第44話 幕間 そばめし
「セトーミ様、今日も美味しかったです」
「試しに焼きそば麺を仕入れてみたんだ。三人分ならウチのホットプレートでもなんとかなったな」
「いつもありがとうございます~」
「う~ん」
「沙樹、どうかしたか?」
夕食後、満足気に顔を見合わせて微笑む俺とクリスの前で、微妙な顔の沙樹。俺の自信作だったのだが、いまいちだったのだろうか。
「あの、お兄ちゃん。毎日麺類じゃ流石に飽きがくるんじゃないかと思って……」
「だから、今日はお好み焼きにしただろう。……広島風だけど」
「あ、そうじゃなくて、お客さんの話。私たちはともかく、毎日来てくれるお客さんはうどんばかりじゃ飽きるよね」
「だって、ウチはうどん屋だから」
「今日の夕飯みたいな広島風お好み焼きとか、美味しいんだけどなあ」
「でもこれをメニューにするには手間がかかりすぎるぞ。クリスはどう思う?」
「……麺だけでは飽きるかも知れませんが、何かを足せばいいかも知れません」
「なるほどな!」
◆
「実は新メニューを考えているところなんですが、いかがですか」
翌日、クリスの一言にひらめいた俺は、ものは試しとばかりに、常連の冒険者パーティーに話を持ち掛けてみた。
「俺たちは美味けりゃ何でもいいぜ。値段も安けりゃありがたいけどな」
「大丈夫ですよ。料金は同じですからご心配なく。味の方も保証しますよ」
「シャーマン様がそこまで言うんなら食うしかねえな。一度どんなものか試してみようぜ」
「では、ちょっとすいません。熱いので鉄板には触れないようにお願いします」
テーブルの上にホットプレートを用意すると、冒険者の皆さんはざわつきだした。
「何だ何だ? こんなの初めて見るぞ」
「最新の魔道具か?」
ちなみに、これはひとり暮らしを始めたとき、彼女が出来たら部屋に招いて二人で使いたいと思って購入したホットプレート。結局一度も使われることは無かったが、日の目を見れて本望である。(泣)
「これで一体、何を食わせてくれるんだ?」
「今からこの場で調理します。出来立てをお召し上がりください」
「おお! なかなかいい趣向だな」
興味津々の冒険者の皆さんの視線を一身に受け、俺は初めてセーフティースペースで料理することにした。
”ジューッ”
ホットプレートに牛脂を入れると、プチプチと油が弾けて国産牛特有の甘い香りが広がった。肉と野菜を入れて炒め、塩コショウを軽く振って麺を投入する。
この状態で味付けして薬味を入れるとそれなりに美味しい焼きそばになるのだが、今日はそこからひとひねり。
「おい、ちょっと待ってくれよ」
「そんなの入れなくても、十分美味そうなんだが」
「まあまあ。ライスが合わさることで、もっと美味くなるんですよ」
俺はそう言うと、ご飯を投入した。
よく混ぜあわせ、隠し味の焼肉のたれを少々。
ウスター、とんかつ、お好みソースを回しかけると、何とも香ばしい香りが、はじける様に広がった。そこにネギ、紅ショウガ、天かす、最後に鰹節と青のりを散らした。
「うおおっ!」
「この焦げた香りが、たまらん!」
「あっ、お前、抜け駆けずるいぞ!」
「ふーっ、はふはふ」
「うまっ、あつっ、うまっ!」
我先に食べ始める冒険者たち。『ぼっかけ』(スジ肉に細かく刻んだこんにゃく等を煮込んだもの)を入れると更に美味しいのだが、今のままでも十分なようだ。
「「「お替り!」」」
結局、一人当たり三人前を平らげて、満足してもらった。
「あの、私も『そばめし』を食べてみたいのですが……」
「メニューに加えるかどうかはともかく、従業員も試食しないとね」」
「よし、任せろ!」
二人にせがまれ、今日の夕飯はそばめしになった。
『ぼっかけ』は無いが、出来たそばめしに半熟の目玉焼きを乗せてみた。
箸を入れると黄身がとろり。そばめしにからめ熱々を口に入れると、マイルドになったソースのうま味が広がった。柔らかな麺ともちっとしたご飯には、ところどころ焦げ目が付いていて食感も楽しい。長田本庄軒の足元にも及ばないだろうが、今、俺にできる精一杯のそばめしだ。
「これこれ、懐かしい~♪ やっぱソースは『どろソース』よね」
「ふぅ~。はむっ、……。麺とご飯に卵のとろとろが美味しいです~」
「あっという間にか全部食べちゃったよ」
「私もです」
「お兄ちゃんお替わり!」
まるで、鉄人21号のような格好でお替りをせがむ沙樹とクリス。
俺は、まだ一口も食べてないのですが……。




