第24話 なんでここに妹が?!
「セトーミ様、今日は私が晩ご飯つくりますね」
俺が、元の世界にクリスを連れて行くと約束してからというもの、クリスの機嫌がやけにいい。俺に故郷の料理を食べさせてくれるそうだ。
「おっ、揚げモノか?」
「はい。お父さんの大好物なんですけど、私がつくるといつもべたついちゃって」
クリスが悪戦苦闘しているのは、どうやら根野菜と鶏肉のフリッター。例えるなら野菜天とかしわ天に近い。
「少し味見していいか?」
「はい」
「……うん。美味しいよ。二度揚げするともっとカラっと揚がるんじゃないかな」
「二度も揚げるのですか」
「騙されたと思ってやってみて」
「はい!」
「ど、ど、ど……どうでしょうか」
「うん、美味い! 見違えるほどサクサクになったよ」
「では私も……あっ、ホント美味しくなりました!」
「クリスが上達したら、店のメニューに天ぷらを加えたいな」
「はい! 頑張ります! それから……あ、あのセトーミ様」
「うん?」
「セトーミ様は、元の世界でお料理を作ってくれる女の人は、い、い、いらっしゃらないのでしょうか」
「適当な料理つくる割に、思い切り恩着せがましい奴はいるけどな」
「えっ? そんな……」
「まあ、妹なんだけどね」
「妹様でしたか……。あっ、まさか、義妹ではっ?!」
「いや実の妹だけど」
「な、なんだそういうことなんですか~。安心しました」
クリスはそう言うと、顔をほころばせた。
食後、鼻歌を歌いながら食器を片付けるクリスを見て、俺は妹のことを思い出していた。そう言えば沙樹にはずいぶん会ってない。
クリスの好意は素直に嬉しいが、俺にとってクリスは、異世界でできたもうひとりの妹のように思っているのである。
◆
「セトーミ様、そう言えばそろそろ魔石を処分されないのですか?」
「え?」
「いつの間にこんなに魔石が溜まっていたのでしょう」
いや「こんなに」って……。
クリスは【配送ボックス】に魔石を入れるのを嫌がっているようだったのに、なぜか今日はクリスの方が乗り気である。
俺がレベルを上げようとする度「一味と七味とではどちらを多く注文すべきか」だの、「制服のスカートの長さはどのくらいがいいか」だの、「いくら何でもこれでは短すぎはしないか」だのと、話をそらし続けてきたのはクリスの方だと思うのだが。
とにかくガスパウロから貰ったケルベロスのモノ以外、今ある全ての魔石を入れてみた。
≪レベル30を越えました。ボーナス特典が付与されます≫
今回は【スキル】はもらえなかったようだ。少しがっかりして、ステータスを見ると……。
【名前】セトーミ=ワタル
【レベル】32
【スキル】【言語理解】【挨拶】
【間取り】店舗+3LDK
【その他】【配送ボックス】【聖域化】【天然温泉】*『美人の湯』
ボーナス特典は【天然温泉】。タップしてみると『美人の湯』という表示が出た。
店の奥にいつの間にか新しい引き戸が出来ている。中には脱衣所があり、その先には広々とした岩風呂が出来ていた。
さっそく手ですくってみると、やや熱め。無色透明でなめらかな泉質だ。湯船の源泉かけ流しになっている。
「クリス見ろよ。この温泉すごくいいぞ」
「わあ。いい湯加減ですね。私温泉に入るの初めてです」
「この世界には温泉は無いのかな」
「ありますけど、街から離れた辺境ばかりなんです!」
クリスは初めての温泉に興奮気味だ。
「先にクリスが入ってもいいぞ」
「そ、そんな……。セトーミ様を差し置いて私が先に入るなんて……」
……ということで、結局、俺が先に入ることになった。
身体を洗って湯船につかる。
お湯はやや熱めで無色透明。少しとろみがある。
肩まで浸かると、まるでお湯に柔らかく包み込まれている感じがした。
しばらく浸かっていると、体の芯から温まってきて、肩こりや腰の重さがふわっと溶けていく感じがする。
しかもお湯から出ると、肌がつるっつる、すべすべ。
まるで化粧水を塗ったような感じだ。
「クリス、いいお湯だったよ。まるで道後温泉のお湯みたいだったな」
「『ドウゴオンセン』のことはよくわかりませんが、ちょっとここをご覧ください」
「どうした?」
「ここ、前と変わっているような気がするのですが」
クリスの指さす先【間取り】を見ると、3LDKになっている。二階の間取りは2LDKだったはず。
二人で二階に上がってみるも、クリスの部屋は異常なし。俺が使っている和室も大丈夫。
ただ、押し入れの中から光が洩れている。
不審に思った俺が、引き戸をそろりと開けてみると……。
「キャーッ!」
「えっ、沙樹か? どうしてここに?!」
「何、覗いてるのよ! バカ兄!」
和室の押し入のふすまの向こうから、下着姿の実の妹が、こちらを睨みつけていたのだった。




