魔法使いのお姉さま再び①
ラビアンが店を訪れた翌日、俺とクリスの間には微妙な空気が漂っていた。
「あの…セトーミ様、昨日のお客様……ラビアン様でしたよね?」
「ああ、そうだ。魔法学院の教授だって言ってたけど。どうしたんだ?」
「あ、あの……えっ~と……」
クリスは一瞬口ごもると、小さな声で続けた。
「実は、王都にいた頃、彼女の噂を耳にしたことがあって……」
「噂ってどんなの?」
「こんなこと言うべきかどうか迷ったのですが、ラビアン様は……と、とても優秀な魔法使いですが、ちょっと少し……変わった方だと。目的のためなら手段を選ばないと聞きました。特に珍しい魔石や、強い力を持つ者を集めるのがお好きだと……」
「そんな噂があったのか」
クリスの言葉に俺は思わず眉をひそめた。ラビアンは何か企みでもがあるのだろうか。
「それから、殿方も……。どうか、あの方にはお気を付けください。ラビアンさまはとてもお綺麗な人ですが、ご自分が気に入った男の人なら既婚者であろうがなかろうが、見境なく奪うらしくて」
「え? まさか、あの人が?」
「もしセトーミ様の身に何かあればと思うと、心配で心配で……」
“カランコロン~♪”
「ふふ、またお邪魔するわよ、店主様」
見ると、そこにはこの前と同じく艶やかな笑顔を浮かべたラビアンが立っていた。彼女の手には、また新たな魔石らしきものが握られている。
「いらっしゃいませ……」
俺は一応、店主として平静を装いながらラビアンを迎えたのだが、クリスの言葉が頭を巡っている。
「ふふふっ。店主様ったら緊張してるのかしら。そんなに警戒しなくてもいいわよ。私はただ、美味しいランチと……素敵なシャーマン様に会いに来ただけなんだから」
ラビアンはそう言うと、カウンター席に優雅に腰を下ろした。タイトスカートの切れ込みが割れ、白磁のような長い脚が覗いた。
「ご注文はいかがしましょう」
奥に駆け込んでいったクリスがいつの間にか表に出てきている。硬い声のクリスに、ラビアンは微笑みながらメニューを手に取った。
「そうね…やっぱり店主様のおすすめを頂こうかしら。それと……」
彼女はそこで言葉を切り、意味深な笑みを浮かべながら、手に持っていた魔石をそっとカウンターに置いた。
「これ、今日の代金として受け取ってもらえるかしら?」
「これは?」
俺は思わず魔石を見つめた。確かにスライムの魔石にしては異様だ。ギルドで扱うような普通の魔石とは明らかに違う。クリスが隣で小さく息をのむのが聞こえた。
「きゅいっ……きゅいー!」
キュイもまた、ラビアンの膝元で小さく震えながら鳴いている。
「これはね、ちょっと特別な魔石なの。実は、貴方に少しお願いがあって……」
「自分にできることでしたら、何でもおっしゃってください」
「まあ、素敵」
柔らかで色気のある声。大きく胸元が開いたブラウスに深くスリットの入ったタイトスカート。泣きほくろの流し目にちろっと唇を舐めあげるしぐさ……。
「嫌っ」
「クリス?! あれ? 俺、さっき……」
クリスが、俺の腕を両手で掴んでふるふると首を振っている。
おかげで俺は、ようやく正気に戻ることができたのだった。




