第28話 無茶ぶりうどんは超豪華
「じゃ。セトーミさん。くれぐれもよろしくな」
「……」
メスカルにはああ言ったものの、今までの普通のレストランの形式ではとても無理だ。
なら従業員を増やそうにも、クリスはなぜか絶対反対。というより、そもそも今日からなんて急すぎるぞ。
もう仕方ない。これを機会に『さぬき製麺』本来の形であるセルフ方式にするしかない。
要するに、お客さんは、トレーを手に奥へ進みながら、うどんや天ぷらをお皿にとるスタイルである。
俺たちはのれんをおろして店をしばらくの間準備中にし、三人がかりでてんぷらを揚げていった。
「よし。天ぷらはこんなもんでいいか。それより沙樹はホールもお願いな」
「ええ~っ! 私レジ係もしてんのに無理だよ」
「でも天ぷら係はクリスの方がいいだろ」
「だからと言ってなんなのよ! ほんと計画性が無いんだから。キュイもそう思うよね」
「キュイキュイ!」
「ていうか、この中でプロはお兄ちゃんだけなんだから、うどんと天ぷら両方やればいいじゃない」
「無理だって。ただでさえ俺は、製麺・茹で・盛り付けを担当しいるんだぞ」
「あ、あの……。私、できるだけやってみます!」
「クリスちゃんはあまり無理しなくていいよ」
「キュイキュイ~」
“カランコロン~”
俺たち四人がもめていると、不意に来店を知らせる鐘がなった。
「こんにちはセトーミさん、お手伝いに来ました♪」
「大丈夫です! お店のことは私たちで何とかしますっ!」
店にロゼがやって来てくれた。ところがクリスがすぐに気づいて、開いた店の引き戸を閉めようとしている。
「なんで閉めるのよ。せっかく手伝いに来てあげてんのに!……ぐぬぬ!」
「女の人のお手伝いは、結構です!……むぬぬ!」
意地でも中に入ろうとするロゼと、断固阻止しようとするクリス。お互い歯を食いしばっている。
「ちょっと待て、二人とも! 扉が壊れるだろうが!」
「メスカルから大変だって聞いて、少しでもセトーミさんをお助けしようと飛んできたんです!」
「ですから、結構ですってば!」
いつも俺の前ではもじもじしているクリスだが、沙樹以外の女子に対しては、明らかに態度が違うのだが。
(お兄ちゃん、あの二人、なんかあったの?)
(クリスが店の従業員を雇うのをずっと大反対してるんだよ)
(はは~ん)
(何だよ、気持ち悪いな)
結局ロゼを店の中に入れたが、二人とも互いにそっぽを向き合っている。
「わかった。ありがとうロゼ。手伝いに来てくれて嬉しいよ」
「そんな……セトーミ様……」
「クリス、せっかくの好意なんだぞ。ここは素直に受け取らないと」
「そうですよね。人の好意は素直に受け取るべきです!」
「ロゼが来てくれて本当に助かるよ。ホール係をしながら、お客さんにセルフ店の説明をしてくれ」
「セルフって、よく分かりませんがお任せください」
「そこは後で説明するから、よろしく頼むな。ところでクリス」
「……はい」
「クリスは俺の隣で洗い物をしながら、揚げ物を頼む。クリスにしか頼めない仕事なんだ」
「はい!」
何とか二人とも機嫌を直してくれてよかった。
ロゼがホールをこなしながら客に店のセルフシステムについて説明してくれたおかげで大きな混乱もなく、俺たちは無事に初日を終えることが出来たのだった。
◆
「ふ~っ。何とか終わったな。みんなお疲れ様」
「お兄ちゃん私、くたくただよ~」
「たくさんお客さんが来てくれましたね」
「お役に立てて何よりです」
「キュイ~」
「よし、先に夕食にしよう。もちろんロゼも食べてくれ、何でも好きなモノ作るから」
「私は、セトーミさんのお料理でしたら何でもいいです」
「はい! じゃあ私、『トマたま牛おろしぶっかけサラダうどん』がいい!」
「何だか詠唱みたいなメニューですね」
「そんなの『さぬき製麺』のメニューにもないだろうが!」
「クリスは何がいいんだ?」
「わ、わたしも沙樹ちゃんと同じものでいいでしょうか……」
「そ、そうか。わかった。三人ともそれにしよう」
「はあ? ちょっと、私と態度違い過ぎなんですけど!」
「キュイキュイ~♪」
こうして俺はこの無茶ぶり特別メニューを作ることになった。
配送ボックスから届いたばかりの新鮮な具材を広げ、調理を始める。
まず、たっぷりのお湯でうどんをふっくらと茹で上げ、冷水でキリッと締めて丼に盛る。
牛肉は粗挽き胡椒を振ってごま油でサッと炒め、表面だけ香ばしく色づいたところで一旦冷ます。
大根おろしはみずみずしくたっぷりすりおろし、めんつゆとポン酢、ほんの少しの柚子胡椒を合わせて甘酸っぱい「つゆダレ」に。
うどんのにシャキシャキのサラダ野菜を敷き、炒めた牛肉を豪快にのせて、真っ赤に熟れたトマトをくし形に切って散らした。
その中心に、トロトロの温泉卵をそっと落とすと、黄身がうっすらと輝きながら広がっていく。
最後に大根おろしダレをジュワッと豪快にぶっかけ、刻みねぎ・香ばしい焼き海苔・ピリッと効いたおろし生姜を雪のように散らしたら…… 完成したのは、まさに「超豪華無茶ぶりうどん」だった。
「じゅるるるっ……!」
沙樹が最初に箸を伸ばす。
「はふっ……! お兄ちゃん、これ……ヤバいよ! 牛肉の香ばしさと温泉卵のトロトロが絡まって、うどんに絡みつくの最高! 大根おろしの爽やかさとトマトの甘酸っぱさが口の中で……。もう止まらないよ」
「ずずずっ……ふはぁぁっ!」
ロゼも目を細めて頰張っている。頰が少し赤らんでいる。
「セトーミさん……! 牛肉の旨味がめんつゆと合わさって、すごくコクがあって……。野菜のシャキシャキと温泉卵のまろやかさが全部まとまってます。一口ごとに違う味わいが来て……いくらでも食べられちゃいます」
クリスは、黄身が少し口の端について、慌てて舌で舐め取っている。
「はむっ……ちゅるん……。セトーミ様の作るものは、いつも美味しいですけど……今日は特別です。お肉のジューシーさと、卵の濃厚な甘み……全部がうどんに染み込んで……ちょっとロゼさん! セトーミ様にくっつきすぎです! 離れてください!」
クリスが慌ててロゼを押し返すが、口の中はまだ牛肉と黄身でいっぱいだ。
(ちょっとお兄ちゃん)
(何だよ)
(いい加減クリスちゃんの気持ちに応えてあげたらどうなの)
(いや、そんな……)
(とにかく、私はクリスちゃんの味方だからね!)
沙樹は、俺をひとにらみして席を立ったのだった。




