第35話 幕間 えびめし
「沙樹様、お部屋のお片付けがございましたら、お手伝いします」
「ありがとう、クリスちゃん。助かるよ! それから、私のことは沙樹ちゃんでいいからね」
「は、はい……」
明るく何でも要領よくこなすように見える沙樹ちゃんだが、実は小さな頃から片付けが苦手だったらしい。頑張って片付けようとしても、なぜかすぐに散らかってしまうのだとか。
「クリスちゃん、ごめんね。王都に着ていく服を探してたら、部屋が余計に散らかっちゃって」
「あれ? 沙樹様……いや、沙樹ちゃん……この薄い衣装は、下着ですか?」
「わあ、懐かしい~! これは私が昔着ていたユニフォームだよ」
「ユニフォームって、何ですか?」
制服のことだろうか? いまいち要領を得ない私に、沙樹ちゃんは慌てて両手を広げて説明を続けた。
「ごめんごめん! 私は走ったり跳んだりする競技をやってたの。陸上競技っていうんだけど」
「走ったり跳んだりって、一体、何のためにされていたのですか?」
「改めてそう聞かれると困っちゃうんだけど……とにかく、大切な試合のときはこの服を着て出場してたんだよ」
「大切な試合……」
私の場合、ここ一番の大切な時ってやっぱり……。
沙樹ちゃんのユニフォームを広げてみると、布地がとても小さくて薄い。とにかく可愛らしいデザインだ。
「私も一度でいいから、こういうの履いてみたいです」
「クリスちゃんなら絶対に似合うと思うよ! こっちの世界にはないのかな?」
「ビキニアーマーなら近いかもしれません。でも私は戦士じゃないですし……」
「じゃあクリスちゃんも自分のを作っちゃえば? これを王都の服屋さんに持って行ったら、同じようなものを作ってもらえるんじゃない?」
「い、いいんですかっ?!」
「うん。もちろん! お兄ちゃんと一緒に行って、完成したやつをお兄ちゃんの前で履いてみせちゃえ♪」
「は、は、恥ずかしいかもです……」
「お兄ちゃんにはそれくらいがちょうどいいんだって。旅行中に二人でデートできるように、私も協力するから頑張ってね!」
「は、はい……!」
「そうだ。クリスちゃん。私、このユニフォーム着て岡山であった全国大会に出たんだよ。あのとき食べた『えびめし』がすごく美味しかったなあ」
「えびめしですか?」
「そう、岡山のソウルフードなんだって。そうだ! 今日のお昼、二人でえびめし作ってみない? ちょうど材料があるよ」
◆
「うわあ~、美味しそう♪」
「これはお兄ちゃんにも自慢できそうだね」
黒いライス炒めに、ぷりぷりの海老がゴロゴロ入っている。
上に薄く焼いた卵を細かく切った『錦糸卵』が山盛りでトッピングされ、黒と黄色のコントラストがとても鮮やかだ。
いつもご飯を作ってくれているセトーミさんに代わって沙樹ちゃんと料理をするのは少し緊張したけど、上手にできた。
「おおっ、美味そうだ! 二人ともありがとう」
「いえ、そんな。いつもセトーミ様に作ってもらってますから」
「早く食べてみてよ!」
「美味い、美味いぞ! この甘辛い風味にカレーっぽい味が合うな」
「やったね、クリスちゃん!」
「はい!」
見た目は真っ黒で少し不安だったけれど、食べてみると意外とあっさりしていて優しい味わい。海老のプリプリとした旨味と、錦糸卵のふんわり感がよく合って、口の中が幸せになる。
「パラパラなのにしっとりしてるな。油が米にしっかりコーティングされてる。さすがクリスだ」
「ちょっと、お兄ちゃん! ご飯を炒めたの私なんですけど!」
「そ、そうか。さすが沙樹だな。このソースもいい味出してる」
「へへーん。このソースはね、カラメルソースとデミグラス、ケチャップ、カレー粉をブレンドしたんだよ」
「そりゃ凄い。どおりで美味いはずだけど……。あれ? ウチにそんなに調味料あったっけ。……おい、これ『えびめしの素』じゃねーか」
「てへっ。部屋を片付けてたら、ちょうど友達からお土産でもらったのが出てきたんだよ」
「でも、沙樹ちゃんはセトーミさんに喜んでもらおうと一生懸命……」
「うん。そうだよな。本当に美味かったよ。二人ともありがとう」
セトーミさんはきれいに完食されると、嬉しそうに微笑まれたのだった。




