魔法使いのお姉さま再び②
「あら残念」
ラビアンはそう言うと、唇をチロッと舐めた。
「ちょっとこちらのシャーマン様にお願いがあったのだけれど」
「俺に何か頼み事ですか?」
「ええ。このお店は、冒険者たちにとても人気があるでしょう? つまり、ダンジョンに関わる有力者の方たちとも繋がりがあるはずよね。……そのコネを使って、貴族を紹介して欲しいの。たとえばそうね……侯爵様とか」
「そ、そんな偉い方知りませんよ」
「あら変ね。白狼族のガスパウロ様と懇意にされているようだけど……」
ラビアンはそう言うと、レジ前に置かれた、ちぎれた硬貨に視線をやった。
「ガスパウロ様は、お客として来ていただきましたが、侯爵様なんてお会いしたこともないですよ」
「ふう~ん。残念だけど出直すしかないようね」
「あの。ラビアン様。ひとついいでしょうか」
「なあに?」
クリスが意を決したように前に進み出た。両手の拳を握り、ラビアンをにらみつけている。
「先ほどセトーミ様に『魅了」』の魔法を使われたのはどういうことですか!」
「あら? 私としたことがごめんなさいね。気を付けてないと自然と出ちゃうの。これでも押さえているつもりなんだけど。シャーマン様にも謝罪します。……だってシャーマン様は王都のどなたよりも素敵で……思わず欲しくなるのも当然ですもの」
「セトーミ様は絶対ダメです!」
「あら残念。でもね。誰を好きになるかなんてシャーマン様が決めることでしょう」
「むうう……」
「ねえ。あなた私と勝負をしない?」
「望むところです!」
「ちょっと待ってください。クリスがラビアンさんみたいな魔法使いと勝負して勝てるわけがないじゃないですか」
「ふふふ……。何も二人で戦うんじゃないのよ。あなたが作った料理で私の舌をうならせたらあなたの勝ち。私は負けを認めて引き下がるけどいかがかしら」
「それってクリスがどんなに美味しい料理を作っても『マズい』って言われたら負けになるでしょう」
「あら。シャーマン様は随分この子の肩を持つのね。ご心配なく。私はそんな卑怯なことはしないわ。私の判定が妥当かどうかは、ここにいるお客さんたちに決めてもらいましょう」
ラビアンの言葉に、俺たちの成り行きを固唾をのんで見守っていた冒険者たちが、我に返ったかのように騒ぎ出した。
「えっ?! 俺たちにも食わせてくれるのか?」
「こりゃ見ものだぜ。俺もクリスちゃんの料理の腕前は気になっていたんだ」
「何しろ毎日シャーマン様の料理を見ているんだから、美味いに決まってるさ」
「クリスちゃんの料理を食えるなんて俺たちツイてるな」
「でもよ。もしクリスちゃんが勝負に敗けたら、この店はどうなるんだ?」
「さあな」
「ふふふ……。皆さんご心配なく。もし私が勝てば王都での仕事は辞めてシャーマン様と二人っきりでお店を続けるから安心してね」
「おおお!」
「ちょっと勝手に決めないでくださいよ!」
「大丈夫です。私、絶対に敗けませんから!」
「実はちょうどいい食材があるの」
ラビアンはそう言うと、ポーチの中から、5キロほどの生肉の塊を取り出した。どう考えてもあの小さなポーチから出てきたとは思えない大きさである。
「このロックバードのお肉を使ってちょうだい。肉料理でお願いね」
「おおお~っ!」
「こんな高級肉が食べられるのかよ!」
「ちょっと、クリス……大丈夫か?」
「はい。頑張ります!」
心配する俺をよそにクリスは力強く頷いたのだった。




