↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
近江の山奥から始める近代国家建設 〜転生田舎領主は戦国そのものを終わらせたい〜  作者: 近江もののふ
第二章 橘の礎

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
66/77

第60話 火縄銃を買いに堺へ

天文二十一年てんぶんにじゅういちねん(1552年)、正月。

近江国(おうみのくに)愛智郡(えちぐん)朝霧村(あさぎりむら)橘屋敷(たちばなやしき)


六角定頼(ろっかくさだより)が死んだ。


観音寺(かんのんじ)から届いた(ふみ)を読み終えた翌朝から、頼政(よりまさ)は旅支度に入った。供をする家人が(とむら)いの品を包み、道中で使う荷と分けて荷駄(にだ)へ載せていく。


頼政自身も持っていく物を確かめながら、俺へ留守中のことを言い渡した。

「御屋形様の御葬儀(ごそうぎ)には、わしが参る。朝霧のことは任せるぞ」

「はい、父上」


昼前には支度が整い、頼政は供を連れて屋敷を発った。門前まで出て見送ると、馬と荷駄の列は村道を進み、そのまま見えなくなった。


俺が近江で動くようになってから、六角の頂点にいたのはずっと定頼だった。俺たちのような小さな家が何かを始めても、最後に六角の判断を下すのはあの男だ。その定頼がいなくなれば、観音寺の中も今までと同じでは済まない。


誰が何を握り、誰の言葉が重くなるのか。


すぐに何かが起きるとは限らない。それでも、定頼がいた頃と同じつもりで動くわけにはいかなかった。


* * *


春になると、久助(きゅうすけ)が勘定の帳面と小さな木箱を抱えて俺のところへ来た。


箱を開けば、政所(まんどころ)灰吹(はいふき)を終えた銀が並んでいる。久助は帳面を開き、収入と支出をまとめた頁を俺の前へ向けた。

「灰吹銀は千二百匁(せんにひゃくもんめ)余りにございます。酒造や普請、それに今決まっている支払いを除いて、新たな買い付けへ回せる分は五百貫文(ごひゃっかんもん)ほどございます」

「五百貫か」

「今年、新たに物を買うのであれば、この範囲で動かせます」


今の仕事を止めずに五百貫ほど動かせるなら、試す余裕はある。

「なら、(さかい)へ行く」

「堺にございますか」

「次に九鬼(くき)の船が桑名(くわな)へ入った時だ。南蛮(なんばん)から来た火縄銃(ひなわじゅう)を三丁買う。同じように造られた物を揃えたい」

「三丁とも使うのでございますか」

「一丁は開いて中を見る。残る二丁は、お前と与左衛門(よざえもん)に扱わせる。弾型(たまがた)と手入れの道具も欲しい」

「それなら火薬と硝石(しょうせき)も見て参りましょう。持参する銀で足りなければ、買い付け用の銭から必要な分だけ銀へ替えます」

「ああ。残りは、この先に鉄砲を揃えるために取っておきたい」


種子島(たねがしま)へ最初の二丁が渡ってから九年になる。最初の銃には法外なほどの礼が払われたらしいが、今では国友(くにとも)や堺でも火縄銃を造っている。だからといって、ポルトガルから運ばれてきた銃を三丁揃え、道具や火薬まで付ければ安く済むはずがない。


それでも、国友へ何を造ってもらうにせよ、比べる物は欲しかった。南蛮銃を実際に撃ち、開いて中まで見れば、国友の銃と比べる材料になる。使えると分かれば、その次は数を揃えればいい。


久助はその場で次の段取りを口にした。

「堺の酒商へ先に文を出します。南蛮商人への伝手(つて)がないか尋ねておけば、着いてから探し回らずに済みましょう」

「橘の酒が向こうでどう扱われているかも確かめたい。そのことも書いてくれ」

小六(ころく)へも文を出しておきます」

弦十郎(げんじゅうろう)作兵衛(さくべえ)を連れていく。与左衛門にも話しておいてくれ」


久助が帳面と銀を持って下がった後、俺はその日のうちに頼政の部屋へ向かった。


堺へ行くこと自体は勝手に決められない。

「父上、次に九鬼の船が桑名へ入ったら、堺へ行かせてください。橘の酒の扱われ方を確かめた後、南蛮銃を三丁買ってきます」

「三丁か。銭はどうする」

「政所から出た銀を持っていきます。足りない分だけ、買い付け用の銭から銀へ替えて払います」

「分かった。弦十郎は連れていけ」

「はい、父上」


数日後、桑名から九鬼の船が入ったとの文が届いた。銀を納めた箱を荷駄へ積み、久助、弦十郎、作兵衛、与左衛門を連れて朝霧を出た。


桑名へ着くと、正勝(まさかつ)は九鬼の船から下ろされた荷を改めていた。


船縁から渡された(たわら)は、荷札(にふだ)を確かめた者から順に荷車へ移されている。橘の酒を堺へ運んだ船が、空で戻らず、桑名まで運ぶ荷を積んできたらしい。


俺たちに気付いた正勝は、荷受けの商人へ俵を渡してからこちらへ来た。

「帰りも荷を取るようになったのか」

「空で戻せば、その分の船賃を捨てるようなもんだ。前の便から始めた。まだこれだけだがな」


正勝は下ろされていく荷へ顎を向けた。

「決まった頃に船が戻ると知れれば、荷主(にぬし)も増える。ただ、堺で荷を集める奴がいなけりゃ話にならん」

「当てはあるのか」

「堺の納屋(なや)へ話は通してある。南蛮人とも商いをしているらしい」


懐から取り出した紙を久助へ渡す。船賃と、その中からどれだけを取り分とするかが書かれていた。

「帰りの船へ載せる荷を集められるか聞いてこい」

「小六、荷主へ示す値も、この控えのままでよいか」

「最初はな。実際に荷が増えたら、九鬼とも詰め直す」

「分かった。堺で決まった分は別に控えておく」


久助が紙を帳面へ挟むと、正勝は積み込みを待つ橘の樽へ目を向けた。

「荷の話は久助に任せて、お前は火縄銃を見てこい。それと火薬を買うなら、酒と一緒に置くなよ。帰り荷も積むんだ。どこへ置くか、積む前に船頭(せんどう)と決めておけ」

「分かってる。火薬を酒樽の隣に積む気はない」


正勝は荷の方へ戻り、堺行きの樽や荷が収まると、九鬼の船は桑名を離れた。


* * *


堺の港へ入る頃には、船縁から見える景色そのものが桑名とは違っていた。


岸には大小の船が幾重にも並び、空いた場所へ次の船が入り込んでいく。下ろされた俵や木箱の間を荷車が抜け、その脇を異国の布を抱えた商人が通った。人足の掛け声、車輪の(きし)む音、船頭の怒鳴り声が重なり、南蛮人のそばでは通詞(つうじ)が休む間もなく言葉を交わしている。


その中を、橘の焼印(やきいん)が押された樽も運ばれていた。


先に酒の状態を確かめることにして、樽を追って酒商の倉へ入った。清酒は日の差さない奥へ積まれていたが、ビールは入口に近い場所へ置かれている。商人は残っていた一樽を示した。

「前の荷では、麦の酒が二樽戻されました。味が変わったとのことでございます」


栓を抜かせ、木椀へ少しだけ注ぐ。


口へ含んだ途端に分かった。酸味が強くなり、苦味も崩れている。これでは、朝霧を出た時と同じ酒として売るわけにはいかない。

「これはもう酒として売るな。()にする先があるなら、そちらへ渡していい」

「捨てずともよろしいので」

「酢に使えるならな。それと次から、麦の酒は荷が着いたら先に蔵へ入れろ。入口へ置いたまま日に当てないでくれ」

「承知しました」


栓を戻したところで、倉の入口から声が飛んできた。

「まだ使い道のある酒を、そのまま捨てはらへんのですな」


振り向くと、三十前後に見える男が立っていた。

今井彦八郎(いまいひこはちろう)と申します。桑名からの文を受け取りました」

橘小徳丸たちばなしょうとくまるだ。こちらは家臣の今井弦十郎」


彦八郎は弦十郎へ一礼した。

「こちらにも今井殿がおられますのやな。縁者ではございまへんが、私も近江の出でございます」

「それなら同郷(どうきょう)ではあるな」

「では、同郷のよしみで清酒をもう一樽、回していただけまへんか」

「それとこれとは別だ」

「やはり、そうなりますか」


今井彦八郎。後の今井宗久(いまいそうきゅう)だ。


堺へ来て、いきなりこいつに行き当たるとは思っていなかった。だが、俺が知っている名前だからといって、今の彦八郎との商いまで特別扱いする理由はない。


彦八郎は奥に積まれた清酒を確かめながら話を続けた。

「次の荷から、私にも回していただきたいのです」

「最初は清酒を二樽。麦の酒と蒸留酒を一つずつ渡す。蔵へ入れた日と売れた日を控えて、次に知らせてくれ。傷んだ時もそのまま教えてほしい」

「それを守れば、次は増やしていただけますやろか」

「扱いを見て決める」

「値はこちらで付けても?」

「下限だけはこちらで決める。それより上なら任せる」

「承知しました。清酒は、まず寺と茶人(ちゃじん)へ当たってみましょう」


そこまで決まると、彦八郎は戻されたビールの樽へ付いていた荷札を結び直した。

「こちらも、酢にする先を探しておきます」

「酒として売らないなら任せる」


酒の話が片付いたところで、久助が正勝から預かった紙を出した。

「もう一つ、小六から頼まれております。桑名へ戻る九鬼の船に載せる荷を、こちらで集めていただけないかとのことにございます」


彦八郎は紙を受け取り、船賃の取り分を上から下まで確かめた。

「帰る日は決まっておりますのか」

「風次第でずれますが、堺へ着いた時に船頭から帰りの頃を知らせます」

「なら荷主には二日ほど幅を持たせた方がええでしょうな。まずは私の荷を一つ載せます。それが桑名へきちんと届けば、次から人にも勧められます」

「小六にも、そのように伝えます」


久助が帳面へ帰り荷の一行を書き加えると、彦八郎は紙を畳んで返した。そのまま俺たちが堺へ来たもう一つの目的へ話を移す。

「ロドリゲスいう南蛮商人が、ポルトガルから来た火縄銃を持っております」

「同じ造りに近い物を三丁、揃えられるか」

「倉には何丁かあるそうです。そこは実物を見てお決めください」

「なら、会わせてくれ」

「そのために参りました」


彦八郎に案内されて大通りへ出た。


異国のガラス器を並べた店の向かいからは(こう)の匂いが流れ、道端では商人が鉄器の傷を確かめている。人の流れを縫うように進んだ彦八郎は、やがて通りから少し奥へ入った屋敷の前で足を止めた。


ロドリゲスは板敷(いたじ)きの部屋で待っていた。(かたわ)らには通詞が控えている。


挨拶を済ませてから、俺は英語で話しかけた。

「英語は話せるか」

「少しならな。前にイングランドの商人と取引をしたことがある」


通詞の口が止まった。ロドリゲスも俺を見直す。


まあ、そうなるだろう。日本の子供がいきなり英語で話し始めれば、俺でも気味が悪い。

「なら、直接話そう」

「どこで覚えた」

「海を渡る商人からだ。商いに使う程度なら話せる」

「ポルトガルのことも知っているのか」

「都はリスボン。ヴァスコ・ダ・ガマが喜望峰(きぼうほう)を回ってインドへ渡ったことも知っている」

「この国の子供は、皆それを知っているのか」

「いや。俺だけだ」


ロドリゲスは椅子の背から身体を起こし、(たく)片肘(かたひじ)を置いた。

「それで、その妙な子供は何を買いに来た」

「ポルトガルで近頃造られた火縄銃だ。同じ造りの物を三丁揃えてほしい」

「日本でも銃は造られている」

「知っている。国友の銃と比べたい」

「三丁も何に使う」

「一丁は開いて中を調べる。残る二丁はそのまま使い続ける」

「三丁すべて売るとは言っていない」

「なら、揃わなければ買わない」

「細かい客だな」

「三丁まとめて買う客でもある」


ロドリゲスは戸口へ声を掛けた。


倉から長い木箱が運び込まれ、中から五丁の銃が出される。並べてみれば、銃身(じゅうしん)の長さも銃床(じゅうしょう)の形も微妙に違っていた。


俺が欲しいのは、ただ三丁の南蛮銃ではない。分解して比べるなら、出来るだけ近い物の方がいい。

「作兵衛。同じ造りに近い物を三丁探してくれ。まず弾と金具が揃うか見たい」

「へえ」


作兵衛は一本ずつ手に取り、銃口(じゅうこう)へ細い木片を当てて口径を比べ、次に火蓋(ひぶた)火挟み(ひばさみ)を動かしていった。


五丁すべてを見終えると、二丁だけを台の端へ寄せる。

「若様。この二丁なら近うございます。ほかは弾を変えねばなりませぬ」


俺はロドリゲスへ、残した二丁と同じ弾を使える銃をもう一度探させた。


追加で運ばれてきた二丁も、作兵衛が銃口と金具を順に確かめる。一丁は合わなかったが、もう一丁は先に選んだ二丁と同じ弾を使えた。

「この三丁なら揃えられます」


三丁を並べ直し、今度は火挟みと火蓋の動きを細かく比べていく。最後の一丁だけ、火挟みが落ちる途中で引っ掛かった。

「これだけ少し(しぶ)うございますな。直せる範囲ではあります」

「朝霧で造れるところはあるか」

「銃床と金具なら何とか。銃身は国友へ頼むほかありませぬ」

「一丁開けば、国友へ何を頼めばいいかも分かるか」

「へえ。中を見られれば、今より話はしやすうなります」


作兵衛が金具を留めた螺子(ねじ)へ手を掛けると、ロドリゲスが止めた。

「買う前に外すのは認めない」

「なら、撃たせてくれ。三丁ともだ」


ロドリゲスは庭の奥を指した。


土を盛った先に、板の的が立てられていた。


まずロドリゲスの手の者が一発撃ち、問題なく火が入るところを見せる。俺は一丁目を受け取った。思っていた通り重い。


玉薬(たまぐすり)と弾を込め、火皿(ひざら)口薬(くちぐすり)を入れる。火縄を火挟みに掛けたところで、一度手元を確かめた。手順そのものは知っていても、実際に火の付いた縄と火薬を同時に扱うとなると話が違う。


銃を構えて引金(ひきがね)を引くと、轟音と一緒に白煙が噴き、銃を支えた腕へ衝撃が来た。煙が風に崩れると、板の端が欠けている。

「当たりましたな」

「端だ」

「初めて撃ったのなら十分でございましょう」


久助は二丁目を受け取ると、一つずつ手元を確かめながら装填した。


発砲すると、今度は板の中央から少し外れたところに穴が開く。

「どうだ」

「前が重うございます。それより、火縄を気にしながら火薬を扱う方が厄介ですな」

「最初から速さは求めない。まず手順を身体に覚えさせる」

「その方がよろしいでしょう」


三丁目は与左衛門が持った。


装填そのものは久助より早い。だが、撃つ直前に肩と腕へ力が入り、銃口が下を向いた。発砲音の後、的ではなく手前の土が跳ねる。

「下へ外しました」

「引金を引く時に力が入ったな」

「次は直します」

「朝霧へ戻ってからだ。まず作兵衛に見せる」

「はい」


作兵衛は撃ち終えた三丁の火皿を布で拭い、銃身の外側まで見比べた。

「これなら持ち帰ってもよろしいでしょう」


俺はロドリゲスへ購入を伝えた。

「三丁とも買う」

「銀一貫八百匁いっかんはっぴゃくもんめだ。弾型と手入れの道具は別になる」

「銀一貫三百匁いっかんさんびゃくもんめ。弾型と手入れの道具も付けてくれ」

「安すぎる」

「国友の銃なら、もっと安く買える」

「これはポルトガルの銃だ」

「だから三丁まとめて買う」

「一貫七百匁」

「一貫四百匁。火薬と硝石は別に払う」


ロドリゲスはすぐには返さなかった。

「次も買うのか」

「この三丁が使える物ならな」

「何丁だ」

「試してから決める。今ここで数を約束する気はない」


ロドリゲスは彦八郎へ話を振った。彦八郎は通詞を介し、橘の酒や荷がこれからも九鬼の船で堺へ届くことを伝える。

「今日の三丁で終わる商いではございまへん。ここで値を張って次を逃すより、道を残しておく方がよろしゅうございましょう」


ロドリゲスは値を出し直した。

「一貫五百匁。弾型と手入れの道具は付ける。火薬と硝石は百五十匁だ」

「それで買う」


彦八郎が呼んだ銀屋(ぎんや)に、持参した銀の重さと品位(ひんい)を改めさせた。千二百匁余りの銀をまず出し、足りない分は久助が買い付け用の銭から、その場の換え値で銀へ替えさせる。合わせてロドリゲスへ渡した。


久助は銀屋が示した換え値と支払額を帳面へ書き込み、三丁を納めた木箱には、それぞれ帳面と照合できる印を付けた。


銃の商いが済んでも、ロドリゲスのところで見たい物はまだあった。


俺が小さな時計を見せてくれと頼むと、しばらくして(てのひら)へ載るほどの物が運ばれてきた。商人が鍵を差してぜんまいを巻く。蓋を開けば、その下で細い針が進み始めた。


作兵衛は時計を受け取り、耳元へ寄せた。

「水も重り(おもり)も使わず、これだけで動くのですな」

「中のばねで動いてる」

「火縄銃の次は、これも開けますか」

「買った直後に壊すなよ」

「先に銃を見ます」


結局、その時計も買った。続いて形の違うレンズを何枚か出させ、一枚ずつ光へかざす。厚みも曲がり方も違い、組み合わせれば見え方も変わる。


ロドリゲスが俺の手元を覗き込んだ。

「それは何に使う」

「遠くを見る筒を作りたい」

「これで遠くが見えるのか」

「膨らんだ物と(くぼ)んだ物を組み合わせる」


二枚のレンズを前後にかざし、庭の柱へ向けた。間隔を変えると、柱が少し大きく見える位置もあれば、輪郭が崩れてしまう位置もある。


理屈を知っているのと、実際に使える物が出来るのは別だ。使える筒になるかは、持ち帰って組み合わせを試してみなければ分からない。


傷の少ない物を選び終えると、ほかにも探してほしい品を書いた紙をロドリゲスへ渡した。

「次に九鬼の船が来た時、彦八郎へ預けてくれ。探す手間には別に払う」

「分かった」


ロドリゲスの屋敷を出た後は、彦八郎に堺の鍛冶場(かじば)へ案内してもらった。


戸口には仕上げを待つ銃床が並び、奥から槌の音が響いている。作兵衛が中へ入ろうとしたところで、鍛冶場の主が前へ出た。

「出来上がった銃は売れます。中の仕事は見せられませぬ」


さすがに、銃をどう造っているかまで簡単に見せる気はないらしい。作兵衛は無理に入ろうとはせず、戸口から見える職人の手元だけをしばらく追っていた。


鍛冶場を離れてから聞いてみる。

「どうだった」

「銃身を造るところは、きっちり隠しておりますな」

「やっぱり国友へ頼むしかないか」

「へえ。朝霧で一から銃身まで造ろうとするより、まず仕上げと修理を覚える方がよろしいでしょう」

「なら国友へ注文を出す時、職人も借りられないか頼んでみる」

「それが一番早うございます」


隣を歩いていた彦八郎が口を挟んだ。

「朝霧で銃を直せるようになったら、堺から近江へ出した銃の直しも回せますやろ」

「まず橘の銃を直せるようになってからだ」

「その折には、私にも声を掛けてくださいませ」

「ああ」


* * *


帰りの船には、彦八郎が集めた桑名行きの荷も積まれていた。


火薬と硝石は酒樽から離し、船頭と決めた場所へ収めてある。三丁の火縄銃を入れた長い木箱は俺たちが休む場所の近くへ固め、時計とレンズを納めた小箱も、その間へ挟んだ。


船が堺を離れると、作兵衛は三つの木箱の(ふう)を一つずつ確かめ始めた。

「朝霧へ着くまでは開けるなよ」

「分かっております。潮風(しおかぜ)の中で開ける方が怖うございます」

「戻ったら、渋かった一丁から見るのか」

「いえ。まず一番素直に動いた物を開きます。それを基準にしてから、渋い方のどこが違うか探した方が早うございましょう」

「なるほど。それでいこう」


久助は揺れる船底(ふなぞこ)で帳面を開き、火縄銃と火薬、時計、レンズへ支払った額を順に確かめていた。銭から銀へ替えた分も合わせ、買い付けへ回せる残りを書き直す。

「帰りの荷からも船賃が入れば、次から堺までの(つい)えを少し戻せますな」

「小六の狙い通りになりそうか」

「今回は彦八郎殿の荷だけにございます。まず桑名で滞りなく渡せるかです。それが出来れば、次から荷主も増やせましょう」


与左衛門は、自分が撃った三丁目を納めた箱の印を確かめていた。

「朝霧へ戻ったら、もう一度最初から撃ってもよろしいですか」

「作兵衛が見た後だ。今度は久助と同じように、一つずつ手順を確かめて込めろ」

「はい。今度は下へ落としませぬ」


帆が風を受け、船体が大きく傾いた。作兵衛が反射的に長い木箱へ手を掛け、久助も帳面を閉じて懐へ戻す。


船体が戻ると、作兵衛は箱から手を離した。その向こうには、彦八郎が集めた桑名行きの荷が積まれていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。