風呂上がりの生中(前編) 冒険者編
「ふーっ。いいお湯だった。クリスちゃんナマチュー頼む」
「はーい」
俺は、カウンターに座ると首にかけた手拭いで汗をぬぐった。
ここで貸し出されるユカタなる部屋着は、なんだか股のあたりがスース―して心もとないが、通ううちにすっかり慣れた。今ではこのスタイルがすっかり気に入っている。
(しかしな……)
自分もベテラン冒険者としての自負はあるが、もういい歳だ。大物を狩るのは難しくなってきた。そろそろ引退して落ち着くのも悪くない。
「ジェイクさん、ナマチューお待たせいたしました~」
「おおっ! これこれ!」
白く霜が降りたようなグラスの取っ手を持つと、冷気が手のひらを伝わる。中身だけでなくグラスまでキンキンに冷やされている証拠だ。
“ごくり”
ジェイクは思わず生唾を飲み込むと、かまりかねたかのようにジョッキを傾けた。
「んぐ、んぐ、んぐ……くう~っ!」
風呂上がりの火照った体にはこのナマチューとかいうエールほど美味いものはない。
今日は仕事も無事に終えて、あとはギルド直営の安宿で寝るだけである。思う存分飲んで帰るつもりだ。
「相変わらずいい飲みっぷりですね。こちらセトーミ様から、食材のお礼だそうです」
「ありがとう……で、クリスちゃん、これは一体何だ?」
お礼を言われる覚えは無いのだが、それよりお礼として出された小皿が気になる。
小皿には、白っぽい豆と細長く赤茶色の得体の知れないものが盛られている。
実家が王都で食堂を営んでいるせいもあり、ジェイクは食材については詳しい方だとは思うが、何か見当もつかない。わざわざ異世界から取り寄せられたモノだろうか。
「カキピーです。ピリっと辛口で『ナマチュー』によく合うんですよ」
やはり、異世界から召喚された珍味のようだ。
カリッ、ポリッ……。
あっ辛い。
いや、美味い。
おかきの歯ごたえとピーナッツの食感。そして口の中に辛味と甘にがさが複雑に絡み合う。こ、これは……‼
カキピーひとつまみ口に入れたと思うと、いつの間にかナマチューを口に運んでいた。
そして、小皿とグラスが空になってはじめて我に返った。
なんてことだ。今、意識が飛んでいたことに気付いて愕然とする。
「ナマチューとカキピーのお替わりを頼む!」
「実はカキピーはこれで最後でして。その代わり、セトーミ様が奥でクエストのお礼をしたいとしたいとおっしゃっています」
「え?! 何で俺なんかに?」
おいおいおい……お礼されるようなことをした覚えなんてないのだが。
大体、国王陛下と何度も会談されているような伝説のシャーマンに、単なるB級冒険者の俺なんて口をきいてもいいのか。
「もうすぐ閉店なんでお気遣いなく。奥でセトーミ様がお待ちです」
「やっぱ、ビールのつまみと言えば揚げモノだよな」
「私、軟骨の唐揚げにレモン絞ったのが好き」
「それが、軟骨の部位が見当たらないんだよ」
「なら、とり天はどう? 私、唐揚げより好きなんだ」
「そういや、この前のとり天、美味かったよな」
「クリスちゃんも、たくさん食べてたもん。この世界の人の口にも合うよ~♪」
セトーミ様は妹の沙樹ちゃんと何やら立ち話をされている。
「あっ、ジェイクさんですね。先日はありがとうございました」
「あ、ああ、わわわわ……初めまして」
「そんなに固くならなくていいですよ。それよりせっかくだからごちそうさせてください。貴重なロックバードの肉をありがとうございました」
「あのお肉、最高だったよね」
「そうそう、まるで地鶏みたいな味わいでびっくりしたよ」
ジドリとは何のことかわからないが、とにかく喜んでもらっていることは伝わった。
「今から、生中にぴったりのつまみを作りますので、少々お待ちくださいね」
伝説のシャーマンはそう言うと、屈託のない笑顔で微笑みかけてくれたのだった。




