第38話 固めの杯と王の涙
誘拐騒ぎの翌日、何故か俺はガスパウロから強引にすすめられて、白狼族とエルフ族の結婚式に出席することになった。
会場である広いホールに足を踏み入れると、そこにはすでに多くの賓客で溢れていた。キョロキョロしているのもつかの間、俺は自分の席に案内されたのだが……。
「え、まさかここ?!」
信じられないことに、俺の席は新郎新婦の間。
何で俺が主役の二人より目立ってるのか訳が分からない。にもかかわらず、出席者の皆さんは当然のような態度をとっているから不思議だ。こっちは、ただただ居心地が悪いだけなのですが……。
結局俺は、白狼族やエルフ族の偉い人たちから、ひたすら酒を注がれ続けられるはめになってしまった。
「これはこれはシャーマン様、我らエルフを末永く守護していただけますよう、なにとぞ、なにとぞお頼み申し上げます」
エルフ族の最長老から震える手で酒を注がれたかと思うと、白狼族の現当主であるガスパウロの父親も、巨体を縮めて土下座されんばかりの勢いで俺の前までやってきた。
「いつも息子がお世話になっております。なにぶん世間知らずの未熟者故、さぞやシャーマン様にも失礼の段もありましょうが、平にご容赦ください。そしてこれからも我ら白狼族をはじめ獣人族の行く末をよろしくお願いいたします」
「は、はあ……」
何だか頼まれてばかりなのだが、とにかくなみなみ注がれた酒を飲み干さなくてはならない。何しろ俺が席に座るや持たされたグラスは底が尖った三角錐の様な形をしていて、テーブルに置くことが出来ないのだ。
後で教えてもらったことなのだが、冠婚葬祭では注がれた酒は飲み干すことが友好の印とされている。通称『固めの杯』と呼ばれるもので、ときに正式な条約の締結以上の効力があるという。
ただし、そういうことはあらかじめ教えて欲しいものである。酒は嫌いではないが、ここまで飲まされるのはもはや罰ゲームにしか思えないぞ。
しかも最後には国王自らがが恐縮しながらやって来て、俺のグラスになみなみと酒を注ぐものだから、流石の俺も限界が来てしまった。
「シャーマン様におかれましては、公爵をはじめ非礼の数々、お詫びのしようもございません。せめて酒をお受け頂きたく……え? あ! しゃ、シャーマン様、これは一体……」
「国王様のお気持ちは確かに頂戴いたしました。こちらこそ、せっかく注いで頂いたこの杯を、お返しする非礼をお許しください」
俺は国王の手をやんわりと包んで、グラスを国王に戻した。いささか失礼かとも思ったのだが、もうこれ以上飲めないので許してほしい。
すると、国王はグラスを受け取ると、涙を流しながらゆっくりと飲み干した。
何故かむせび泣く国王。
呆然とする俺。
しかもこの後、さらに不可解なことが起こった。
国王が酒を飲み干すや、この宴席に参列した王国関係者と思しき者たちが一斉に立ち上がり、俺に向かって深々と頭を垂れたのだ。
――――――
「二人とも、なんかその……とにかくすまないな」
「そんなことはありません。我らの結婚式ご出席いただき、お礼の言葉もございません」
「シャーマン様のお噂は、兄より聞いてました。まさか本当にお越しいただけるなんて感激ですの~」
そう言って、ほほ笑む新婦の胸には特大の魔石が鎮座していた。ガスパウロがダンジョンで仕留めたたアースドラゴンのモノだろう。
したたかに酔っぱらってしまった俺は、そろそろ中座しようと腰を上げたのだが、運悪くガスパウロに見つかってしまった。
「店主殿、どこに行かれる?」
「いや、ちょっと用がありまして」
「用? この宴席を離れねばならない程のこととなると……わかった店主殿。皆まで言うな」
「はい?」
「こんなこともあろうかと、用意だけはしておいだぞ。ラゴス」
「はっ。セトーミ様が存分に腕を振るうことが出来ますよう、食材は全て用意してございます」
「これってまさか……」
結局俺は、またしても讃岐うどんをひたすら作り続けることになったのだった。




