第26話 初夜
「ちょっと、お兄ちゃん! このメイド服、スカートの丈が短いし胸も苦しかったんですけど!」
『さぬき製麺』の営業が終わってのれんをしまうと、沙樹はいつもの調子に戻っていた。
「す、すいません。私のサイズが……」
「ちょっと待った! クリスはそんなことで謝らなくていいよ! ていうか、沙樹は自分の服着たらいいだろ」
「それじゃ、せっかく異世界に来てるのに雰囲気が出ないじゃん!」
「は、はうう……」
隣ではいつものように俺の中学時代の体操服に着替えたクリスが小さくなっている。何だか色々と申し訳ない。
「文句があるなら、明日からは沙樹は自分の服を着てろ!」
「い〜だ! バカ兄! それより疲れた! 晩ご飯まだ~!」
こ、こいつは……。言うにことかいて、好き放題しやがって。
「いくら何でももうちょっと待てよ。今、仕事が終わったばかりなんだぞ」
「そんなの知らないわよ。私、釜玉明太うどんがいい」
「ちょっと待て。明太子は仕入れてないぞ」
「じゃあ、今から注文すればいいじゃない」
「お前って奴は……」
いきなり現れてやりたい放題の沙樹にムカついたものの、明太子はクリスも好きに違いない。沙樹が来てから遠慮しているクリスのために作ってやることにした。
「すぐに作ってやるから、クリスやキュイと一緒に温泉にでも入ってこいよ」
「お願いね。クリスちゃん、キュイ行こう」
「は、はい」
「キュイ、キュイ~!」
それにしても、仕事が終わった後、俺の方から労いの言葉をかけてやろうと思っていたのに、なんて奴だ。
多少腹も立つが、ここは我慢することにしたのだった。
◆
「さすがお兄ちゃん! やるじゃん!」
「このピリピリ感がたまりません♪」
「クリスは明太子って初めてだと思うけど、大丈夫みたいでよかったよ」
「とっても美味しいです! 今度私にも作り方を教えてください」
「もちろんだ」
「私は、教えてもらう気ないからね。食べたいときは、お兄ちゃんに作ってもらうから」
「お、お前って奴は……」
「お兄ちゃんお替わり」
「あ、あの……私もいいですか」
「クリスちゃん、遠慮しなくていいんだよ」
「お前が言うな!」
ともかく沙樹とクリスはお替りの後、二人で仲良く洗い物をしてくれたのだった。
◆
そして、その夜――――――。
「それじゃあ、お兄ちゃんにクリスちゃん、お休みなさい。お幸せに~♪」
「俺はいいけどクリスに悪いだろうが!」
「はううう……」
結局、俺たちは部屋の真ん中にロープを張って、白いシーツを被せたら簡易カーテンになった。何かの映画でこんなシーンがあったことを思い出したのだ。
ベットはそのままクリスが使い、俺は布団を敷いて寝ることにした。部屋を追い出されたことは腹が立つが、クリスは沙樹と一緒に温泉に入ってから明るくなったような気がする。
「クリス、電気消すよ」
「はい……」
――――――
「いきなりウチの妹が迷惑かけてゴメンな」
「いいえ、そんな」
「困ったことがあったらすぐに相談してくれよな」
「ありがとうございます。それよりセトーチ様……」
「ん?」
「セトーチ様は、いい御兄弟をお持ちなのですね」
「えっ? どこが?」
「沙樹様は、セトーチ様のことを思いやられてます」
「そんな訳ないと思うけどな。二人で何か話したのか?」
「うふふ……。それは秘密です。おやすみなさい」
「うん。おやすみ」
「あっ、私、大切なお友達が出来たんです」
「…………」
「セトーチ様ありがとうございます」
「ZZZ……」
◆
一方、ギルド本部は沸きに沸いていた。
一階のホールでは、全ギルド職員とその場に居合わせた冒険者を前に、ギルドマスターのハーネスが壇上に立った。
脇には、副ギルド長に就任したばかりのメスカルや、晴れて上級職員となったガイルやロゼの姿もある。
「みんな知ってのとおり、ギルドは『潮の廻廊』10階層に出来た『さぬき製麺』の店主であり、シャーマンのセトーチ様と盟約を結んだ。そして『ベース』には、ギルド支部の建設を予定している。ダンジョン内の支部設置は前代未聞のことだ。皆の力をぜひ貸してほしい!」
「うおおお〜っ!」
「シャーマン様が後ろ盾となりゃ怖いモノなんてないぜ」
「カンパーイ!」
この日、ギルドマスターの演説に合わせて、冒険者に対しエールの無料試飲会が行われていたのだ。
ホールに入りきれないほどの冒険者たちはエールをあおり、気の早いものはその場から『潮の廻廊』目指して出かけて行ったのだった。
【瀬戸内グルメ:明太釜玉うどん】




