第16話 白狼族の若③ レベル10とぶっかけうどん
配送ボックスにロックバードの魔石を入れると、レベルが10になった。
≪食材の注文が可能となりました≫
≪今後は、レベルが10上がるごとに、新たなスキル等が付与されます≫
「おおお……!」
上手くいけば、レベルが100になる頃には、俺もアニメやラノベの主人公みたいにたくさんのスキルで無双していたりして。―――いや、いかんいかん。
厨二病みたいな妄想より、今は目の前の食材仕入れが大切だ。配送ボックスの画面には、『さぬき製麺』によく似た発注画面が表示されている。
食材を注文して【送信】をタップすると、すぐに≪配送を完了しました≫と表示が出た。
そしてボックスの中には、注文通りの品物が綺麗に収まっていた。
「うわあ……さすがシャーマン様です。異世界からの召喚を見せていただけたなんて感動です」
「クリスが欲しいものも買えるぞ」
「いえ、そんな……」
「遠慮しなくていいよ」
「は、はい。では……」
注文画面を見つめる俺に寄り添うクリス。なんとなく文字の内容がわかるらしい。
それより、俺の肘に先ほどから柔らかいものが当たっているのだが……。
ロゼの一件以降、日増しにクリスとの距離が物理的に縮まっているように思うのは、気のせいだろうか。
「よし。この際だからクリスの欲しいものも注文していいぞ」
「わあ。ありがとうございます!」
クリスの笑顔に、俺は一味を大量に追加注文してしまったのだった。
◆
「店主殿、約束通り来たぞ! また美味いメシを食わせてくれ! そうだな、次はこの前の『かけうどん』以外でおすすめのものはあるか?」
「はい、喜んで!」
外の通路がほんのり暗くなってきた頃、ガスパウロ達がどかどかと入ってきた。
見事アースドラゴンを狩ることができたらしい。
「今日の若の勇猛ぶり、我ら一族に代々語り続けられることになりましょうな」
「そうですわ。アースドラゴンの単独討伐者として、若様の御名は遠く異国まで鳴り響くことでしょう」
「それこそが儂の狙いよ。アースドラゴンの魔石と共にアイツが他国に嫁げば、我らのことを軽んじることもあるまい」
「なるほど、魔石に武勇伝をのせて姫様の嫁入り道具となさるとは」
「さすがは若ですわ!」「お前ら、儂をおだてたところで何も出てこんぞ……って、熱っ!」
「「いい加減、学習してくださいませ!」」
どうやらクリスが気を利かせて出した湯のみに、またガスパウロが不用意に口を付けたようだった。
――――――
「お待ちどうさまです。ぶっかけうどん(温)です。薬味の追加はこちらからご自由にお取りください」
「「「……ごくり」」」
丼を出すと、武勇伝で盛り上がっていたテーブルが急に静かになった。
ゆで上げたうどんに天かす、ネギ、しょうがを添え、大根おろしと瀬戸内レモンをトッピングしている。
「お替りも準備しておりますが、いかがいたしましょうか」
「もちろん頼む。今から用意しておいてくれ」
――――――
「ずずず……っ。美味いぞ! 『ブッカケウドン』とは、『カケウドン』にも勝るとも劣らないのう!」
「私も長らく生きてきましたが、この雪のようなラディッシュは初めてです」
「このフルーツの酸っぱさが『ウドン』とよく合うわ~」
ガスパウロたちは予想通りお替わりを繰り返したが、まだ何か物足りない様子だった。
「では、いなり寿司のご用意もできますが、いかがいたしましょうか」
「さすがは店主、気が利くな! 早速頂こう!」
「承知いたしました」
「これはまたなんとも食欲をそそる見た目ですな」
「この甘辛い衣は何ですか?」
「油揚げです。砂糖と醤油で少し甘めに味付けしています」
「ビネガーを効かせたライスに甘いアブラアゲ……よく合いますわ~」
「店主! 気に入ったぞ。この『イナリズシ』も土産にしたいのだが、あるだけ包んでくれ」
瞬く間に六人前を完食し、三人とも満足そうに腹をさすっていた。あれだけ食べたのだからさすがに満腹だろう。
「店主、大満足だ。何かお礼をしたいのだが」
「めっそうもないです」
「ケルベロスの魔石をこれへ」
初めて見るケルベロスの魔石は、こぶし大の大きさで赤黒く鈍い光を放っている。とにかく高価なものに違いない。
「我らはこれから引き上げる」
「暗いのに大丈夫ですか?」
「なに、我らは夜目が利くからな。店主も元気でな。ここで店をしてくれるのは本当にありがたい。里の者にも伝えておこう」
若様はそう言うと、軽やかな足取りで店を後にしたのだった。
【瀬戸内グルメ:ぶっかけうどん】




