第42話 幕間 長州名物瓦そば
「お兄ちゃん、実は、私の部屋からこんなの出てきたんだけど」
「あ。これって……」
この日、店を閉めたタイミングで、沙樹が持ってきたのは茶そばの乾麺。クリスに部屋を掃除してもらった時に見つけたらしい。賞味期限は今月いっぱい。一袋しかないが、今晩の夕飯には十分な量である。
「沙樹、ギルドに瓦みたいなのあったよな。メスカルさんのとこに行って分けてもらえないかな」
「え~っ。そんなの何に使うの……って。あっ、そうか! お兄ちゃん私行ってくる。やったー‼ 私大好きなんだ♪」
「頼んだぞ」
「任せといてよ。うししし……」
この沙樹の顔。何やらよからぬことを企んでいるような気がする。
沙樹が、出かけて間もなく、クリスが二階から降りてきた。
「あ、あの、セトーミ様。沙樹ちゃんにエプロン着せてもらったんですが、何だかスースーするんです」
「え……」
「ちょっと待った~っ‼ エプロン、は下着の上に付けるものじゃないぞ‼」
「はうう……」
全く。沙樹の奴、何てこと教えてんだ。
俺は、クリスを着替えさせ、二人で夕飯の支度に取り掛かったのだった。
◆
「セトーミ様。まずこれを茹でるのですね」
「いや先に具材をつくるんだ」
俺はフライパンで錦糸卵を手早く造りつつ、隣のコンロで牛肉の細切れを煮込んでいく。
「クリスは、大根おろしと紅葉おろしを頼むね」
「はいっ」
「あとレモンも切っといて」
錦糸卵と牛コマ煮込みが出来上がると、いよいよ茶蕎麦の出番だ。初めて見る深緑の乾麺に興味津々のクリス。
「緑のパスタなんて初めてです。いい香りですね~」
時間きっかり茹でた後、水洗いしてぬめりを取ったらざるにあげる。
フライパンに火をつけたとき、沙樹が帰ってきた。持って帰ってきた瓦は、日本のモノにそっくり。よく洗えば十分使えそうだ。
◆
「さあ出来たぞ」
「やったあ」
「こんなお料理、初めてです~♪」
今回の料理は長州名物瓦そば。
熱した瓦に茶そばを乗せ、全体をこま切れ牛肉が覆っている。輪切りレモンには、大根おろしやもみじおろしが付いており、目にも鮮やかだ。
「ず……っ。ずばっ、はふっ。熱っ」
「もう、お兄ちゃん、がっつきすぎ」
「好きなんだからしょうがないだろう」
「まあ妹の大好物を覚えていたから許してあげるか」
「私も初めてですが、大好きになりました~‼」
茹で焼きされた茶蕎麦は、外はカリっと中はジューシー。それに牛肉の甘い脂がコーティンされているが、瀬戸内レモンであっさりと食べられる。
これを、あったかいつけ汁に浸して一口……。
もう箸が止まらない。
「お兄ちゃん最高だよ」
「セトーミ様、おいしすぎます~♪」
「山口に出張した俺に感謝するように」
「ええっこれ、お兄ちゃんのお土産だったっけ?!」
「おい、何忘れてんだよ!」
「許してにゃん☆」
「お、お前って奴は……」
「でもでも、おいしすぎまふ~♪」
せっかくのお土産を忘れられていたことは腹立たしかったが、クリスの笑顔に免じて許すことにしたのだった。




