第29話 社員旅行は王都で決まり
「ふう~っ。セトーミさん、いいお湯だったよ」
「メスカルさん、風呂上がりに一杯どうです?」
「おっ、さすがシャーマン様。気が利くねえ~」
この日、閉店しようとしていたところにメスカルが訪れた。
食事は済ませてあるという事なので、とりあえず自慢の天然温泉に入ってもらったのだが、どことなく笑顔がぎこちない。
「セトーミさん、いつもこっちの無理筋の頼みを聞いてもらって済まないな」
「いえいえ、こちらこそいつもお世話になってますよ」
「いや、そう言ってもらえてほっとするよ。そうそう、例の日帰り温泉の件だが、近く正式に営業許可が下りそうだ」
そう言うとメスカルは、上半身裸のままフルーツ牛乳の蓋を開けた。
「それから、知っての通り、ギルドの支部は宿泊施設も兼ねた大規模なものになる予定なんだ。そこで相談なんだが……」
「なんでしょうか」
「美人の湯を『ベース』までパイプで通し、生活用水として使いたいんだけどな」
「そ、それは……」
「もし工事となると業者を入れることになる。当然、何日かこの店を閉めてもらうことになるんだけどな。も、もちろん店を閉めている分の売り上げはギルドが払う。割増しで払おう。それでどうだろうか」
「割増しなんて逆にありがたいくらいですよ」
「そうか。よかった!」
メスカルはそう言うと、腰に手を当ててフルーツ牛乳を一気に飲み干した。
「いや~。風呂上がりの『らくれんフルーツ牛乳』は最高だな! それはそうとお湯の使用料なんだが……」
「工事やメンテナンスはギルドで責任を持ってやってくれれば、お湯は無料でいいですよ」
「え……? そりゃ、本当にマジですか?!」
俺が【挨拶】《あいさつ》のスキルを使ったわけでもないのに、“無料”という言葉を聞くや、メスカルは、正座して敬語になった。心なしか声も上ずっている。
「その代わりといっては何ですが、このダンジョンで採取された魔石や素材をギルドから継続的に購入したいのですが」
「お安い御用です! お湯をタダでひかせてもらう以上、ギルマスも認めるでしょう。しかし……。前々から思っていましたが、セトーミさんって、本当に欲が無いんですね。さすがは伝説のシャーマン様です」
「ちょっと、【挨拶】スキルは使って無いんですから、変な敬語は辞めてくださいよ」
「セトーミ様、お店閉めてきました」
「ああ疲れた。お兄ちゃん、私たち先にお風呂入るね」
「キュイキュイ~♪」
「三人ともちょうどよかった。実はな……」
俺は、メスカルを前に、クリスと沙樹に事情を話した。
「しばらく営業をできないのは残念だけど、この際ゆっくり休んでみるのもいいと思うんだけど……」
「ちょっと待ってよ! お兄ちゃん、このお店って今まで無休で営業してたの?!」
「あっ、そう言われれば……!」
俺としたことが、クリスにとんでもないブラック労働をさせてしまったようだ。
しかも、よくよく考えれば、給料も払ってなかった。どおりで金が溜まるはずだ。
「これはもう労働基準法違反だよ。これまでの分も含めて従業員に休暇を取らせるべきだわ」
「た、確かにそうだよな。二人には有給休暇に加えて、少ないけど給料も支払うよ」
「それじゃあ、さっそく有給取って四人で職員旅行に行こうよ。私、王都へ行ってみたいんだ!」
「わあ。それなら私が案内しますね」
「ちなみに四人って、キュイも連れていくつもりか?」
「いくらキュイがスライムだからって、給料払わずに無休で働かせてんだから当然じゃない。それに私も寂しいし……。出発は一週間後でいいよね」
「キュイ~♪」
「工事はセトーミさんたちさえ良ければ、いつでも始められるぜ」
「わかった。一週間後、王都に社員旅行に行こう」
「「やったあ~♪」」
「キュイ、キュイ~♪」
「そうと決まれば、行き帰りの護衛はギルドが請け負った。ガイルたちに魔物を排除してもらうから、安心してくれ。王都のギルド本部には、ロゼがいるはずだ」
「何だか色々すいません」
「なあに、こちらこそセトーミさんには世話になってるんだ。出来る限りのことをしなきゃ罰が当たるさ」
こうして初の臨時休業と王都への職員親睦旅行が決められたのだった。




