第30話 ハズレスキルと新スキル
「よし。これで準備万端だな」
「はい。明日はガイルさんたちが最短距離を案内してくださるそうなので、半日ほどで到着すると思います」
王都への社員旅行を明日に控え、今日から店は臨時休業に入った。
「でも、私何だか怖くなってきちゃった」
「おいおい、今さら何言ってんだよ」
「だって魔物がいるんでしょ。お兄ちゃんもいきなりおっきなヘビに襲われたって言ってたじゃん!」
「大丈夫ですよ。なんといっても、セトーミ様は伝説のシャーマン様なんですから!」
「「そこが一番心配なんだけど‼!」」
「ま、まあ、メスカルさんの話じゃ、1階層から10階層までは、ほぼ魔物は狩りつくされてるそうだ」
「それに、セトーミ様は、レベルを上げれば更に強力なスキルを獲得なさるでしょうし」
い、いや、強力なスキルって、俺の持っているものなんて【言語理解】と【挨拶≪あいさつ≫】だけだぞ。
「そうだ、セトーミ様。魔石は長らく放置すると価値が下がるというのはご存じですか?」
「いや、知らなかったぞ」
「ダンジョンの魔石は、普通、新鮮なうちにギルドに買い取ってもらいますから」
「じゃあ、ガスパウロ様から貰ったケルベロスの魔石も、すぐに配送ボックスに入れた方がいいのかな」
「レベルを上げるためのポイントのことはわかりませんが、ドラゴン以外の魔石は、何か月か経つと買取価格が少しづつ下がります」
「お兄ちゃん、ケルベロスって強い魔物なんでしょ。早くした方がいいんじゃない?」
「それもそうだな」
最近、店を訪れた冒険者たちの間で、帰り際になでると獲物を仕留められると思わぬ人気が出てきているのだが、そろそろ手放した方がよさそうだ。
「よし、いいか? 入れるぞ」
「はい、セトーミ様」
「お兄ちゃん、もったいぶらないで早くしてよね」
――――――
「おっ、これは!」
何と、レベルは一気に53に! 新たなスキルか何かが貰えるはずなのだが……。
≪スキル【ハズレ】を獲得しました≫
「お兄ちゃん、何か話が違うじゃない」
「た、確かに……」
≪特に何かしたわけでない場合、稀に現れるスキルです≫
もしかしたら、敵の攻撃が外れるのか、それとも罠を外すことができるのか……。などと思ったのだが、単なるハズレらしい。「特に何かしたわけではない場合」っていうことは、レベルは俺の日頃の行動と関係しているのかも。ただ今回は、レベル40と50の二つを越えたのだから、もう一つ何かあるはずだ。
≪スキル【査定】を獲得しました≫
【鑑定】ならアニメやラノベでよく聞くが、【査定】か。だけど【ハズレ】の後だけに、少しかっこよく見えるから不思議だ。
「ねえ、お兄ちゃん、査定ってどうなってんの?」
何度か瞬きすると、眼の端に【査定】の文字が現れた。試しに近くにある丼に焦点を合わせると、【中古:200G】という文字が浮かび上がった。
「おおっ、俺の目に値段が映ってる」
「セトーミ様、すごいです!」
「う~ん。外から見てる分にはよくわからないけど」
「なんか視界の端っこに【査定】って出るんだよ。そこを通して何かを見ると、文字や数字が見えるんだ。例えば……」
「ち、ちょっと、まさか変なところを見ようとしてるんじゃないでしょうね!」
「誰が見るか!」
「何よその言い方は! こんな美人の妹に対して失礼でしょ!」
沙樹は何を思ったか、自分の胸元を両手で隠した。自意識過剰な奴め。
88のDだったが、内緒にしておこう。
「それよりこれで今まで適当に買い取っていた魔石もちゃんと査定できるかもな。早速試したいんだけど……」
「でも魔石は今はありませんね」
「あっそうだ、キュイおいで」
「キューッ!」
キュイは危険を感じたのか、あわてて逃げ出してしまった。
スライムなら魔石が透けて見えるから、生きたままでも魔石を査定できるかと思いきや、見られるのは嫌らしい。
「お兄ちゃん、キュイは女の子なのよ。何勝手に覗こうとしてんのよ!」
「そ、そうだったのか?!」
「キュイ、お兄ちゃんには勝手に覗かないように言っとくから、安心して」
「キューイ♪」
するとキュイは嬉しそうにポンポン跳ねながら沙樹に抱き着いた。
キュイって女だったのか。ていうか、そもそもスライムに性別なんてあったのか。
「ほらね」
「何でキュイの性別がわかったんだ?」
「セトーミ様はご存じなかったのですか?」
「クリスまで……」
「だって普段一緒にいたらなんとなくわかるじゃない」
「私もてっきりセトーミ様はご存じだとばかり」
どうやら俺は本格的に鈍い男らしい。
そして、女性三人に囲まれていたとは……どおりで何だか肩身が狭い気がしていたはずである。




