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さぬき製麺丸亀店、異世界ダンジョンで営業中です  作者: 七生(なお)。


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第43話 うどん弁当

「よう、セトーミさん。相変わらず大繁盛だな」


 店じまいを終えたタイミングを見計らったようにメスカルがやってきた。ギルドマスターになってから、ますます店に来てくれるようになった。

 俺としては、嬉しいのだが仕事の方は大丈夫なのだろうか。


「ギルドマスターの仕事、大変なんじゃないですか?」

「なあに。俺にとっちゃ、ここに顔を出すのが一番重要な仕事さ」

「そうですか……では、ビールでもいかがです」

「あ、いやお構いなく」


 いつもな、飛びついてくるメスカルが遠慮している。


「ひょっとして、何かあったんですか?」

「い、いやな……このダンジョンも15階層までは踏破が終わったんだよ。いま下の階に職人たちを入れて、中を整えているんだ」

「それはおめでとうございます」


 俺は、口ではお祝いの言葉を述べがら嫌な予感を感じていた。これはいつもの頼まれごとのパターンである。


「しかし、職人たちが仕事を嫌がりやがる。下の階層でウチから支給している携行食が不満なんだとさ」

「はあ……」


 ギルドの携行食は、黒パンに干からびたチーズと干し肉。それに水で溶かした粉ミルクである。

 特に黒パンは、あまりにも固く俺からすればこれをパンと呼んでいいのか、首をかしげるような代物。チーズはプラスチックみたいだし、干し肉は固すぎる。ミルクもクセが強く独特のにおいがする。


「セトーミさんの店が無いときは、みんなこんなメシでも文句を言わなかったんだ。しかもここだけの話、ギルドの携行食はセトーミさんの店で食べるより割高なんだよな」

「それは何とも……」

「だから俺は、文句をいう職人たちを集めて言ってやったんだよ」

「まさか……」

「お前ら、何文句言ってんだ! 柔らかくて美味い携行食なんてシャーマン様にかかれば、一発なんだからな! ……って」

「は?」


「いや、だからセトーミさんが美味い飯をつくってくれるから、どうか文句を言わず働いてくれって」

「え?」


 おい、何、頭搔きながらテヘペロしてんだ‼


「……というわけで、新しい携行食をつくって欲しいんだ。シャーマン様ならたやすいことだって大見えきっちゃったんだよ」

「ちょっと、何勝手なこと言ってるんですか‼」

「すまない、この通りだ」


 メスカルは、涙を流して土下座した後、五体投地。

 そういうことは、先に相談してからにして欲しいものである。


「お兄ちゃん、メスカルさんには、いつもお世話になっているでしょ。ここは男らしく引き受けたらどう?」

「お前、他人事みたいに言いやがって!」

「さすが、沙樹ちゃん。できた妹だぜ」

「そんなのシャーマン様にかかれば簡単ですよ。ね、セトーミ様」

「え? ま、まあ……そうだな」

「なんか、私のときとは態度が違いすぎるんですけど!」

「確かにクリスちゃんの言う通り、セトーミさんにとっちゃ朝飯前か」

「当たり前です。何しろ伝説のシャーマン様なんですから」

「……仕方ない。引き受けますよ」

「恩に着るよ。それにしてもこのつまみとエールの組み合わせは止まらんな」


 いつの間にか、メスカルはジョッキを傾けている。さっきまで床に手をついて俺に謝ってたくせに変わり身の早い奴め。


 おかげで俺は、毎日試作品をつくるはめになってしまったのだった。


 ◆


「これでどうだろう」

「え~っ。やっぱ麺がのびてるよ~」

「こちらは少し硬いような……でも携行食よりずっと食べられます」


 あれから俺は毎日試作品の開発を続けた。

 まずは、伸びないように硬めのうどん弁当の試作。

 麺の茹で時間を変えて試作品をたくさん作ってみたが、どうも上手くいかない。


「これはこれで食べやすいです~」

「もう、クリスちゃん優しいんだから。お兄ちゃん、これ、ダマになってるよ」


 ならばと、焼きうどんを作ってみたが、冷めると味がいまいちになる。しかも入れる具材が多くて大量生産が難しい。


「焼うどんは、冷めてもギルドの携行食より何倍も美味しいですけど」

「お兄ちゃん、もう少し油を増やしてみたら」

「油か……なら、いっそのこと、ぶっかけうどんに油を加えてみるか」


 うどんをゆでて氷水でしっかり締め、ぬめりを洗い流す。

 水気をよく切ったら油を全体に薄くまぶしてオイルコーティング。これで冷めても麺同士がくっつきにくく、ツルツル食感が長持ちするようになった。


 具材は悩んだ結果、メインは豚しゃぶ肉を使うことにした。

 熱湯でサッと湯通しして冷水に取り、脂を落として麺の上に盛り付ける。

 きんぴらと玉子焼きを脇に添え、食べる直前にめんつゆをかけてもらう。

 上手くいきそうだ。


「よし、試作品が出来たぞ」


 深めのお弁当箱を開けると、ツヤツヤの太麺。

 上に豚しゃぶがふわっと広がり、端には、きんぴらと玉子焼きが添えられている。薬味のネギとゴマをちらせば、見た目も鮮やかになった。


「きれいなお弁当ですね」

「うん……お兄ちゃん、これ美味しいよ!」

「お箸が止まりません~」

「キュイ、キュイ~♪」


 うどんは、直接油でコーティングされているせいか、箸でつまむと麺がばらけ、多少時間がたっても、作りたての味を損なわない。むしろ冷えてからの方がコシが引き締まって美味しいくらいだ。


 翌日、催促にきたメスカルが大喜びしたのは言うまでもない。



 ◆



 ダンジョンの13階層では、職人たちが通路に手すりや階段を設置していた。ギルドは、一日でも早く下層に観光客が入れるよう工事を急いでいるのだ。


「ふう~ようやく休憩か。メシでも取りに行くか」

「俺、あんまり食欲無いんだよなあ」

「そういや今日から携行食が新しくなるんだってよ。しかもシャーマン様の手作りだそうだ」

「そういや、ギルマスがそんなこと言ってたな。あの、クソまずい飯とおさらばできるかと思うと嬉しいんだが、あんまり期待しない方がいいぜ。いくらシャーマン様でも、店とは勝手が違うだろうし」

「そうだよな。あんまりマズけりゃここでの仕事はごめんだぜ」

「俺も作業場を替えてくれるように言ってんだよな」


 そうこうするうち、職人たちに新しい携行食が手渡された。下層で働く職人限定の支給である。


「ほう、この容器に入ったのが一人前か。どれどれ……。へえ。冷たいうどんか。……うん?」

「まあ、俺もあんまり期待してないけどな。……え?」


「美味い、美味いぞ‼」

「なんだこれ?! 作り置きなのに、麺がつるつるしてる。しかも肉も柔らかいぞ」

「いつも食ってたのは何だったんだよ。横に添えられた卵も美味い」

「この枝みたいなのも、意外とうどんに合うな」

「毎日これが食えるんなら、ここの持ち場ずっと続けてもいいや」


 こうして、うどん弁当は、ダンジョン下層でしか食べられない名物として定着した。

 うどん弁当の評判は瞬く間に広まり、工事は計画の約半分の工期で終えることができたのだった。



 ◆



「セトーミさん、こいつを見てくれ」

「メスカルさん、一体何なんです?」


 一か月後、11階~15階層の一般公開記念式典に呼ばれた俺は、下層へ続く階段脇へと案内された。何かオブジェでも展示しているだろうか、白い布がかけてある。


「ここで働いていた職人たちが、感謝の意を込めて造ったものなんだ」


 メスカルはそう言うと、はらりと布をめくった。


「きゃ~っ、セトーミ様、かっこいいです~♪」

「お兄ちゃん、何か美化されんじゃないの?」

「恥ずかしいから、すぐに撤去してくれ~‼」

「え? 何でだよ。いいと思うんだけどなあ」


 そこには、うどん弁当をすする等身大のシャーマン像が設置されていたのだった。

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