第56話 考えて動く兵
歩調と槍先が揃い始めると、次は三百人を実戦に近い形で動かすことにした。
俺は可成、弦十郎、久助、犬千代、与左衛門、日吉丸を訓練場へ集めた。
俺は全員を見回した。
「今度は演習をする」
可成が尋ねた。
「どのような演習でございましょう」
「攻める側は二個中隊、二百人。守る側は残る一個中隊百人に、百姓と人足を百人加える」
「二百対二百でございますな」
「ああ。守る側には先に場所を選ばせ、旗を一本置く。日暮れまで守れば勝ちだ。攻める側は旗を奪い、元の場所まで持ち帰れ」
弦十郎が口を開いた。
「百姓たちも演習へ出されるのでございますか」
「ああ。橘の兵は三百人すべて常備兵だが、ほかの家は違う。戦になれば、普段は田畑や荷運びに出ている者も集めてくる」
「敵方の軍勢に見立てるのでございますな」
「そうだ。常備兵を芯に百姓や人足を加えた軍勢が、どこまで守り、どう崩れるかも見たい」
「百姓たちをどこへ置き、第一中隊をどう混ぜるかは、私が決めてよろしいので」
「ああ。守備側は弦十郎に任せる」
「承知しました」
久助が続けて尋ねた。
「守る側は先に場所を選び、旗も置けます。攻める方が不利ではございませぬか」
「正面からはぶつからない。一部で敵を留めておき、残りで守りの薄い場所を探す」
「見つからねば、そのまま押し合いになりますぞ」
「見つけさせる。小隊や分隊ごとに隙間を抜けさせ、敵の後ろで集まらせろ」
「抜けた先に、また敵がおりましたら」
「そいつらを倒す必要がなければ構うな。そのまま通れ」
「素通りするだけで、旗は取れましょうか」
「まず伝令と増援を止める。敵を前後に分けてから、旗を取りに行く」
ただ、入り込んだ分隊へ、離れた俺が一つずつ指図を出すことはできない。
可成が確認した。
「進む道も、若様がお決めになりますか」
「俺が決めるのは、大隊の狙いと中隊の役目までだ。どこを通り、どの小隊を先へ出すかは中隊長が決めろ」
「決めた道を塞がれた場合は」
「報告は出せ。だが、俺の返事を待つな。命じられた道ではなく、役目を守れ」
「小隊長にも同じように任せるのでございますな」
「ああ。何を成し遂げるための命令か、分隊長まで伝えろ。手段は変えてもいい。だが、役目そのものを勝手に変えるな」
細かな道筋まで俺が握っていては、離れた場所の分隊は身動きが取れなくなる。
犬千代が地面へ描いた旗を指した。
「わしが敵を引きつける役なら、旗が目の前にあっても行くなってことかね」
「そうだ」
「そんなん、旗を取った方が勝ちだがや」
「お前が離した敵に、旗を持った兵が潰されれば負ける」
可成が犬千代へ向いた。
「敵が動けば、お主がやり方を変えよ。五十人を預かるとは、そういうことだ」
「分かったがね」
俺は日吉丸へ向き直った。
「日吉丸。お前の分隊は伝令を担当しろ。各中隊へ二人ずつ付ける」
「わしの分隊を分けるのでございますか」
「ああ。受けた指図は、その場で復唱させろ」
「聞き違えたまま走らせては、元も子もございませぬからな」
「道や手段を変えた時は、なぜ変えたのかも伝えさせろ」
「分かりました」
演習には、刈り入れを終えた志野原の田畑を使った。
* * *
弦十郎は百姓と人足百人を三つに分けた。
中央へ五十人、左右の畦へ二十五人ずつ置く。第一中隊のうち五十人は、その後ろへ分隊ごとに散らした。残る五十人は旗の前に置いている。
配置を見た俺は弦十郎へ尋ねた。
「百姓たちの後ろへ直轄兵を置いたのか」
「はい。百姓だけでは、強く押された場所を支えられませぬ。後ろの分隊を、抜かれそうな場所へ当てます」
「旗の前の五十人は」
「最後まで動かさぬ予備です。敵の残る百人が見えるまでは出しません」
「左右から同時に抜かれたら」
「その時は予備を分けます。ただ、先に出せば旗が空きます」
「分かった。それでやれ」
攻撃側の可成と久助へ、俺は役目を伝えた。
「三左衛門は正面の兵を留めろ。久助は守りの薄い場所を抜け、後ろで伝令と増援を止めろ」
「承知いたしました」
「承知仕りました」
開始の太鼓が鳴った。
可成の第二中隊が中央へ進み、犬千代の小隊が木槍を揃える。
犬千代が声を上げた。
「第二小隊、前だがね!」
中央の百姓たちは棒を構えたまま動かない。弦十郎も予備を出さず、正面を見ていた。
可成の第一小隊は犬千代へ重ならず、右へ広がる。正面全体から攻めるように見せながら、強くは押し込まない。
一方、久助の第三中隊は左へ回った。
左の畦には百姓と人足が棒を並べ、その後ろに直轄兵が控えている。
与左衛門が久助へ声を掛けた。
「久助殿、ここは見られております」
「正面から抜けられるか、与左衛門」
「抜けられます。ですが、手間取れば兵を増やされます」
「ほかに通れる場所はあるか」
「右の田へ下りれば、向こうの畦へ出られます。泥は深いですが、敵からは見えにくいかと」
「二個分隊はここへ残せ。残りは右から回れ」
「久助殿は、いかがなされます」
「第一小隊を連れて後から続く。進路を変えたと伝令を出せ」
「返事は待たなくてよろしいので」
「命じられたのは、この畦を通ることではない」
与左衛門は分隊長を集めた。
「一、二分隊はここへ残れ。三、四、五分隊は俺と来い」
第三分隊長が旗を見た。
「与左衛門様、抜けた後は旗へ向かうのでございますか」
「まだだ。先に敵が戻る道を探す」
三十人が用水路を越え、刈田へ下りた。泥に足を取られながらも、列を切らさず守備線の横を抜ける。
久助の伝令が俺たちのいる畦へ走ってきた。
日吉丸が尋ねた。
「どこからの報せでございますか」
「第三中隊の久助様からです。左の畦を避け、用水路の右から回ります」
「先に入ったのは誰でございます」
「与左衛門様の三個分隊です。久助様は後へ続きます」
「道を変えた理由は」
「正面を押せば、守る兵を増やされるからだと」
日吉丸が俺へ向き直った。
「若様、第三中隊は用水路の右へ回ったそうでございます。与左衛門殿が先に入り、久助殿が後へ続いております」
「聞いた。三左衛門にも伝えろ」
「分かりました」
犬千代の小隊は、中央の百姓たちと木槍を合わせる寸前まで進んでいた。
犬千代が可成を呼んだ。
「三左殿、今なら押し切れるがね」
「まだだ、犬千代」
「旗まで近いぞ」
「近いから敵はこちらを見ている。久助たちが抜けるまで向かせておけ」
「……分かったがね」
守備線の後ろへ出た与左衛門の前に、旗へ戻ろうとする百姓と人足が現れた。
与左衛門は配下へ命じた。
「三分隊は畦を塞げ。四分隊は右へ回れ。残る五分隊は伝令を探せ」
第三分隊長が旗を指した。
「与左衛門様、旗はあちらにございます」
「今行けば、こいつらを旗へ戻す。先に止めるぞ」
二つの分隊が畦を横切り、戻ってきた者たちと木槍を合わせる。残る一分隊は守備側の伝令を追った。
弦十郎のもとへ、第一中隊の伝令が駆け込む。
「弦十郎様、左後ろに敵が出ました!」
「左右へ出した直轄兵を戻せ。百姓たちは持ち場を離れるな」
だが、左へ走った伝令は与左衛門の分隊に止められた。
指図が届かないまま、久助の第一小隊も後方へ出る。
与左衛門が久助へ告げた。
「久助殿、旗へ戻ろうとする者は、こちらで押さえております」
「与左衛門は道を空けるな」
「承知しました」
弦十郎は旗の前の予備へ命じた。
「三個分隊は左へ出ろ。残る二個分隊は旗を守れ!」
その時、可成が木槍を上げた。
「第二中隊、押せ!」
犬千代が先頭へ出る。
「今度こそ前だがね!」
百人が一斉に進んだ。
正面を支えていた百姓たちは、後ろから敵が来たとの声に振り返る。何人かが旗へ走り、それにつられて列が開いた。
弦十郎が叫ぶ。
「持ち場を離れるな! 旗は直轄兵が守る!」
だが、前後の声にかき消された。
久助の第一小隊が旗竿を抜く。与左衛門は追手の前へ残った。
「久助殿、先にお下がりください! ここを空ければ追いつかれます!」
久助の兵が旗を持ち帰ったところで、終了の太鼓を鳴らした。
* * *
演習を終えた兵を集めた。
俺は弦十郎へ尋ねた。
「どこで守り切れなくなった」
「正面を押さえられたまま、旗へ戻す兵を分けねばならなくなった時です。伝令を止められた後は、左右へ指図も届きませぬ」
「百姓と人足は」
「敵が正面にいる間は持ち場を守りました。ですが、後ろへ入られると、自分で旗へ戻ろうとします」
「他家の軍勢も同じように崩れると思うか」
「はい。動員された者が向きを変えれば、常備の兵が残っていても陣に隙間ができます」
次に久助へ聞く。
「道を変えたのは」
「正面を押せば、敵を集めるだけだと判断しました」
「返事を待たなかったな」
「第三中隊の役目は、敵の後ろへ入ることにございました」
「それでいい」
与左衛門へ顔を向ける。
「旗へ行かなかったのは」
「久助殿から、敵を戻すなと命じられました。俺まで旗へ寄れば、追手を通すことになります」
「守る場所は、誰かに指図されたのか」
「いいえ。戻る者が最も集まる場所を、自分で選びました」
「それでいい」
犬千代が木槍を肩へ担いだ。
「若様、わしらは最後まで正面だったがね」
「お前たちが敵を留めたから、久助たちが後ろへ入れた」
「次は、わしが抜ける方をやる」
「三左衛門に言え」
「次は代えてくれ、三左殿」
「今の役目を忘れぬなら考える」
攻守を入れ替え、演習を繰り返した。
抜けた途端に近くの敵へ襲いかかる分隊もあれば、進路変更を報告した後、俺の返事を待って止まる小隊もあった。
そのたびに、何を命じられ、何のために動いていたのかを本人に言わせた。
やがて分隊は、守備線を抜けても近くの敵へ飛びつかず、後方で合流してから伝令と増援を止めるようになった。
* * *
平地での演習が形になると、次は攻城戦を試すことにした。
領内の笠松には、使われなくなった小さな砦が残っている。今後も砦として使う予定はなく、いずれ解体して材木や金具を回収するつもりだった。
それなら、壊す前に演習へ使えばいい。
俺は可成たちを笠松砦の前へ集めた。
「今度は、この砦を攻めさせる」
久助が塀を見上げた。
「守る兵へ訓練矢を射るのでございますか」
「人へは射ない。板を使う」
塀の上には、人の上半身ほどの板を並べた。内側から縄を引けば起き上がる。攻める側は弓と弩の訓練矢を板へ射り、当たれば、その場所の守備兵は討たれたものとする。
守る側には、糠と刻んだ藁を詰め、赤土を塗った布玉を持たせた。攻める兵へ当たり、衣服に跡が付けば、その兵は外れる。
攻める側は二百人、守る側は百人にした。
太鼓が鳴る。
弓と弩が板を伏せさせ、その間に槍兵が砦へ近づく。だが、矢をつがえる間に別の板が起き、布玉が降った。
弓兵の一人が右手を指した。
「久助様、右の板が上がりました!」
久助が弩兵へ命じた。
「弩を右へ回せ! 槍兵は射線を空けろ!」
槍兵が止まれば布玉を受け、進めば後ろから射られない。
門へ着くまでに五十人以上が外れた。門板へ斧を入れると兵が詰まり、柵の破れ口でも次々に布玉を受ける。
守る側を押し切った時には、攻撃側の半数ほどしか残っていなかった。
久助が帳面を持ってきた。
「門へ着く前に五十六人。門前と柵口で三十一人。中へ入ってからを合わせれば、百人近くになります」
「今の兵と道具では、半分を失うか」
「はい」
弓と弩で塀の上を押さえても、射撃が途切れれば板が上がる。槍兵が門へ近づけば、後ろから射ることも難しい。
やはり、火縄銃が要る。
可成が結果を見て言った。
「もう一度やらせますか」
「いや。今日は損が分かればいい。壊した門と柵は外し、使える材を兵舎へ回せ」
* * *
演習を続けているうちに、頼政たちが朝霧へ戻ってきた。
その日のうちに、俺は与左衛門を頼政へ引き合わせた。
「父上。以前、尾張で仕官を誘った佐々与左衛門です。朝霧へ来て、仕官を決めました」
与左衛門が頭を下げた。
「佐々与左衛門にございます。以後、橘家のため働きます」
頼政が俺へ尋ねた。
「今は何を任せている」
「第三中隊の第二小隊、五十人です」
「そうか。働きはこれから見る」
「承知いたしました」
「……待て。第三中隊とは何だ」
「明日、訓練場へご案内します」
「今ここで言えぬのか」
「見てもらった方が早いです」
翌日、頼政は訓練場に並ぶ兵を見て足を止めた。
「この兵は何だ」
頼政の声は低かった。
「俺の直轄兵です。父上が留守の間に三百人集めました」
「三百人……。留守にしていた間だけでか」
「はい」
「牢人や、賊上がりの者もおると聞いたぞ」
「新九郎に素性を調べさせています。命令に従わぬ者は、すでに外しました」
頼政はしばらく黙り、並んだ兵を見ていた。
「わしに一言もなく、これだけの兵を作ったのか」
「父上が留守の間、朝霧を動かせる兵がほとんど残っておりませんでした。何かあってからでは遅いと判断しました」
「……理由は分かった」
頼政は短く息を吐いた。
「三百人を、お前が率いるのか」
「はい。編成を決め、演習を重ねています」
「動かせるというなら、試してみるか」
「父上の兵とですか」
「ああ。こちらも留守に残した兵を加えれば三百になる」
「村の番や街道の見回りが空きますが」
「半日くらいならどうとでもなる」
「……そこまでして試すんですか」
「三百も集めたのだ。どこまで使えるか見ておきたい」
模擬戦は志野原の田畑一帯を使い、双方に大将旗を立てた。相手の旗を倒すか、大将へ木槍を届かせれば勝ちだ。
開始前、俺は中隊長と小隊長、日吉丸を集めた。
「第一中隊は中央で敵の主力を受ける。第二中隊は左から敵を引きつけ、中央へ戻させるな。第三中隊は右の隙間を抜け、伝令と増援を止めろ」
久助が確認した。
「旗へ向かうか、戻る道を押さえるかは、某が決めてもよろしいので」
「ああ。全体の狙いは、父上の三百人を一つに動けなくすることだ」
俺は可成へ向いた。
「三左衛門も、犬千代をどう使うかは任せる」
「承知いたしました」
弦十郎へ命じる。
「中央を支えろ。左右の中隊が動く前に崩すな」
「承知しました」
最後に日吉丸を見る。
「伝令を回せ。報告が遅れても、中隊を止めるな」
「分かりました」
太鼓が鳴った。
頼政の兵は中央だけでなく、政澄が左へ、政虎が右へ広がった。政澄には高晴が、政虎には重尚と政忠がつき、それぞれの手勢をまとめている。
「第一中隊、前へ!」
中央から来る兵を受けた瞬間、こちらの列が下がる。
弦十郎が叫んだ。
「第二小隊、二個分隊を中央へ寄せろ! 残りは右を空けるな!」
弦十郎の兵が隙間へ入り、押し込まれた列を支えた。
左では可成が政澄の兵とぶつかった。押された列の隙間へ、高晴が後ろから人を送り込み、崩れる前に埋めている。右へ出た久助の第三中隊は畦の向こうへ消えた。
第三中隊の伝令が日吉丸のもとへ走ってくる。
日吉丸が伝令を止めた。
「どこからの報せでございますか」
「第三中隊です。進路を塞がれ、与左衛門様が用水路沿いへ回っております」
「久助殿は」
「第一小隊を連れ、後へ続いております」
日吉丸が俺へ報告した。
「若様、第三中隊は進路を変えたそうでございます。与左衛門殿が先に回り、久助殿が続いております」
「聞いた。次を待て」
俺から命令を出す必要はない。
左では政澄の兵が少しずつ下がり、その後ろに頼政の旗が見えていた。
犬千代が旗を指した。
「あれを取れば終わるがね」
「見せているだけだ、犬千代」
可成は政澄の後ろへ寄る後備を見た。
「犬千代。二個分隊をここへ残せ。三個分隊は右へ出せ」
「旗へ行くのか、三左殿」
「後備をこちらへ向かせる」
「分かったがね」
犬千代が三十人を動かすと、後備も向きを変えた。可成は旗へ進まず、政澄と後備を左へ留める。
久助の第三中隊は、頼政の陣の後ろへ出た。
政虎の後ろで、重尚と政忠が兵の一部を割き、現れた久助たちへ向け直そうとしていた。だが、動かした先から与左衛門の兵に道を塞がれ、思うようには進めない。
与左衛門は、伝令と兵が戻る畦へ小隊を広げた。
「久助殿、追ってくる者は、こちらで足止めいたします」
「与左衛門は道を空けるな」
「承知しました」
第三中隊からの伝令が届く。
日吉丸が俺へ叫んだ。
「若様、第三中隊が敵の後ろへ出ました! 与左衛門殿が道を押さえ、久助殿が旗へ向かっております!」
頼政の中央が後ろを振り返った。
弦十郎が木槍を上げる。
「第二小隊、押し返せ!」
俺も第一小隊を進めた。
その向こうでは、政虎の兵がこちらの大将旗へ迫っている。
「弦十郎、中央を任せる!」
「承知しました!」
自分の小隊から二個分隊を割き、旗へ戻った。
政虎が木槍を構える。
「若様自ら戻られましたか」
「彦九郎を止める者が足りなかったからな」
「では、ここで決めましょう」
政虎の槍を受け、突き返す。
旗の周りで兵が押し合う中、遠くで声が上がった。
頼政の旗を守っていた者たちは、久助の一隊が迫るのを見て、槍を並べ直した。だが、重尚と政忠が回した加勢は間に合わず、正面と背後の両方から押される形になる。
一人が押し出され、列に隙間ができた。旗竿を支えていた男の腕が緩んだ瞬間、久助の兵がそこへ手を伸ばす。
竿を引き合う声が上がり、旗が大きく揺れた。
やがて、頼政の大将旗が傾き、久助の兵がその周りへ集まっていた。
終了の太鼓が鳴る。
頼政が槍を下ろし、俺を見た。
「お前が久助へ、旗を取れと命じたのか」
「命じていません。第三中隊には、右から後ろへ入り、伝令と兵が戻る道を押さえろと伝えました」
「旗へ向かったのは」
「久助の判断です」
「三左衛門が左で止まったのもか」
「あれも三左衛門の判断です」
「一人ずつなら、まだこちらの兵が勝つ」
「はい」
「だが、三百人では負けた」
頼政は、倒れた旗ではなく、整列する三百人を見た。
「なるほど。お前は兵を集めたのではない。軍を作ったのだな」




