第51話 そしてまた……。
「セトーミ様なら絶対に大丈夫ですよ。なんてったって、伝説のシャーマン様なんですから」
「何度も言ってきたけど、俺はしがないサラリーマンなんだけど……」
「はい! ですから大丈夫です」
「…………」
俺は、クリスに励まされつつ、王都のはずれにあるクリスの実家を訪れていた。まさか俺が「お嬢さんをください」なんて言いに行く日が来るなんて、今でも信じられない。
「ママ、パパ、セトーミさん連れて来たよ」
「は、はじめまして。クリスさんと真剣に交際させてもらっております、セトーミ=ワタルと申します」
「ようこそお越しいただきました。何だか懐かしい感じがするわ~。あなた、早くいらして~」
玄関で俺たちを出迎えてくれたのは、品のいい可愛らしいマダム。
髪や瞳の色だけでなく、おっとりとした物腰までクリスにそっくりである。
そして、後ろから顔をのぞかせた男性を見て驚いた。
「はじめまして。クリスの父の鈴木聖次です」
はにかみながら右手を差し出してきたその姿は、どう見ても日本人そのものだった。
話を聞くと、やはり日本から来たという。しかも外見が俺にそっくり。俺も二十年くらいしたらこんな風になるのだろうか。
鈴木聖次さんは、かつて大手企業で研究職に就くサラリーマンだったそうだが、何故かこちらでは俺と同じくシャーマンと呼ばれていたらしい。
「詳しくお話を伺ってもよろしいでしょうか」
「もちろんだとも。日本の若者に会えてうれしいよ。私の場合は、ひとり暮らしのアパートの玄関が、港町にある小さなダンジョンに繋がっててね。朝から会議が入っていたのにあのときは焦ったよ」
「そうなんですか! 僕も似たような感じです」
「ダンジョンで獲れたものを冷蔵庫にしまうとポイントがたまったなあ。テレビ画面にレベルとかスキルとかが映ってね……」
「ところが、何年か前にダンジョンの部屋に行こうとしたら、扉が無くなっていた。そのとき思ったんだよ。きっと私の役目は終わったんだとね……」
「これからよろしく頼むよ。新しいシャーマン君。いや義理の息子にこんな言い方をするのも変かな。シャーマンやってると、色々と頼まれ事が多いけど、大抵は何とかなるものだから大丈夫だよ」
そう言って、差し出された手は、柔らかく温かだった。
「これから、よろしくお願いします」
「こちらこそ。クリスを幸せにしてやってくれ」
「は、絶対に幸せにします」
「はうう……」
「なにしろ、私も若いころは母さんが可愛すぎて、まともに顔も見れなかったんだよ」
「まあ。あなたったら……」
「今日も一段と綺麗だよ」
俺とクリスが居ても全く気にせず、いちゃいちゃべたべたなお二人。絵にかいたようなおしどり夫婦っぷりである。
「そうそう。私からもひとついいかしら」
クリスの家系は代々女系で、特殊なスキルが母から娘へと伝えられるらしいのだが、それが何かは秘密だそうだ。もちろん義父も知らないという。
「これはね。ウチの女たちだけの秘密。殿方には内緒なの」
義母は、そう言うと、いたずらっぽく片目をつぶったのだった。
◆
「パパ~っ、次のお休みは、王都に連れて行ってね」
「もう、アヤったら。せっかくパパがお料理つくってくれてるのに、邪魔しちゃダメでしょ」
「ゴメンなアヤ。もうちょっと待ってくれ」
「いい匂い~♪ 今日は、釜玉明太ぶっかけにしてね」
「明太子は辛いけど大丈夫か?」
「もう平気だもん。だってママの子なんだから」
「アヤはパパの子でもあるんだぞ」
「そうよ。アヤはセトーミ様の子なのですから」
「おいおいいい加減、セトーミ様はやめてくれよ」
「あっ、私ったら……ゴメンなさい。あ・な・た……。は、はうう……」
俺たちは子宝にも恵まれ、のんびり新婚生活を送りつつも、『洞窟亭』の二階で暮らしている。ここを引き払って、クリスの両親みたいに悠々自適の生活も出来るのだが、クリスが俺がいた元の世界に行きたいというので【ハズレ】スキルを集めているのだ。
この日も夕食を終えると、買い取った魔石でレベル上げ。だが、【ステータス】が何だが変だ。
「あれ?」
何かこれって、前にもあったような気がするのだが……。
【名前】セトーミ=ワタル
【レベル】32
【スキル】【言語理解】【挨拶】
【間取り】店舗+3LDK
【その他】【配送ボックス】【聖域化】【天然温泉】*『美人の湯』
【レベル】が1に戻ったとき、【スキル】など他のステータスも最初に戻っていたのだ。そして、今まで【間取り】は2LDKだったはず。
いつの間にか3LDKになっているということは……。
もしやと思い俺の部屋を覗いてみると、またもや押し入れの中から光が洩れている。
「キャーッ!」
「沙樹! お前、また来たのか?!」
「それはこっちのセリフよ! これから就職試験の面接だってのに、何してくれんのよ! バカ兄!」
俺の和室の押し入れだったはずのふすまの向こうには、またまた下着姿の沙樹がいたのだった。




