第25話 店の二階に女子二人
「ど、どうぞ……お茶です」
「…………」
俺とクリスは、店のテーブル席で沙樹と向かい合っていた。
しかし久々に会った我が妹は、せっかくクリスが淹れてくれたお茶にも口を付けず、こちらを睨んでいる。
「これって……一体どういうこと、なんだろうな……?」
「そんなこと、私にわかるわけないじゃん! っていうか、お兄ちゃんこそ何でこんな可愛い外国の女の人と一緒にいるのよ!」
沙樹が言うには、自分の部屋で着替えていたら、いきなり俺が部屋の戸を開けたのだとか。もちろん俺は事情を話したのだが、全く納得できていない様子である。
「私これからバイトの面接に行くとこだったのよ! どういうことか、きちんと説明してよね!」
“バン!”とテーブルを叩く沙樹。
きちんと説明して欲しいのは俺の方なのですが……。
◆
「……ふうん。つまりお兄ちゃんは、ダンジョンにつながったお店で女の人と楽しく同棲しているってわけね」
「ど、同棲?! はうう……」
「いや、同居だっての!」
「何よそれ! ホントワケわかんない!」
「とにかく俺の店がオープン予定だったんだよ。なのに入り口がダンジョンにつながっちまったから、そのまま店を開いたんだよ」
「はあ? ダンジョンでお店なんて正気なの? そんなことより、一体いつ元の世界に帰れるのよ!」
「それは俺にも分からないけど……。多分いつか帰れるかな?」
「多分って何よ、バカ兄い!」
結論を言えば、俺の和室の押し入れの引き戸が、妹の部屋の押し入れの引き戸に繋がってしまったということである。
もしかして、沙樹の部屋から元の世界に行けるのかと思いきや、外につながる部屋のドアはいつの間にか壁になっており、窓も石壁が迫っており、俺の部屋と同じく外には出られなくなっていた。
俺は沙樹に、配送ボックスや引き戸に表示された画面を見せた。
「お兄ちゃん、これゲームやラノベによく出てくる奴だ」
沙樹は、キュイや外に広がるダンジョンを見てようやく現状を受け入れてくれたようだ。
元々頭の回転が速くて察しのいい妹。一緒に暮らしていた頃は何かと振り回されることも多かったのだが、今回はそれが良かったのかも知れない。
俺は兄として、ほっと胸をなでおろしていたのだが……。
「ふうん……このスライムも本物なんだ」
「キュイ、キューイ!」
沙樹は、ぽよぽよと転がっているキュイを抱きかかえると、顔を上げて俺をにらみつけた。
「要するにお兄ちゃんが、元の世界に帰るためにレベルを上げていたら、無関係の私まで巻き込まれちゃったということだよね」
「そういうことになるかな」
「そういうことじゃないわよ! どうしてくれんの!」
「だから、困ってるのは俺も同じなんだって」
「はあ? 全然困っているようには見えないんですけど! もう、こうなったら絶対に元の世界に戻ってやるんだから!」
「お、おい、沙樹どこ行くんだ?!」
沙樹はどすどすと足音を立てながら二階に上がると、そのまま俺の和室の中へ。そして、俺の荷物をどんどん廊下にほうり投げ出していったのだった。
「おい、沙樹! 俺の部屋で勝手に何してんだよ!」
「この和室を通らないと私の部屋から外に出れないじゃない! だからこの和室も私の部屋にする!」
「そんな、お前、勝手に……」
「何よ、私はバカ兄のせいで、トラブルに巻き込まれたかわいそうな被害者なんだよ! これくらいする権利はあるでしょ!」
「じゃあ俺はリビングに布団を持って行って寝るのかよ」
「同棲している可愛い彼女さんがいるんだから、二人で使えばいいじゃない」
「いや、同棲っていうより同居なんだけど。……え、俺はこれからクリスと同室で暮らすのか?」
「当たり前でしょ! それから、私も部屋が片付き次第、お店を手伝うから! お兄ちゃんの私物は全部廊下に出しとくから後で運んでね。あと“私の部屋”は絶対に立ち入り禁止だから!」
こうして、3LDKになったにもかかわらず、逆に狭くなった生活スペースで、新たな生活が始まったのだった。
◆
「いらっしゃいませ~♪ ようこそ『さぬき製麺』へ♡」
「おっ、新入りさんかい?」
「店も繁盛してるから、クリスちゃんひとりじゃ大変だもんなあ」
「なんだかこう……新鮮な魅力が堪んない!」
「ほんと、可愛いね! 名前なんて言うの?」
「そんなあ~。男の人に話しかけられて恥ずかしいです~♪ 実は私……」
「えええ~っ! 沙樹ちゃんって、シャーマン様の妹さんなの~?!」
「それじゃ俺たちなんか手出しできないじゃん」
「高嶺の花だあ~」
「そんなあ~。私なんてぇ~♪」
沙樹のやつ、両手を胸の前で交差しつつ、はにかみながら体をくねらせてやがる。まいっちんぐポーズなんて、つけてんじゃねえ‼
この世界では珍しいショートカットも、冒険者たちからエキゾチックな魅力のひとつとして映っているのかも知れないのだが、それにしても、お前って奴は……。沙樹の奴、俺の前とは180度、態度が違うじゃねえか。
「お、おい、沙樹! いくら何でも媚びすぎだろうが!」
「もう、いいから、お兄ちゃんは黙ってて! 店内は聖域化されて安全って教えてくれたのお兄ちゃんじゃない!」
「いや、でもな……」
「沙樹ちゃ~ん、ぶっかけと釜揚げ追加」
「は~い♪」
いきなり異世界に来たというのにこの順応力。我が妹ながら恐ろしい奴である。




