魔法使いのお姉さま再び③
「じゃあ、時間は半刻でいいかしら」
ラビアンはそう言うと、砂時計をひっくり返した。1刻とはおよそ1時間くらいだから、制限時間は約30分。それにしてもクリスは肉料理なんて出来るのだろうか。
「クリスちゃん頑張ってくれよ」
「応援してるぜ」
「はいっ。絶対に敗けません!」
冒険者たちの声援が店内に響く中、キッチンへと向かうクリス。
「シャーマン様は、あの子に一体、どんな味を仕込んだのかしら?」
「いや、それほど大袈裟なもんじゃないですよ」
「まあ。うらやましい。わたしにも教えて欲しいわ」
カウンターに肘をついて妖艶な微笑みを浮かべるラビアン。今回ばかりは、彼女のきわどい姿を気にする余裕なんてない。
クリスは俺が夕飯を作っている姿をよく見ていたものの、自分一人で料理をしたことなど、数えるくらいしかないのだから。
◆
「う~ん」
一方、クリスはキッチンでロックバードの肉を手に取り、真剣な眼差しで観察していた。
(たしかに、高級なお肉でしょうけど、少し硬いかも……)
「クリス、焦らずに! 時間は30分あるんだから、落ち着いていけよ」
「はいっ、セトーミ様!」
「ふふっ。心強いお返事ね」
ラビアンはそう言うと笑みを浮かべて髪をかきあげた。
「これは期待できそうだぜ」
「俺はクリスちゃんに1000ギル! あの気合なら絶対美味いぞ!」
「いや、ラビアン様の舌は厳しそうだ。果たしてお眼鏡にかなう料理ができるかどうか。俺はラビアン様に賭けるぜ」
「お前、クリスちゃんを見限るのかよ」
「いや、そういう訳では……」
「お前らしょぼい金額賭けやがって。俺はクリスちゃんに2000ギルだ!」
「大して変わんないだろうが‼」
ラビアンの言葉に、冒険者たちはさらに盛り上がり、賭けまで始まったのだった。
◆
一方、キッチンでは、クリスがお湯を沸かせながら、肉を柔らかくする方法を必死に考えていた。包丁を握る手には力が入り、額には汗が光っている。
確か、鶏肉を異世界から召喚された後、こうしておられたような……。
クリスは包丁で筋を切り、さらに念のために表面にも軽く切り込みを入れることにした。脂は旨味を保つため適度に残すことにした。
(あっ。早く茹でなきゃ)
うどんの出汁で、下処理をした肉を煮込んでいった。
(ううう……時間足りるかなあ。よし、こうしちゃおう!)
ある程度火を通した後、ロックバードの肉をタッパに移し、ぶっかけうどんのツユを全体になじませていく。
たしかセトーミ様は、粗熱をとってから魔道具である『冷蔵庫』に入れて冷まされていた気がするのだが、そんな暇はない。
盛り付けを考えながら皿を用意した。ここからは時間との勝負だ。
「クリス、あと少しで終わるぞ!」
「はい!」
クリスはフライパンを用意すると、油を敷き、ロックバードの肉を入れた。
ジューッという音と共に、肉と出汁が焦げる、いい香り広がった。
「おっ、旨そうな匂いだな」
「これは期待できるぞ」
しばらくすると、そんな冒険者たちの声が聞こえてきた。
「おい、クリス。そろそろ盛り付けに入らないと、もうすぐ時間切れだぞ」
「はい」
フライパンから香ばしい焼き色の付いた肉のブロックをまな板に載せると、包丁でそぎ切りにした。色どりでサラダも添えたかったがそんな時間もない。このまま出しちゃおう。
「セトーミ様、できました!」
◆
「うひょう~♪ こいつは旨そうだ」
「おい待て待て。姐さんが先だ」
「待ちきれねえや」
お皿に盛られたのは、ロックバード肉を使った鳥チャーシュー。
ほかほかと湯気を立てている大皿を、ラビアンと冒険者たちが取り囲んだ。
「では、私からいただくわね」
ラビアンはそう言うと、箸で上手にチャーシューをつまんで口に入れた。それを見て冒険者たちも我先にと口に入れる。
「うん。確かに美味しいわ。けど、何か物足りないわね」
「そ、そんな……」
ラビアンの言葉に目に涙を浮かべるクリス。そんな彼女の姿に冒険者たちがたまらず口を開いた。
「物足りないなんてことはないですよ」
「そうそう。ひと噛みするたびに肉汁が溢れますぜ」
「それに、肉のうま味はそのままに、口の中でほどけるようにやわらけえ」
「姐さんちょっと厳しすぎるんじゃありませんか」
「みんなの言いたいことは分かるわ。でもね……何か物足りないの」
「…………」
◆
「はい、お待ちどうさま」
「シャーマン様、いつの間に……う~ん。それにしても上品な香りね」
ラビアンと冒険者たちがクリスの鳥チャーシューを食べているところへ、俺はかけうどんを持ってきた。驚く皆をよそに、うどんの入ったお椀を配った。薬味は刻みネギのみである。
「みなさん。クリスの作ったロックバードの肉を乗せて食べてみてください」
「ずっ……シャーマン様、このおうどん、いつものスープじゃないわね」
「ロックバードの煮汁をダシに加えました。それにクリスが作った鳥チャーシューを載せて食べてきてください」
「ズバッ、ズズズ……はふっ、うまっ!」
「ゴクッ。ふうう……。もうなくなっちまったぜ」
「シャーマン様、料金払うから丼で食わせてくれよ」
「俺もだ」
「こっちも」
「分かりました。クリスが作ったロックバードのゆで汁が無くなるまで皆さんにお出ししますよ」
「よおし」
「やった!」
「そうこなくっちゃ!」
「ご馳走様。言うまでもなく私の敗けね。美味しかったわ」
ラビアンは口元を軽く拭くと、魔石を置いて店を後にしたのだった。




