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近江の山奥から始める近代国家建設 〜転生田舎領主は戦国そのものを終わらせたい〜  作者: 近江もののふ
第二章 橘の礎

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第56話 考えて動く兵

歩調(ほちょう)槍先(やりさき)が揃い始めると、次は三百人を実戦(じっせん)に近い形で動かすことにした。


俺は可成、弦十郎、久助、犬千代、与左衛門、日吉丸を訓練場へ集めた。

俺は全員を見回した。

「今度は演習(えんしゅう)をする」


可成が尋ねた。

「どのような演習でございましょう」

「攻める側は二個中隊、二百人。守る側は残る一個中隊百人に、百姓と人足を百人加える」

「二百対二百でございますな」

「ああ。守る側には先に場所を選ばせ、旗を一本置く。日暮れまで守れば勝ちだ。攻める側は旗を奪い、元の場所まで持ち帰れ」


弦十郎が口を開いた。

「百姓たちも演習へ出されるのでございますか」

「ああ。橘の兵は三百人すべて常備兵(じょうびへい)だが、ほかの家は違う。戦になれば、普段は田畑や荷運びに出ている者も集めてくる」

「敵方の軍勢に見立てるのでございますな」

「そうだ。常備兵を(しん)に百姓や人足を加えた軍勢が、どこまで守り、どう崩れるかも見たい」

「百姓たちをどこへ置き、第一中隊をどう混ぜるかは、私が決めてよろしいので」

「ああ。守備側(しゅびがわ)は弦十郎に任せる」

「承知しました」


久助が続けて尋ねた。

「守る側は先に場所を選び、旗も置けます。攻める方が不利ではございませぬか」

「正面からはぶつからない。一部で敵を留めておき、残りで守りの薄い場所を探す」

「見つからねば、そのまま押し合いになりますぞ」

「見つけさせる。小隊や分隊ごとに隙間を抜けさせ、敵の後ろで集まらせろ」

「抜けた先に、また敵がおりましたら」

「そいつらを倒す必要がなければ構うな。そのまま通れ」

「素通りするだけで、旗は取れましょうか」

「まず伝令(でんれい)増援(ぞうえん)を止める。敵を前後に分けてから、旗を取りに行く」


ただ、入り込んだ分隊へ、離れた俺が一つずつ指図を出すことはできない。


可成が確認した。

「進む道も、若様がお決めになりますか」

「俺が決めるのは、大隊の狙いと中隊の役目までだ。どこを通り、どの小隊を先へ出すかは中隊長が決めろ」

「決めた道を塞がれた場合は」

「報告は出せ。だが、俺の返事を待つな。命じられた道ではなく、役目を守れ」

「小隊長にも同じように任せるのでございますな」

「ああ。何を成し遂げるための命令か、分隊長まで伝えろ。手段は変えてもいい。だが、役目そのものを勝手に変えるな」


細かな道筋まで俺が握っていては、離れた場所の分隊は身動きが取れなくなる。


犬千代が地面へ描いた旗を指した。

「わしが敵を引きつける役なら、旗が目の前にあっても行くなってことかね」

「そうだ」

「そんなん、旗を取った方が勝ちだがや」

「お前が離した敵に、旗を持った兵が潰されれば負ける」


可成が犬千代へ向いた。

「敵が動けば、お主がやり方を変えよ。五十人を預かるとは、そういうことだ」

「分かったがね」


俺は日吉丸へ向き直った。

「日吉丸。お前の分隊は伝令を担当しろ。各中隊へ二人ずつ付ける」

「わしの分隊を分けるのでございますか」

「ああ。受けた指図は、その場で復唱(ふくしょう)させろ」

「聞き違えたまま走らせては、元も子もございませぬからな」

「道や手段を変えた時は、なぜ変えたのかも伝えさせろ」

「分かりました」


演習には、刈り入れ(かりいれ)を終えた志野原(しのはら)の田畑を使った。


* * *


弦十郎は百姓と人足百人を三つに分けた。


中央へ五十人、左右の(あぜ)へ二十五人ずつ置く。第一中隊のうち五十人は、その後ろへ分隊ごとに散らした。残る五十人は旗の前に置いている。


配置を見た俺は弦十郎へ尋ねた。

「百姓たちの後ろへ直轄兵を置いたのか」

「はい。百姓だけでは、強く押された場所を支えられませぬ。後ろの分隊を、抜かれそうな場所へ当てます」

「旗の前の五十人は」

「最後まで動かさぬ予備(よび)です。敵の残る百人が見えるまでは出しません」

「左右から同時に抜かれたら」

「その時は予備を分けます。ただ、先に出せば旗が空きます」

「分かった。それでやれ」


攻撃側の可成と久助へ、俺は役目を伝えた。

「三左衛門は正面の兵を留めろ。久助は守りの薄い場所を抜け、後ろで伝令と増援を止めろ」

「承知いたしました」

「承知(つかまつ)りました」


開始の太鼓が鳴った。


可成の第二中隊が中央へ進み、犬千代の小隊が木槍(きやり)を揃える。


犬千代が声を上げた。

「第二小隊、前だがね!」


中央の百姓たちは棒を構えたまま動かない。弦十郎も予備を出さず、正面を見ていた。


可成の第一小隊は犬千代へ重ならず、右へ広がる。正面全体から攻めるように見せながら、強くは押し込まない。


一方、久助の第三中隊は左へ回った。


左の畦には百姓と人足が棒を並べ、その後ろに直轄兵が控えている。


与左衛門が久助へ声を掛けた。

「久助殿、ここは見られております」

「正面から抜けられるか、与左衛門」

「抜けられます。ですが、手間取れば兵を増やされます」

「ほかに通れる場所はあるか」

「右の田へ下りれば、向こうの畦へ出られます。泥は深いですが、敵からは見えにくいかと」

「二個分隊はここへ残せ。残りは右から回れ」

「久助殿は、いかがなされます」

「第一小隊を連れて後から続く。進路を変えたと伝令を出せ」

「返事は待たなくてよろしいので」

「命じられたのは、この畦を通ることではない」


与左衛門は分隊長を集めた。

「一、二分隊はここへ残れ。三、四、五分隊は俺と来い」


第三分隊長が旗を見た。

「与左衛門様、抜けた後は旗へ向かうのでございますか」

「まだだ。先に敵が戻る道を探す」


三十人が用水路(ようすいろ)を越え、刈田(かりた)へ下りた。泥に足を取られながらも、列を切らさず守備線の横を抜ける。


久助の伝令が俺たちのいる畦へ走ってきた。


日吉丸が尋ねた。

「どこからの報せでございますか」

「第三中隊の久助様からです。左の畦を避け、用水路の右から回ります」

「先に入ったのは誰でございます」

「与左衛門様の三個分隊です。久助様は後へ続きます」

「道を変えた理由は」

「正面を押せば、守る兵を増やされるからだと」


日吉丸が俺へ向き直った。

「若様、第三中隊は用水路の右へ回ったそうでございます。与左衛門殿が先に入り、久助殿が後へ続いております」

「聞いた。三左衛門にも伝えろ」

「分かりました」


犬千代の小隊は、中央の百姓たちと木槍を合わせる寸前まで進んでいた。


犬千代が可成を呼んだ。

「三左殿、今なら押し切れるがね」

「まだだ、犬千代」

「旗まで近いぞ」

「近いから敵はこちらを見ている。久助たちが抜けるまで向かせておけ」

「……分かったがね」


守備線の後ろへ出た与左衛門の前に、旗へ戻ろうとする百姓と人足が現れた。


与左衛門は配下へ命じた。

「三分隊は畦を塞げ。四分隊は右へ回れ。残る五分隊は伝令を探せ」


第三分隊長が旗を指した。

「与左衛門様、旗はあちらにございます」

「今行けば、こいつらを旗へ戻す。先に止めるぞ」


二つの分隊が畦を横切り、戻ってきた者たちと木槍を合わせる。残る一分隊は守備側の伝令を追った。


弦十郎のもとへ、第一中隊の伝令が駆け込む。

「弦十郎様、左後ろに敵が出ました!」

「左右へ出した直轄兵を戻せ。百姓たちは持ち場を離れるな」


だが、左へ走った伝令は与左衛門の分隊に止められた。

指図が届かないまま、久助の第一小隊も後方へ出る。


与左衛門が久助へ告げた。

「久助殿、旗へ戻ろうとする者は、こちらで押さえております」

「与左衛門は道を空けるな」

「承知しました」


弦十郎は旗の前の予備へ命じた。

「三個分隊は左へ出ろ。残る二個分隊は旗を守れ!」


その時、可成が木槍を上げた。

「第二中隊、押せ!」


犬千代が先頭へ出る。

「今度こそ前だがね!」


百人が一斉に進んだ。


正面を支えていた百姓たちは、後ろから敵が来たとの声に振り返る。何人かが旗へ走り、それにつられて列が開いた。


弦十郎が叫ぶ。

「持ち場を離れるな! 旗は直轄兵が守る!」


だが、前後の声にかき消された。


久助の第一小隊が旗竿(はたざお)を抜く。与左衛門は追手(おって)の前へ残った。

「久助殿、先にお下がりください! ここを空ければ追いつかれます!」


久助の兵が旗を持ち帰ったところで、終了の太鼓を鳴らした。


* * *


演習を終えた兵を集めた。


俺は弦十郎へ尋ねた。

「どこで守り切れなくなった」

「正面を押さえられたまま、旗へ戻す兵を分けねばならなくなった時です。伝令を止められた後は、左右へ指図も届きませぬ」

「百姓と人足は」

「敵が正面にいる間は持ち場を守りました。ですが、後ろへ入られると、自分で旗へ戻ろうとします」

「他家の軍勢も同じように崩れると思うか」

「はい。動員(どういん)された者が向きを変えれば、常備の兵が残っていても陣に隙間ができます」


次に久助へ聞く。

「道を変えたのは」

「正面を押せば、敵を集めるだけだと判断しました」

「返事を待たなかったな」

「第三中隊の役目は、敵の後ろへ入ることにございました」

「それでいい」


与左衛門へ顔を向ける。

「旗へ行かなかったのは」

「久助殿から、敵を戻すなと命じられました。俺まで旗へ寄れば、追手を通すことになります」

「守る場所は、誰かに指図されたのか」

「いいえ。戻る者が最も集まる場所を、自分で選びました」

「それでいい」


犬千代が木槍を肩へ担いだ。

「若様、わしらは最後まで正面だったがね」

「お前たちが敵を留めたから、久助たちが後ろへ入れた」

「次は、わしが抜ける方をやる」

「三左衛門に言え」

「次は代えてくれ、三左殿」

「今の役目を忘れぬなら考える」


攻守を入れ替え、演習を繰り返した。


抜けた途端に近くの敵へ襲いかかる分隊もあれば、進路変更を報告した後、俺の返事を待って止まる小隊もあった。

そのたびに、何を命じられ、何のために動いていたのかを本人に言わせた。


やがて分隊は、守備線を抜けても近くの敵へ飛びつかず、後方で合流してから伝令と増援を止めるようになった。


* * *


平地での演習が形になると、次は攻城戦(こうじょうせん)を試すことにした。


領内の笠松(かさまつ)には、使われなくなった小さな(とりで)が残っている。今後も砦として使う予定はなく、いずれ解体して材木や金具を回収するつもりだった。


それなら、壊す前に演習へ使えばいい。


俺は可成たちを笠松砦(かさまつとりで)の前へ集めた。

「今度は、この砦を攻めさせる」


久助が(へい)を見上げた。

「守る兵へ訓練矢(くんれんや)を射るのでございますか」

「人へは射ない。板を使う」


塀の上には、人の上半身ほどの板を並べた。内側から縄を引けば起き上がる。攻める側は弓と()の訓練矢を板へ射り、当たれば、その場所の守備兵は討たれたものとする。


守る側には、(ぬか)と刻んだ(わら)を詰め、赤土を塗った布玉(ぬのだま)を持たせた。攻める兵へ当たり、衣服に跡が付けば、その兵は外れる。


攻める側は二百人、守る側は百人にした。


太鼓が鳴る。


弓と弩が板を伏せさせ、その間に槍兵が砦へ近づく。だが、矢をつがえる間に別の板が起き、布玉が降った。


弓兵の一人が右手を指した。

「久助様、右の板が上がりました!」


久助が弩兵へ命じた。

「弩を右へ回せ! 槍兵は射線(しゃせん)を空けろ!」


槍兵が止まれば布玉を受け、進めば後ろから射られない。


門へ着くまでに五十人以上が外れた。門板(もんいた)(おの)を入れると兵が詰まり、(さく)の破れ口でも次々に布玉を受ける。


守る側を押し切った時には、攻撃側の半数ほどしか残っていなかった。


久助が帳面を持ってきた。

「門へ着く前に五十六人。門前と柵口で三十一人。中へ入ってからを合わせれば、百人近くになります」

「今の兵と道具では、半分を失うか」

「はい」


弓と弩で塀の上を押さえても、射撃が途切れれば板が上がる。槍兵が門へ近づけば、後ろから射ることも難しい。


やはり、火縄銃(ひなわじゅう)が要る。


可成が結果を見て言った。

「もう一度やらせますか」

「いや。今日は損が分かればいい。壊した門と柵は外し、使える材を兵舎へ回せ」


* * *


演習を続けているうちに、頼政たちが朝霧へ戻ってきた。


その日のうちに、俺は与左衛門を頼政へ引き合わせた。

「父上。以前、尾張で仕官(しかん)を誘った佐々与左衛門です。朝霧へ来て、仕官を決めました」


与左衛門が頭を下げた。

「佐々与左衛門にございます。以後、橘家のため働きます」


頼政が俺へ尋ねた。

「今は何を任せている」

「第三中隊の第二小隊、五十人です」

「そうか。働きはこれから見る」

「承知いたしました」

「……待て。第三中隊とは何だ」

「明日、訓練場へご案内します」

「今ここで言えぬのか」

「見てもらった方が早いです」


翌日、頼政は訓練場に並ぶ兵を見て足を止めた。

「この兵は何だ」


頼政の声は低かった。

「俺の直轄兵です。父上が留守の間に三百人集めました」

「三百人……。留守にしていた間だけでか」

「はい」

「牢人や、賊上がりの者もおると聞いたぞ」

「新九郎に素性を調べさせています。命令に従わぬ者は、すでに外しました」


頼政はしばらく黙り、並んだ兵を見ていた。

「わしに一言もなく、これだけの兵を作ったのか」

「父上が留守の間、朝霧を動かせる兵がほとんど残っておりませんでした。何かあってからでは遅いと判断しました」

「……理由は分かった」


頼政は短く息を吐いた。

「三百人を、お前が率いるのか」

「はい。編成を決め、演習を重ねています」

「動かせるというなら、試してみるか」

「父上の兵とですか」

「ああ。こちらも留守に残した兵を加えれば三百になる」

「村の番や街道の見回りが空きますが」

「半日くらいならどうとでもなる」

「……そこまでして試すんですか」

「三百も集めたのだ。どこまで使えるか見ておきたい」


模擬戦(もぎせん)は志野原の田畑一帯を使い、双方に大将旗(たいしょうばた)を立てた。相手の旗を倒すか、大将へ木槍を届かせれば勝ちだ。


開始前、俺は中隊長と小隊長、日吉丸を集めた。

「第一中隊は中央で敵の主力を受ける。第二中隊は左から敵を引きつけ、中央へ戻させるな。第三中隊は右の隙間を抜け、伝令と増援を止めろ」


久助が確認した。

「旗へ向かうか、戻る道を押さえるかは、某が決めてもよろしいので」

「ああ。全体の狙いは、父上の三百人を一つに動けなくすることだ」


俺は可成へ向いた。

「三左衛門も、犬千代をどう使うかは任せる」

「承知いたしました」


弦十郎へ命じる。

「中央を支えろ。左右の中隊が動く前に崩すな」

「承知しました」


最後に日吉丸を見る。

「伝令を回せ。報告が遅れても、中隊を止めるな」

「分かりました」


太鼓が鳴った。


頼政の兵は中央だけでなく、政澄が左へ、政虎が右へ広がった。政澄には高晴が、政虎には重尚と政忠がつき、それぞれの手勢をまとめている。

「第一中隊、前へ!」


中央から来る兵を受けた瞬間、こちらの列が下がる。


弦十郎が叫んだ。

「第二小隊、二個分隊を中央へ寄せろ! 残りは右を空けるな!」


弦十郎の兵が隙間へ入り、押し込まれた列を支えた。


左では可成が政澄の兵とぶつかった。押された列の隙間へ、高晴が後ろから人を送り込み、崩れる前に埋めている。右へ出た久助の第三中隊は畦の向こうへ消えた。


第三中隊の伝令が日吉丸のもとへ走ってくる。


日吉丸が伝令を止めた。

「どこからの報せでございますか」

「第三中隊です。進路を塞がれ、与左衛門様が用水路沿いへ回っております」

「久助殿は」

「第一小隊を連れ、後へ続いております」


日吉丸が俺へ報告した。

「若様、第三中隊は進路を変えたそうでございます。与左衛門殿が先に回り、久助殿が続いております」

「聞いた。次を待て」


俺から命令を出す必要はない。


左では政澄の兵が少しずつ下がり、その後ろに頼政の旗が見えていた。


犬千代が旗を指した。

「あれを取れば終わるがね」

「見せているだけだ、犬千代」


可成は政澄の後ろへ寄る後備(あとぞなえ)を見た。

「犬千代。二個分隊をここへ残せ。三個分隊は右へ出せ」

「旗へ行くのか、三左殿」

「後備をこちらへ向かせる」

「分かったがね」


犬千代が三十人を動かすと、後備も向きを変えた。可成は旗へ進まず、政澄と後備を左へ留める。


久助の第三中隊は、頼政の陣の後ろへ出た。


政虎の後ろで、重尚と政忠が兵の一部を割き、現れた久助たちへ向け直そうとしていた。だが、動かした先から与左衛門の兵に道を塞がれ、思うようには進めない。


与左衛門は、伝令と兵が戻る畦へ小隊を広げた。

「久助殿、追ってくる者は、こちらで足止めいたします」

「与左衛門は道を空けるな」

「承知しました」


第三中隊からの伝令が届く。


日吉丸が俺へ叫んだ。

「若様、第三中隊が敵の後ろへ出ました! 与左衛門殿が道を押さえ、久助殿が旗へ向かっております!」


頼政の中央が後ろを振り返った。


弦十郎が木槍を上げる。

「第二小隊、押し返せ!」


俺も第一小隊を進めた。


その向こうでは、政虎の兵がこちらの大将旗へ迫っている。

「弦十郎、中央を任せる!」

「承知しました!」


自分の小隊から二個分隊を割き、旗へ戻った。


政虎が木槍を構える。

「若様自ら戻られましたか」

「彦九郎を止める者が足りなかったからな」

「では、ここで決めましょう」


政虎の槍を受け、突き返す。


旗の周りで兵が押し合う中、遠くで声が上がった。


頼政の旗を守っていた者たちは、久助の一隊が迫るのを見て、槍を並べ直した。だが、重尚と政忠が回した加勢(かせい)は間に合わず、正面と背後の両方から押される形になる。


一人が押し出され、列に隙間ができた。旗竿を支えていた男の腕が緩んだ瞬間、久助の兵がそこへ手を伸ばす。


竿を引き合う声が上がり、旗が大きく揺れた。


やがて、頼政の大将旗が傾き、久助の兵がその周りへ集まっていた。


終了の太鼓が鳴る。


頼政が槍を下ろし、俺を見た。

「お前が久助へ、旗を取れと命じたのか」

「命じていません。第三中隊には、右から後ろへ入り、伝令と兵が戻る道を押さえろと伝えました」

「旗へ向かったのは」

「久助の判断です」

「三左衛門が左で止まったのもか」

「あれも三左衛門の判断です」

「一人ずつなら、まだこちらの兵が勝つ」

「はい」

「だが、三百人では負けた」


頼政は、倒れた旗ではなく、整列(せいれつ)する三百人を見た。

「なるほど。お前は兵を集めたのではない。軍を作ったのだな」

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