第23話 ギルマス来訪
「よろしくな。俺が王都でギルドマスターをしているハーネスって者だ」
翌日、メスカルたちに案内されてギルド本部の面々が視察に訪れた。ギルドマスターのハーネスは、分厚い体といかつい顔つき。元A級冒険者だそうだ。
「ところで、ダンジョンがギルドの管轄なのは知っているな。いつの間にこんな所に店を開いたんだ?」
「いや、セトーミさんは……」
メスカルが慌てて間に入ろうとするが、お付きのギルド関係者たちにやんわりと制されている。俺は事情を包み隠さずに話した。
「……セトーミさん、いやシャーマン様と言うべきか。事情はわかった」
「はい」
「ギルド本部としても、これだけの冒険者が支持してくれている店をつぶすわけにもいかない。メスカルからも話があったかと思うが、ダンジョンで無許可営業をされちゃ騎士団が乗り込んでくる口実にされちまう。この店も実害が出るぜ」
「店の営業に支障が出ることだけは避けたいです」
「そこで相談なんだが、ギルドに入ってくれないか。そうすりゃ全て丸く収まる」
ハーネスはそう言って、逞しい腕を組んだ。
「申し訳ありませんが、ギルドに入る気は無いんです」
「こっちは、セトーミさんを支部長待遇にして給料を払う上、店の売り上げも今までどおりにしてもらっても構わないんだが」
「すいません。でしたら、あくまでウチの店は、ギルドの協力店ということにしていただけませんか。自分は、元の世界に戻って改めて店を開くつもりですので」
「それで本当にいいのか」
「構いません」
「……説得は時間の無駄のようだな」
「はい。それよりウチのうどんを食べていってくれませんか」
そして俺は、メスカルを立会人とし、誓約書にサインしたのだった。
◆
「キュイキュイ、キューイ♪」
静かな店内を、キュイがゆっくり転がりながら、ご機嫌で床掃除をしてくれている。
そんな中、仕込みを終えたタイミングでクリスが厨房にやって来た。
何だかいつもと雰囲気が違う。
ぎゅっと両の拳を握りしめ、俺の顔をまっすぐに見据えている。
「あ、あの、セトーミ様……。セトーミ様がいつか、元の世界へお帰りになられることは、お止めはしません。ですが、ですが……」
「ど、どうしたんだ?」
「あ、あの……セトーミ様が故郷である異世界にお帰りになられる際、私も連れて行っていただけないでしょうかっ!」
「えっ?!」
「すいません。一目だけでもセトーミ様の故郷を見たかったものですから」
「え? あ? ち、ちょっと待って、クリス」
「セトーミ様はご自分のことをあまりお話しになられませんから」
「キュイ~」
クリスは、俺の返事も聞かず、胸に飛び込んできたキュイを抱えたまま、小走りで自分の部屋に駆け込んでしまった。
「おーい! クリス出ておいで~」
「…………」
「キュイ、キューイ!」
何度か声をかけてみたのだが、ドアの向こうから聞こえるのはキュイの声だけである。
翌日の朝―――
いつもの朝食の時間が来ても、出てこないクリス。
部屋をノックするが反応は無い。
キュイだけは部屋から出てきたようで、店の床を転がっている。
「おはようキュイ。今日も元気で可愛いな」
「キュ~イ!」
「クリスがなんか言ってなかったか?」
「キュイ?」
俺は仕方なく、カウンターでコーヒーを飲むことにした。
二杯目を入れようと腰を浮かせたとき、クリスが下りてきた。
「おはよう。クリス」
「はい。おはようございます。それから、あ、あの。セトーミ様のお返事も聞かず、昨日もお部屋に籠っちゃってすいませんでした」
「気にしなくていいよ。それより昨日の話なんだけど……」
「セトーミ様、ありがとうございます!」
クリスは、俺が元の世界に帰るときに一緒に連れていくことを約束するや、アーモンドバタートーストに一味をたっぷりふりかけると、おいしそうに頬張ったのだった。




