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近江の山奥から始める近代国家建設 〜転生田舎領主は戦国そのものを終わらせたい〜  作者: 近江もののふ
第三章 北伊勢戦役

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第90話 地獄の懲罰部隊へようこそ

 弘治二年(こうじにねん)(1556年)、十月。

 伊勢国(いせのくに)、三重郡(みえぐん)、江野(えの)、屋敷。


 光秀(みつひで)たちが江野へ着いたのは、昼を少し過ぎた頃だった。木曽川(きそがわ)を渡ってからも休みを取りながら進ませたが、明智城(あけちじょう)を出て以来、何日もまともに身体を休めていない。俺は一行を迎え入れ、まず女や子供、傷を負った者を、あらかじめ空けておいた屋敷へ案内させた。


 身重(みおも)の煕子(ひろこ)と光秀の母には、医者と女中を付けた。奥向(おくむ)きの手配は綾(あや)に任せている。ただ、綾も身重なので、世話は奥向きの者たちに任せ、指図だけしてもらった。


 弥平次(やへいじ)をはじめ、明智次右衛門光忠《あけちじえもんみつただ》、藤田伝五郎行政《ふじたでんごろうゆきまさ》、溝尾庄兵衛茂朝《みぞおしょうべえしげとも》ら、明智の郎党(ろうとう)も一緒に来ている。城と土地は失ったが、家族と家臣は残った。皆の落ち着き先が決まるのを待ってから、俺は光秀を正利(まさとし)の離れへ連れていった。


 戸を開けると、正利は縁側(えんがわ)の近くで茶を飲んでいた。脇には湯と菓子まで用意してある。俺たちが入っても立とうとしない。長良川(ながらがわ)で討死(うちじに)したことになっている男が、随分とのんびりしたものだ。


 正利が茶碗を置いた。

「来たか」


 俺の隣で、光秀が足を止めた。

「山城守(やましろのかみ)様……」


 正利は座ったまま光秀を見上げた。

「その名は長良川で死んだわ。今ここにおるのは西村勘九郎(にしむらかんくろう)という、茶を飲んで暮らしておる爺じゃ」

「本当に……山城守様なのでございますか」

「首でも見せれば信じるか。生憎(あいにく)、あれは長良川で誰ぞに持っていかれたことになっておる」


 その首は今もちゃんと付いている。光秀は冗談に応じる余裕もなく、戸口に立ち尽くしていた。


 正利が空いている座を顎(あご)で示した。

「ひどい顔をしておる。まず座れ。明智の城から落ちてきたばかりじゃ。着いた早々、すべて話せとは言わん」

「……はい」

「母御(ははご)と煕子殿は」

「無事にございます。こちらへ着いてから、十兵衛(じゅうべえ)様の奥方様に御手配をいただきました」

「なら、今日はそれでよい」


 光秀がようやく腰を下ろすと、正利も茶碗を取り上げた。以前なら、同じ部屋にいるだけで周りが口を慎む男だった。今は茶をすすり、気が向けば俺の話に口を挟み、飽きれば帰っていく。こうして見ると、本当に道楽爺になりつつある。


 だが、次に光秀へ声を掛けた時は、からかう調子が消えていた。

「兵庫頭(ひょうごのかみ)は城へ残ったか」

「……はい。叔父上は城に残り、某に城を出るよう命じられました」

「そうか」


 正利はそれ以上尋ねず、光秀も話を続けなかった。明智城は落ち、光安は城で腹を切ったらしいとの報せが江野にも届いている。だが、まだ確かめられていないことを、俺から光秀へ告げる気にはなれなかった。しばらくして、二人を残して離れを出た。


 * * *


 その日の夕方、光秀が俺を訪ねてきた。座敷へ通したものの、挨拶を済ませてからも、なかなか用件を切り出さない。木曽川へ向かう途中、新九郎は道や舟の手配について何度も尋ねられたという。聞きたいことは分かっていた。


 光秀は膝の上で手を揃え、俺へ向き直った。

「十兵衛様。なぜ、某をお救いになったのでございますか」

「理由を聞きたいのか」

「はい。何か月も前から道を調べ、舟を用意し、追手を防ぐ兵まで置かれていた。そればかりか、山城守様まで長良川からお救いになっている。某は今日まで、十兵衛様と一度もお会いしたことがございません。なぜ、そこまでなされたのです」


 前世で戦国時代を調べた時、明智城が落ちた際の逸話を読んだ。叔父の光安(みつやす)が、城を出る光秀に言い残したとされる言葉を、今も覚えている。


 俺は光秀を見て、その言葉を口にした。

「落ち延びて、明智の名をもう一度立てよ」


 光秀の表情が固まった。

「……なぜ、その御言葉を」

「俺には、お前の心の内くらい手に取るように分かるからだ」

「……左様なことが」

「あると思うか」


 光秀が返事に詰まったので、俺は冗談を切り上げた。疲れている相手を、これ以上悩ませることもない。

「冗談だ。どうして知っているかは言えない。ただ、その言葉を受けて城を出たんだろ」

「はい。その通りにございます」

「なら、橘で明智を立て直せ」


 光秀は俺を見たまま、続きを待っている。言葉を知っていた理由は明かせないが、助けた理由なら話せる。

「明智の家を捨てろとは言わない。俺の家中で働いて、ついてきた郎党を養え。城も土地も失ったが、家までなくなったわけじゃない。ここで、もう一度立て直せばいい」

「某を、橘家中へお召し抱えになると」

「ああ。お前の力を借りたかったから助けた。何か月も前から道を調べさせたのも、そのためだ。ただ、城に残るなら無理に連れ出すつもりはなかった」

「そのことも、新九郎殿から聞いております」

「出るか残るかまで俺が決めたら、お前が明智を立て直すことにはならないだろ」


 光秀は膝元へ目を落とした。俺は返事を急がせずに待つ。やがて光秀は両手をつき、深く頭を下げた。

「明智の名をもう一度立てるため、某を橘家中へお加えください」

「分かった。受ける」


 頭を上げた光秀を見て、今さら一つ気づいた。仕事を頼むにしても、このままでは呼び名が紛らわしい。


 俺は自分と光秀を順に指した。

「俺も十兵衛で、お前も十兵衛だろ」

「……はい」

「家中で十兵衛と呼ばれたら、二人とも振り向く。通称を変えてもらえないか」


 光秀に異存はなさそうだが、すぐに別の名が浮かぶわけでもない。俺は思いついた名を口にした。

「八兵衛(はちべえ)はどうだ」

「八兵衛、でございますか」

「うーん。うっかりしてそうだな。却下」

「……では、九兵衛(きゅうべえ)では」

「違うな」


 光秀が困った顔になった。俺から変えろと言っておいて、光秀の案まで退けているのだから無理もない。

「では、何と名乗ればよろしいので」

「九郎(くろう)にしよう。九郎判官にあやかって、明智九郎だ」

「源義経(みなもとのよしつね)公でございますか」

「名だけなら悪くないだろ」

「名だけなら、でございますか」

「最期まであやかる必要はない」


 光秀は「九郎」と一度口に出し、頭を下げた。

「承知いたしました。本日より、明智九郎と名乗ります」

「よし、九郎。明日から働いてもらう」

「早うございますな」

「人が足りないんだ」


 * * *


 翌朝、座敷には継潤(けいじゅん)と玄以(げんい)が先に来ていた。伊勢各地から集めた帳面が床に積まれ、その横には形の違う升(ます)が並んでいる。どれも一升として使われていた物だが、底の広さも高さも揃っていなかった。


 二人にはこれまでも、新しく従った土地の田畑や水利、年貢、蔵の中身を調べさせてきた。水沢(すいざわ)では玄以が村へ入り、井堰や水の配分まで聞き取っている。調べを広げるうちに、帳面の数字を比べる前から問題が見つかった。同じ一升、一斗でも、量る升そのものが土地によって違う。


 俺は光秀に、升と帳面を示した。

「九郎には当面、善祥坊(ぜんしょうぼう)の下で動いてもらう。村へ入る時は孫十郎(まごじゅうろう)と組め。升と帳面を照らし合わせて、数字の食い違うところを調べてくれ。違いを見つけても、その場で帳面を直さず、まず控えてほしい」


 玄以が帳面を一冊開き、光秀の前へ置いた。

「田畑の帳面も、古いものをそのまま使っているところがございます。某が村で今の耕地を確かめますので、その結果とも照らし合わせてくだされ」


 継潤は一方の升へ米をすり切りまで入れ、隣の升へ移した。隣の升がいっぱいになっても、元の升には米が残る。継潤は二つを並べて見せた。

「これで年貢を取り、別の升で蔵へ入れれば、それだけで数字が合わなくなります」

「わざと使い分けている奴もいるだろうな」

「ありましょう。ただ、土地ごとに違う升を使ってきたこと自体を罪にはできませぬ」

「そこは分ける。まず江野で基準になる升を一つ決めよう。同じ大きさの物を作って橘の焼印を入れ、村、城、蔵、それから市へ配る」


 継潤は升に残った米を戻し、切り替える順を確かめた。

「すべて一度に替えますか」

「まずは公に使う升からだ。年貢を納める時、蔵へ入れる時、兵糧を出す時は橘の升を使う。市は新しい升が届いたところから替えればいい。ただし、古い升は捨てるな。どの村で何を使っていたか、先に控えておけ」

「以前の帳面と比べるためでございますな」

「ああ。新しい升が届く前の数字の違いでは罰しない。届いた後で升を使い分け、米を抜く奴がいたら調べる。善祥坊には、各地の調べを集めて、村と蔵と兵糧の数字がどこで食い違うか確かめてもらう」


 光秀が升を手元へ寄せ、帳面の記載と見比べ始めた。玄以は村へ出て調べ、継潤は各地から届く結果を集める。光秀には升の違いも踏まえ、量と記録が合わない理由を追ってもらう。


 帳面の石高を足すと、近江側の九村を除いた伊勢領は、およそ六万三千石になる。俺はその数字を指で押さえた。

「実際に、これだけ取れると思うか」


 継潤が答えた。

「今は申し上げられませぬ。荒れた田もあれば、帳面にない田もございましょう。升もまだ揃っておりませぬ」


 継潤の返答も慎重だった。土地を測り直すかどうかは、その先の話だ。今は升と帳面を調べるだけでも相当な仕事になる。


 こうした取り決めを伊勢全体へ広げる前に、頼政へ確かめておきたいことがあった。戦をする、城を残すか廃するか決める、従った者に仕事を与える。そこまでは、これまでも俺が伊勢で進めてきた。


 だが、升の統一や寺領の扱いまで決めるとなると、どこまで俺の判断で進めてよいのか分からない。そのたびに朝霧へ伺いを立てるのも手間だ。俺は頼政へ書状を出し、今後の伊勢領内の仕置きを任せてもらえるか尋ねた。


 数日後に届いた返書は短かった。


『伊勢はお前に任せる。好きにせい。決めたことの責はお前が負え。それと、たまには朝霧へ帰れ』


 最後の一文が余計だ。ともかく、六角家や義賢に関わる話を除けば、伊勢の仕置きは俺が決めていい。


 升に続いて手を付けたのは寺だった。各地の調べを見ると、寺が持つ土地や権利は場所によってまるで違う。田畑を持つだけでなく、村から米や人足を取り、道で銭を徴収し、村人同士の揉め事を裁く寺もあった。寺侍や僧兵まで抱えていれば、小さな領主と変わらない。


 坊主が経を読み、死人を弔い、村人が仏を拝むことに口を出すつもりはない。だが、寺というだけで橘の役人を追い返し、村を支配できるなら、領内の決まりを揃えようがない。


 俺は継潤と玄以の前に、新しく作らせた寺院帳(じいんちょう)を置いた。

「伊勢の寺をすべて、この帳面に載せる。寺領、僧の数、寺に属する者、収入、蔵の中身、武器、日頃出入りする者まで記させろ。調べを終えた寺から、橘領内の寺として認める」


 継潤は帳面へ手を伸ばす前に尋ねた。

「寺をなくされるおつもりではございませぬな」

「寺は残す。本堂、僧坊、墓と、それを維持するための財産は寺の名で持たせる。本尊や経を取り上げる気もない。ただし、村そのものを寺領として支配するのは終わりだ」

「年貢や労役もでございますか」

「寺が村から勝手に取るのは禁止する。関銭を取るのも、村人同士の揉め事を勝手に裁くのも認めない」


 前世でいえば、寺を宗教法人として登録させるようなものだ。ただ、寺侍や僧兵は認めない。軍用の槍、弓、鉄砲を持たせず、軍勢のための兵糧も蓄えさせない。罪人や逃亡者を匿い、役人の立ち入りを拒むことも許さない。


 宗派は問わない。橘の法に従い、寺として営むなら残す。そこまで聞くと、継潤は帳面に応じない寺の扱いを尋ねた。

「登録を拒む寺は、どうなされます」

「まずは条件を説明する。書き間違いや記載の不足なら、直させればいい。その上で橘の法には従わないと言う寺は、解体する」

「僧は」

「拒否に同調し、解体の命にも従わない者は死罪だ」


 玄以は寺院帳を見ながら、寺に頼っていた村人のことを尋ねた。

「その寺へ葬儀や供養を頼んでいた者は、どういたします」

「近くの認めた寺へ引き継がせる。本尊や経、位牌、過去帳も移し、墓の管理を任せろ。寺を解体した後も、葬いを頼む先がない村は作るな。ただ、別の寺に頼みたい者まで縛らなくていい」

「近くに寺がない村も出ましょう」

「遠すぎて困るなら、村から新しい寺を建てたいと願い出てもらう。僧と寺地、維持の仕方を確かめて、問題がなければ認める」


 継潤が顔を上げた。

「解体した寺を、以前の権利まで含めて建て直すことは認めぬのでございますな」

「ああ。村を支配する権利は戻さない。寺は、寺として残す。それで進めてくれ」


 寺院帳と升の調べで各地へ人を出すうちに、取り締まりの不備も見えてきた。城には城番、村には警固の者がおり、市や街道、蔵、鉱山にもそれぞれ見張りがいる。


 だが、山賊が村をまたいで逃げたり、盗品が別の市へ流れたりした時、追って調べる役目は誰のものなのか決まっていない。城主や村役人が不正に関わっていれば、現地の者だけでは調べにくかった。


 * * *


 十月半ば、俺は弥平次、光秀、光忠、行政、茂朝を座敷へ呼んだ。五人が揃ったところで、新たな役目を伝える。

「内務軍(ないむぐん)を置く。人数は三百から四百ほどだ。今いる警固や番の者を組み替え、新たに雇う者も加える。常備軍とは別に、領内の治安と犯罪、不正の取り締まりを任せる」


 山賊や逃亡者の追跡に加え、盗品や蔵米の横流し、武装集団、役人の不正も調べさせる。街道、市、蔵、鉱山も担当することを伝えると、光秀が尋ねた。

「城番や村の警固に代わって調べるとして、相手が城主なら立ち入りを拒むこともございましょう」

「内務軍の調べは拒めない。城主でも役人でも、軍の者でも区長でも寺でも同じだ。城、屋敷、蔵、寺に入り、帳面や武器、盗品、証拠になる物を押さえられる。邪魔した者はその場で捕らえていい」


 弥平次が身を乗り出した。

「御家中の屋敷を改める時も、主の許しは要らぬのでございますか」

「要らない。通常の軍を動かす権限は与えないが、兵が盗みや横流しをしたなら、上役の許可を待たずに調べろ。報告は俺へ直接上げる。城主や奉行を間に入れるな。調べを止められるのは俺だけだ」

「裁きも、内務軍が下すのでございますか」

「そこまでは任せない。捕縛、取り調べ、証拠の確保、武器の取り上げまでだ。処刑、所領の没収、家の取り潰し、寺の解体は俺が決める。捕らえたからといって、勝手に首を刎ねるな」


 区長の選挙にも立ち会わせる。銭を配って票を買う、村人を脅す、投票箱をすり替える。そうした不正があれば選挙を止め、証拠を押さえて関係者を捕らえる。必要なら選挙を無効にし、やり直させるつもりだ。


 相手が村の有力者でも家臣でも、調べから外す気はない。身分や縁故で免れると思われては、内務軍を置く意味がなかった。


 光秀が尋ねた。

「それで、誰に内務軍を預けられるのでございます」

「弥平次。お前がやれ」


 名指しされた弥平次は、すぐには返事をしなかった。江野へ来たばかりで、三百から四百人を預けられるのだから無理もない。本当ならもう少し働きを見たいが、今は人を選ぶ余裕がなかった。


 俺は弥平次へ、任せる理由を話した。

「明智城を出てから、女や子供を含む一行をまとめ、ここまで連れてきた。それに、伊勢の国衆や寺と古いしがらみがない。今はその方がいい」

「されど、某一人では」

「一人でやらせる気はない。次右衛門は実働の兵を指揮してくれ。伝五郎は捕らえた者への取り調べと、現地での聞き取り。庄兵衛は押さえた物と帳面の記録だ。誰をいつ捕らえ、どこへ移したかも残してくれ」


 三人への役目を聞くと、光秀が尋ねた。

「この者たちは、明智の家臣のまま内務軍へ入るのでございますか」

「ああ。ただ、内務軍の仕事をする時は、俺から弥平次へ出す命で動いてもらう」

「承知いたしました」


 光秀には升と帳面を任せ、郎党にもそれぞれ役目を持たせる。明智の家名を残すために、一同を同じ仕事へ固めておく必要はない。


 * * *


 内務軍の最初の仕事は、ほどなく見つかった。員弁の山中に十六人ほどの山賊が根城を作り、村へ下りて米や銭を奪っている。街道を外れた旅人も襲われていた。


 弥平次は周辺の道を調べさせ、先に逃げ道へ兵を回した。俺も最初の仕事だけは現場へ行き、どう捕らえるか見届けることにした。


 山中の小屋を囲むと、気づいた山賊が外へ出てきた。二人は刀を抜き、もう一人は槍を構えて斜面を下りてくる。弥平次が前の兵へ声を張った。

「無理に斬るな! 小屋の方へ押し戻せ! 逃げ道を空けるな!」


 兵が盾を並べ、隙間から長槍を突き出した。山賊の刀が盾を叩く。横へ抜けようとすれば、別の穂先に行く手を塞がれる。


 一人が盾の脇へ飛び込んだ。兵が槍の柄で刀を押さえ、別の兵が足を払う。倒れたところへ三人が寄り、腕と身体を押さえて縄を掛けた。


 槍を持った男は突きを繰り返し、近づいた兵の腕を裂いた。そこへ横から盾を押し付けられ、構えが崩れる。槍を引き戻す前に長槍の柄で上体を押され、地面へ倒れたところを取り押さえられた。


 殺すだけなら、小屋を囲んで鉄砲を撃ち込む方が早い。だが、それでは誰が何をしたのか調べられない。抵抗する者にも縄を掛け、小屋にいた山賊十六人を捕らえた。中をさらに改めると、別の男が二人隠れていた。


 江野へ連れ戻してからは、一人ずつ分けて調べさせた。奪われた品、村人の証言、仲間同士の話を照らし合わせる。同じ小屋にいたというだけで、一律に罪を決めるつもりはない。調べが進むと、後から見つかった二人は、都で人を殺して逃げてきた者だと分かった。


 山賊の頭領と、実際に人を殺していた三人。都から逃げてきた二人も死罪とした。残る十二人も、武器を持って人を襲い、米や銭を奪っている。こいつらまで死罪としても、おかしくはない。


 俺は十二人を庭へ並ばせ、縄を掛けられた男たちに告げた。

「二つから選べ。死罪を受けるか、三年間、懲罰部隊(ちょうばつぶたい)で働くかだ」


 前列の一人が顔を上げた。

「懲罰……部隊とは」

「戦になれば一番危ないところへ行ってもらう。城攻めなら堀を埋め、柵を壊し、梯子を掛ける。必要なら正規兵より先に突入口へ入る。最初に矢や鉄砲を受けることもある」

「それでは、死ねと申されるのと同じでは」

「本来なら死罪になるところを、三年の軍役に替えると言ってるんだ。安全な仕事だとは思うな」


 男は黙った。ほかの者も返事をしない。俺は条件の続きを伝えた。

「先に出た者が死ねば、その身体が後ろの者の盾になることもある。それでも三年生き残れば自由だ。望むなら、そのまま通常の軍に入れてやる」


 すぐに答える者はいなかったが、死罪を選ぶと言う者もいなかった。十二人は全員、懲罰部隊に入ることを選んだ。


 その頃、各地から寺院帳も届き始めていた。寺そのものをなくす話ではないと分かり、寺領の支配を失うことに不満を述べながらも、登録に応じる寺が多い。一方、説明を受けた上で橘の法には従わないと拒む寺もあった。


 そうした寺には内務軍を入れた。なお登録を拒み、解体の命にも従わなかった僧は捕らえる。本尊、経典、位牌、過去帳は運び出し、墓の管理と葬儀や供養を引き継ぐ寺を決めた。近くに認めた寺がない村には、新しい寺の建立を願い出る手順も伝えさせた。


 処刑の日、江野の外に死罪を言い渡した者たちが並べられた。山賊の頭領ら四人、都から逃げてきた二人。それに、寺の解体命令に従わなかった僧らもいる。鉄砲を持った兵が前へ出て構え、合図とともに銃声が重なった。


 処刑を終えてから、寺の解体に取り掛からせた。仏像や経典は引き継ぐ寺へ渡してあり、燃やす必要はない。使える材や石も残させる。拒んだ寺はなくすが、村人の葬いや供養まで途絶えさせるつもりはなかった。


 翌日、懲罰部隊の十二人に、通常の兵を一人、まとめ役として付けた。今は正式な分隊長や小隊長を置く人数ではない。人数が増えたら分ければいい。


 まとめ役の兵は十二人を並ばせ、一人ずつ顔を確かめた。

「三年だ。逃げれば捕まる。戦になれば俺たちより先に行く。三年生き残れば、その時は好きにしろ」


 誰も返事をしなかった。兵は男たちを見渡し、口元だけで笑った。

「地獄の懲罰部隊へようこそ」

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