第115話 桶狭間の後始末
永禄三年(1560年)、五月二十日。
尾張国、知多郡、大高、大高城。
昨日まで兵で埋まっていた大高城は、今日はずいぶん静かになっていた。捕虜は手当ての必要な重傷者を除き、順に江野へ送り出した。押収した槍や刀、具足、馬、城内に残っていた物資も帳面に記し終え、橘の旗もすでに下ろしている。残る荷と負傷者を運び出せば、俺たちの仕事は終わりだ。
城門の方が騒がしくなり、見張りに立っていた橘兵がこちらへ駆けてきた。
「連隊長殿、織田方より使者が参っております」
兵に続いて入ってきた水野下野守信元は、俺の前まで進み、頭を下げた。
「水野下野守にございます。上総介様の命により、大高城の引き継ぎに参りました」
「橘十兵衛です。ちょうど後始末が終わるところです。城内の帳面も残していきますので、あとはお願いします」
「承知いたしました。上総介様より、十兵衛殿にはこのまま清洲へお戻りいただきたいと承っております」
「分かりました」
これで大高を織田へ引き渡せる。ただ、元康は信元の甥だ。俺はそのことに一言触れてから、城を任せることにした。
「下野守殿。次郎三郎殿を亡くされた御心中、お察しします。ただ、これも戦のことですので」
「……承知しております。某は上総介様より、大高を預かるよう命じられております。今は、その役目を果たすのみと心得ております」
「では、大高をお願いします」
それ以上、この話には触れなかった。敵として戦った俺が何を言っても、慰めにはならない。
城を引き渡す前に、もう一つ命じておくことがある。俺は荷を検分している秀吉に声を掛けた。
「藤吉郎」
秀吉が手を止め、こちらへ来た。
「はい」
「お前は清洲には来なくていい。そのまま岡崎へ向かって、城を潰してこい」
「潰す、とはどういうことでございますか」
「言葉通りだ。空城なのは確認してある。松平が戻ってもすぐには使えないよう、門も柵も建物も残さず壊して、更地にしろ」
「城下はいかがいたしましょう」
「潰すのは城だけでいい。町を焼く必要はない」
秀吉は少し考えてから頷いた。
「承知いたしました」
「人は必要なだけ連れていけ。終わったら江野へ戻れ」
松平が勢力を立て直すための足場まで、残してやる必要はない。
* * *
清洲へ戻ると、城内はまだ戦勝の喜びに沸いていた。大軍を率いて尾張へ攻め込んだ義元を、信長が自ら出陣して討ち取ったのだ。城内を歩いていると、家臣たちの弾んだ声が耳に入ってくる。
俺は元康の首を収めた木箱を清興に持たせ、信長の前へ進み出た。
「上総介殿。此度の御勝利をお祝い申し上げます」
「お前に言われると妙な気分だな。わしが治部大輔とやり合っている間に、大高を丸ごと取っておるではないか」
信長は苦笑していたが、俺が清興に木箱を前へ置かせると、顔を曇らせた。
「……十兵衛。その箱は何だ」
「次郎三郎の首です」
「首だと。何故、首桶ではない」
そういえば、織田では首桶を使うのが普通だったか。
「橘では普段、首を取らせていませんので、首桶も用意していませんでした」
「戦へ出る家が首桶を持っておらぬのか」
「必要ありませんから」
「相変わらず妙なところで徹底しておるな」
信長が家臣に蓋を開けさせると、俺は元康の首を示した。
「大高で討ち取った松平次郎三郎です」
信長はしばらく元康の首を見つめていた。
「……竹千代か。まさか、こうして首を見ることになるとは思わなんだ」
「討ち取ったのは左近です」
「そうか」
蓋を閉じさせると、信長は俺へ向き直った。
「十兵衛、此度は助かった。お前が大高を押さえたおかげで、わしは治部大輔との戦に専念できた。礼を言う」
「礼には及びません。ただ、こちらもそれなりの損害を受けています。その分は補償していただきます」
「何が欲しい」
「大高で捕らえた今川方と三河方の捕虜、それに橘勢が押収した武具や馬、その他の物資です。それらを、こちらで処分させていただきたい」
「大高でお前が取ったものだ。好きにせよ」
「ありがとうございます。それと、佐々家についてもお願いがあります」
信長の顔から笑みが消えた。
「隼人正の家か」
「はい。隼人正殿の跡を、内蔵助に継がせたいと思っています」
「内蔵助は、とうにお前の家臣であろう」
「ですから、佐々家も橘にお預けいただきたいのです」
「尾張の家を一つ、丸ごと持っていくつもりか」
「内蔵助を尾張へ戻すつもりはありませんから、佐々家もこちらへ移していただく方が話は早いでしょう」
成政はもう橘の家臣だ。兄が死んだからといって、尾張へ戻すつもりはない。佐々家を成政に継がせ、家ごと橘へ移せばいい。
信長はすぐには頷かなかった。
「佐々は織田に仕えてきた家だぞ」
「承知しています。ですから、こうして上総介殿にお願いしています」
「わしが断ればどうする」
「それなら、橘で内蔵助を当主に据え、新たに佐々家を立てます」
「……何だと」
「尾張の佐々家を誰に継がせるかは、上総介殿がお決めください。こちらはこちらで、内蔵助の佐々家を立てれば済む話です」
信長が黙り込んだ。俺は返事を待った。
「佐々の家が二つになるぞ」
「こちらは困りません」
「お前が勝手にもう一つ佐々家を立てれば、困るのはわしだ」
「でしたら、今ある佐々家を内蔵助に継がせてください」
「お前は、こういう時だけ話を簡単にしすぎる」
「二つに分けるよりは簡単かと」
簡単に考えているのは確かだ。だが、成政が佐々を名乗っているのだから、こちらで別に家を立ててもおかしくはない。少なくとも、こっちが困る話ではない。
信長は呆れたように息を吐いた。
「……分かった。佐々家は内蔵助に継がせる。家中にはわしから話を通す。ただし、尾張にあるものまで何もかも持っていけると思うなよ」
「ありがとうございます。何をこちらへ移すかは、話し合いましょう」
「今度は何を取る気だ」
「まだ何も言っていませんが」
「お前のことだ。先に聞いておかねばならぬ」
失礼な。ともあれ、成政に佐々家を継がせる話はついた。俺は続けて、岡崎城のことも伝えた。
「それと、もう一つあります」
「まだあるのか」
「岡崎城は潰しておきます」
信長が眉を寄せた。
「……お前、わしに断りもなく三河の城を潰すのか」
「松平が勢力を立て直す足場を残す必要はありません。すでに藤吉郎を岡崎へ向かわせました」
「相変わらず勝手な奴だな」
「三河をお望みなら、上総介殿がお取りになればいいでしょう。こちらは当面、兵を出すつもりはありません」
「三河はいらぬと申すか」
「当面は、です。今年は他にもやることが多いので」
今川が崩れたからといって、今すぐ三河へ兵を出すつもりはない。俺は続けて、信長に西の備えについても伝えた。
「今後も西には橘がおります。そちらの心配はせず、上総介殿は東へ兵を向けられればいいかと」
「わしに三河を取れと」
「取るかどうかは上総介殿がお決めください。西を気にする必要はないと申し上げています」
信長は少し考えてから口を開いた。
「ならば、そうさせてもらうか」
信長が東へ進むなら、こちらは西を固めればいい。今はそれで十分だ。
* * *
数日後、江野へ戻った俺は、まず成政を呼んだ。成政は桶狭間の後も普段とさほど変わらない様子だったが、兄を失って平気なわけではないだろう。
成政が俺の前に座るのを待ち、話を切り出した。
「内蔵助。佐々家を継げ」
「某が佐々家を継ぐのでございますか」
「ああ。上総介殿には話を通してある。隼人正殿の跡はお前が継ぐ」
成政はしばらく黙った後、口を開いた。
「……兄者の家を、某が」
「お前が継がなければ、別の誰かが継ぐことになる。それが嫌なら、お前が継げ」
「十兵衛様は、佐々家まで橘へ移されたのでございますか」
「頼んだらくれた」
「そう簡単な話ではないと思いますが」
「少し揉めたが、最後には貰った」
成政が何とも言えない顔をした。俺は続けて、今後の役目についても伝えた。
「佐々家を継いでも、お前の役目は変えない。これまで通り第一大隊を預ける」
「承知しております」
成政はそこでようやく頭を下げた。
「……兄者に代わり、某が佐々家を継ぎます」
「ああ。頼む」
それ以上は言わなかった。兄をどう悼み、家を継いだことをどう受け止めるかは、成政自身のことだ。俺が横から口を挟む話ではない。
成政を下がらせ、継潤から受け取った損害の帳面を開いた。討ち死にの欄に記された二百七十二人という数字に、俺は目を留めた。
「……随分死んだな」
「はい。負傷者にも、まだ床を離れられぬ者がおります」
大高を落とし、元康も討った。それでも、二百七十二人の兵は帰ってこない。俺は帳面を閉じ、継潤に告げた。
「捕虜を使うぞ」
「三河勢でございますか」
「三河勢も使うが、まずは鵜殿だ」
呼び出した長照は、まだ傷が残っていたものの、俺の前まで歩いてきて座った。義元が死んだ今、今川家を継ぐのは嫡男の今川上総介氏真だ。長照の身代を求めるなら、氏真へ話を通すしかない。
俺は長照に尋ねた。
「単刀直入に聞くが、今川へ帰るか、俺に仕えるか。好きな方を選んでくれ」
「……少し、考える時を頂きたい」
「なら、今川へ帰れ」
長照が顔を上げた。
「お待ちくだされ。まだ御仕えせぬと申したわけでは――」
「ここで迷うような奴はいらない。今年は予定が詰まってる。お前一人が決心するまで待っていられない」
「十兵衛殿、どうか――」
「今川上総介殿に身代金を求める。払われれば帰してやるから、せめて銭になって失せろ。話は終わりだ」
長照はまだ何か言おうとしていたが、俺はそのまま下がらせた。使える男だとは思うが、俺に仕えるかどうかで迷うならいらない。
長照が出ていった後、継潤が帳面を開いた。
「十兵衛様。鵜殿の身代は、いかほどにいたしましょう」
「治部大輔の甥で、上総介とは従兄弟だろ、あいつ」
「左様にございます」
「なら、そうだな……四千貫でふっかけとけ」
継潤の筆が止まった。
「四千貫、でございますか」
「払うなら儲けものだ。払わないなら、それはそれでいい」
「値を下げてほしいと申してきても、応じぬと」
「そうだ。善祥坊、簡単にまけるなよ」
「簡単にも何も、まける余地がございませぬ」
「だから、ふっかけろって言っただろ」
次は三河勢だ。捕虜の名を調べさせたところ、使えそうな者は何人もいた。中でも目を引いたのは、帳面に並ぶ酒井小五郎忠次、石川与七郎数正、本多平八郎忠勝、大久保新八郎忠世、鳥居彦右衛門元忠の五人だった。
……いるじゃないか。主を失っても、仕えていた者たちは残っている。史実では後に徳川を支える連中が、今は揃って俺の捕虜になっていた。
三河勢を集めさせ、俺が一同の前に座ると、忠次が代表して口を開いた。
「我らをいかようになさるおつもりか、お聞かせ願いたい」
「選べる道は二つだ。武士を捨てて野に下るか、橘に仕えるか。好きな方を選べ」
三河勢の間にざわめきが広がる中、忠次が重ねて尋ねた。
「三河へ帰ることは、お許しいただけませぬか」
「帰ってどうする」
忠次が口を閉ざしたままでいるので、俺は続けた。
「次郎三郎は死んだ。岡崎城へ戻るつもりなら、それも諦めろ。今頃は藤吉郎が更地にしてる」
ざわめきが一段と大きくなり、元忠が堪えきれずに口を挟んだ。
「岡崎城を、潰されたのでございますか」
「そう命じた。松平が戻って、すぐに立て直せるような拠点を残す理由はないからな」
三河勢の顔が険しくなった。主を討った相手に、故郷の城まで潰すと告げられたのだ。無理もないが、条件を変えるつもりはない。俺は一同に告げた。
「どうしても三河へ帰りたいなら、俺の下で働け。俺が三河を取れば、お前たちの働き次第で任せることもあるかもしれない」
「では、いずれ三河へ戻していただけるので」
「そこまでは約束しない」
忠次は表情を曇らせ、問い返した。
「三河をお取りになるおつもりは、ないのでございますか」
「少なくとも今はない。上総介殿が取るかもしれないし、今川が立て直すかもしれない。俺にも先のことは分からないから、三河へ帰れるとは約束できない」
黙り込んだ忠次たちに、俺は今回の損害を告げた。
「こっちはお前たちとの戦で二百七十二人を失った。仕えるなら、その穴を埋めるだけの働きはしてもらう。もちろん、働きに見合う待遇は与える」
「次郎三郎様を討った御方に仕えよと、仰せになるのでございますか」
「そうだ。嫌なら野に下れ。無理に武士を続けろとは言わない」
すぐに返事をする者はいなかった。俺は一同の返答を待つ間に、家族のことにも触れた。
「三河に女房や子、親兄弟がいるなら申し出ろ。親類や縁者も、こっちへ来たい者がいれば引き受ける」
三河勢の間から驚きの声が漏れた。俺はそのまま言葉を継いだ。
「三河者のお前たちに伊勢の暮らしが合うかは分からないが、不自由させるつもりはない。家族を三河に残して仕えろとも言わない」
忠次が俺の顔を見直し、確かめるように尋ねた。
「我らの家族も、お引き受けくださるのでございますか」
「ああ。こちらへ来る気がある者は引き受ける」
俺は牛一を呼び、家族の受入れについて指示した。
「三河に残っている家族や縁者の名を書き出させてくれ。こちらへ来る者の受入れは、お前に任せる」
「承知いたしました」
俺は三河勢へ向き直り、返答を求めた。
「橘に仕えるなら、お前たちも家族も面倒を見る。あとは自分で決めろ」
しばらく相談する時間を与えると、三河勢は橘に仕えると答えた。皆が納得した顔をしていたわけではないが、拒む者はいなかった。
その日のうちに五人を改めて呼び、政基、清興、玄以、牛一、忠治を同席させた。松平の下で同じ釜の飯を食ってきた者同士を一か所に置けば、いつまでも三河の一団で固まるだろう。別々に配属し、それぞれの担当者の下で橘のやり方を覚えてもらうことにした。
俺はまず忠次と忠勝に配属先を告げた。
「小五郎、平八郎。お前たちは左近の下に入れ」
清興が俺に配属の意図を確かめた。
「某の下でございますか」
「ああ。小五郎には兵の動かし方を見せてやってくれ。平八郎には、まず勝手に突っ込まないことを覚えさせろ」
忠勝が口を挟んだ。
「某とて、むやみに突っ込んでいるわけでは――」
「大高では突っ込んでたぞ」
「……承知いたしました」
清興は忠勝に向き直った。
「命じられた持ち場で槍を振るえればよい。ただ前へ出ればよいというものではない」
「心得ました」
次に、俺は数正へ役目を告げた。
「与七郎は孫十郎の下で働け」
「軍の務めではないのでございますか」
「軍から外すわけじゃない。人と米と銭をどう手配するか、まずはそっちを覚えろ。それができなければ兵も動かせない」
玄以が数正に尋ねた。
「帳面は読めますかな」
「多少は」
「では、明日から帳面を読んでいただきましょう。その『多少』がどの程度か、確かめさせていただきます」
数正の表情が少し硬くなった。どこまで読めれば仕事を任せられるか、その辺りはたぶん俺より玄以の方が厳しい。
俺は忠世に配属先と仕事を告げた。
「新八郎は又助の下で、記録の付け方を覚えろ」
「何を書き留めればよいのでございますか」
「兵の数や損害、各人の働き、出された命令、それに荷の出入りだ。後から読んで、戦場で何があったか分かるように書き残せ」
「書役を務めよということでございますか」
「それだけじゃない。戦場で何を記録に残すべきか、自分で判断できるようになれ」
牛一が忠世に声を掛けた。
「まずは、此度の大高での戦を記した書付に目を通していただきましょう」
「承知いたしました」
最後に、元忠と忠治へ配属を告げた。
「彦右衛門は三郎左衛門の下で働け」
忠治が少し身を乗り出し、俺に確かめた。
「某にお任せくださるのでございますか」
「ああ。江野で家中の仕事を一通り覚えさせてくれ。人を預かり、守る務めも教えてやってほしい」
「承知いたしました」
元忠が忠治へ頭を下げた。
「これより御厄介になります」
「うむ。三河ではどのような務めに就いておったか、後ほど聞かせてくれ」
五人の配属先を決めた後、俺は一同に念を押した。
「次郎三郎殿に仕えていたことまで忘れろとは言わない。だが、橘に仕えると決めた以上は、昔の主への義理を理由に命令に従うかどうか迷うな」
忠次は俺に頭を下げて答えた。
「承知いたしました」
他の四人も頭を下げた。この場で誓わせたところで、忠誠まで得られるわけではない。まずは働かせて、それぞれに何ができるか確かめる。信用できるようになれば、任せる仕事も増やしていけばいい。
三河勢の残りも、家族や縁者を確認した上で、兵の部隊やそれぞれの仕事場へ分けて配属することにした。一か所に固めず、配属先の者たちと働きながら、橘の軍令や領内での暮らし方を覚えてもらう。
* * *
それからしばらくして、秀吉の使者が到着し、俺の前に膝をついた。
「十兵衛様、藤吉郎様より御報告にございます。岡崎城の破却を終えたとのことでございます」
「分かった」
門も柵も建物も、すべて取り壊したという。松平が岡崎へ戻っても、すぐには城を拠点に立て直せない。
その日のうちに、継潤も一通の文を持ってきた。
「十兵衛様、駿河より鵜殿の身代金について返答がございました」
「四千貫、出すと言ってきたのか」
「いえ、その額には到底応じられぬとのことでございます」
「本当に断ってきたのか」
「はい。そのように記されております」
……本当に断ったのか。俺は継潤に長照のことを尋ねた。
「藤太郎はどうしてる」
「まだこちらにおりますが」
「それは知ってるよ」
仕方なく長照を呼ばせると、何とも言えない顔をして俺の前に座った。
「駿河から返事が来た。お前の身代金は払えないそうだ」
「……面目次第もございません」
「俺に謝ってどうする」
長照は黙り込んだ。四千貫をふっかけたのは俺だが、向こうが払わない以上、帰す話もなくなった。俺は改めて仕官を命じた。
「まあいい。俺の下で働け」
「お仕えしても、よろしいのでございますか」
「他にどうしろってんだ。今度は迷うなよ」
「……承知いたしました」
今度は返事が早かった。これで桶狭間の後始末も一通り済んだと思ったところへ、廊下を急ぐ足音が近づいてきた。入ってきた近習は俺の前に膝をつき、報告した。
「十兵衛様、近江より急報にございます」
「何があった」
差し出された文を受け取って目を通すと、愛智郡の肥田城主、高野瀬秀隆が浅井方へ寝返ったとあった。
……今度は近江か。




