第40話 ご成婚パレード
「王都もこれで見納めか」
「お兄ちゃん、また連れてってね」
「そうだな。帰ったらメスカルさんに相談してみるよ」
「セトーミ様、表に馬車が用意されてるそうです」
「なかなか気が利くな……って、何だよあれは!」
俺たちのために用意されたのは、豪華なオープン馬車。
しかも、動き出すや、王国の近衛騎馬隊が四方を警護しながら並走している。
何だか王室のパレードみたいなことになっているのですが……。
しかも沿道は、なぜか王都の民衆で埋め尽くされている。
「ほう、あれが伝説のシャーマン様か」
「きゃーっ! セトーミ様~!」
「王国をお救い下さりありがとうございます」
歓声の中、俺たちを乗せた馬車はゆっくりと大通りを進んでいった。
俺の横で嬉しそうににっこりほほ笑むクリスは、お気に入りの体操服姿。
白の半袖シャツの胸には大きく『2-B瀬戸海』と俺の中学時代の個人情報が縫い付けられている。何だか自分が晒されている様な気かするのだが、クリスが気に入っているので何も言えないのだが……。
「セトーミ様、王都は昨日の結婚式の話題で持ちきりみたいですね」
「俺は特別席に座らされて、注がれた酒を飲んだだけだぞ」
「そんなご謙遜を。獣人と亜人との同盟の後ろ盾となられた上、国王様からの禅譲を断られ、これからは王国を守護されるのだとか」
「禅譲? 守護?」
クリスの言うことはいまいちピンと来ないが、あの後、酔いつぶれた俺は王宮に行くのを断固固辞して宿に送ってもらった。にもかかわらず、宿に王国の偉い人たちが次々とやって来て迷惑したんだった。
詳しいことはよく覚えてないが、きっぱり断ったので大丈夫だろう。多分。
「シャーマン様って、見たところホントに言い伝えのまんまだな」
「隣にお座りなのは、フィアンセの方かしら」
「あの胸の『2-B』ってデザインは、異世界の最先端なんでしょうね。よくお似合いだわ」
「センスいいよね」
「さすがシャーマン様に嫁がれる方だけあるな」
「お二人とも、お幸せに~」
何だか沿道から、聞こえてくるが、気のせいに違いない。そういうことにしておこう。
「いや~、我が兄ながら凄い人気だわ」
「キュ~イ♪」
沙樹は、街の人たちの歓声にすっかり気をよくしたのか俺とクリスの後ろの席から両手を振っている。キュイも何だか嬉しそうだ。
「うふふっ。何だかお兄ちゃんとクリスちゃんのご成婚パレードみたいだね」
「おい!」
「は、はうあっ……」
こうして王都を後にした俺たちは、ダンジョンの入り口に到着した。
ところが、そこはわずかの間に大変貌を遂げていたのだった。
◆
「こりゃすごいな!」
ダンジョンの入り口には大きな看板が取り付けられ、大規模な基礎工事が始まっていた。ギルド直営の宿ができるそうだ。
以前は、小さな詰め所がひとつあるだけで人もまばらだったのだが、今や職人や冒険者、さらに一般の観光客でごった返している。
「沙樹、キュイが踏まれないように気を付けてやってくれ」
「お兄ちゃんこそ、クリスちゃんをリードしてあげてよね」
雑踏の中、人込みをかき分けるようにダンジョンの中に入ると、通路の両側に手すりが設置され、格段に歩きやすくなっている。
壁には注意書きや冒険者の心得なんてものが掲示されており、魔物と戦う冒険者の人形まであった。
「すごい迫力です~!」
「そ、そうだな」
クリスは驚いているが、俺は温泉旅行の帰りに寄った銀山跡を思い出してしまったのは内緒だ。
さすがに階層を降りていくにつれ、少しづつ人が減ってきたのだが10階層の『ベース』付近には多くの人で賑わっていた。
次々と建設されている宿泊施設の奥には、ギルド支部が建設中。ギルド本部の外観が石造りの重厚な造りなのに対して、こちらは漆喰の様なモノで白一色に塗り固められている。
「おお、セトーミさん、お帰り! 何でも王都じゃ大活躍だったそうじゃないか」
「いや~。あまり活躍した覚えは無いんですけど……。それにしても、大盛況ですね」
「見てのとおり、ギルド支部の工事はあらかた終わった。まあ、宿泊棟の建て増しや、ダンジョン内の整備はまだまだだがな。とにかく、店の営業もなるべく早く頼むよ。職人や人夫が楽しみにしてるんだ」
「任せてください」
俺は明日からの店の再開を約束し、メスカルとがっちりと握手を交わしたのだった。




