 男が言うと、人混みの中から筋骨隆々とした大男が出てきて、その手に持った拳大の鉄球を剣に向かって投げつけた。


「うわあ!なんてことを!?」


 持ち主であるジークさえ悲鳴を上げる。無慈悲にも鉄球は止まることなく刃にぶつかり……鉄球を、両断した。

 人混みから歓声が沸き立ち、壇上の男がそれに勝る大声を上げる。


「さあ、お分かりいただけたでしょうか!鉄球に細工など一切しておりません!この世に二つとない名剣でしょう!しかーし!この名剣、そこの筋力自慢の男ですら引き抜けなかった超重量級の剣でございます、我こそはという方は、銀貨一枚で、この剣を抜くことに挑戦してください!見事抜けた方には、この剣を差し上げましょう!!」


 銀貨一枚、それだけあれば一日分の食費にはなるが、ジークの剣の切れ味は金貨数枚分にもなるだろう。男のかけ声に、群衆の中から数人の男女が飛び出した。ある者は強化魔法をその身にかけ、ある者は地属性の魔法で地面を操作したが、一向に抜ける気配がない。しばらくすると、挑戦する者はいなくなってしまった。それでもどう抜くか思案する者、相談する者はいたが、上手い案は出てこないらしい。


「銀貨一枚……」


「それなりの額だが、まあ余裕だ、馬鹿馬鹿しくはあるが、仕方ないだろう」


 呆れ顔でメディがジークに銀貨を手渡した。ジークはすみませんと一言謝り、受付係になっている先程の筋骨隆々とした大男の元へ駆けた。


「おや、坊ちゃんが挑戦するのかい?やめといた方が良いんじゃないかなあ?」


「お金を稼ぎたいなら、そういうこと言うのはやめた方が良いと思いますけど」


 ジークの言に、男はムッとしたが、人を射殺しかねないジークの目線に射貫かれて、言葉を失った。自分の剣を下卑た商売道具にされて、ジークも怒っているのだ。ずかずかと剣の前に立つジークに司会の男も困惑しているが、場の盛り上がりなど全く気にせず、無造作に右腕一本で剣を地面から抜き放った。美しい銀色の刀身が、朝日を反射して煌めく。その光景に、一瞬時が止まった。


「な、なんとおおおお!!どこからか現れた銀髪の美少年が、剣を抜いてしまったあ!君、お名前は!?」


 ジークは一つ溜め息を吐くと、答えずに背中の鞘に剣を収め、そのまま人混みの中に紛れ、仲間達の元へと戻っていった。


 


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