第15話 白狼族の若② 猫舌と自慢を披露する
「どうぞ。お茶です」
「すまんな。……熱っ」
「冷たいものをお出ししましょうか」
「いや、これでいい。それにしてもこの菓子も初めて食べるが、美味じゃの」
「では、お土産にいかがですか?」
「うむ。頂こう」
食後にサービスのお茶と『うりんとう』を出しながら、俺は『若』様としばらく話をすることが出来た。
どうやらガスパウロは猫舌のようで、湯呑を両手で抱えて慎重にお茶をすすっている。
ラゴスとレイナは、それぞれトイレやシャワーに行っているので、俺とガスパウロの二人きりである。
「妹に結婚祝いを贈りたくての。儂なりに色々と考えたのだが、やはりダンジョンで自分が倒したドラゴンの魔石が一番いいと思ったのだ。やはり男は腕っぷしが強くてはの。店主もそう思うだろう」
そう言って、ガスパウロは、右腕の裾をまくり上げた。はち切れそうな上腕二頭筋は、プロレスラー並の迫力である。
これまで、体を鍛えようと数々のトレーニングマシンに手を出しては、ことごとく失敗してきた俺には、まぶしすぎる身体である。実家の倉庫に買ってはすぐに使わなくなった一人用トレーニング機材がいくつも封印されていることは内緒だ。
「その体格に食べっぷり。自分も男なら、かくありたいと憧れます!」
「店主殿もやはりそう思うか。さすがシャーマンだけあって気が合うの!」
「自分はしがないサラリーマンなのですが」
「ふむ。やはり伝説のシャーマンなのか。……いや、みなまで言うな。ダンジョンで店を開くくらいじゃ。余程訳ありなのじゃろう」
そう言って腕組みしながらひとり頷くガスパウロ。
この微妙に話がかみ合わない感じが、スキル【言語理解】の限界なんだろうか。……まあ、便利なスキルだけど。
「ところで、ガスパウロ様」
「何じゃ?」
「ダンジョンの中に出来た店なんて、罠かなんかだと思いませんでしたか?」
「ふむ?」
「怪しい店だと思われていないか心配でしたから」
「……ぶ、ぶはは!」
「え?」
「何ともおかしなことを。いや店主殿、失礼した」
ひとしきり大笑いした後、ガスパウロが言うには、お付きのラゴスとレイナも含め、三人とも白狼族でも指折りの武人なのだとか。
「店主殿には悪いが、この店はダンジョンの中に突然出来たものである以上、怪しいに決まっておるぞ。まあ、罠だとしてもどうということは無いがの。そもそも罠があるなら、どのようなものか見たいくらいじゃ!」
「軽挙はなりませんぞ、若!」
「ラゴスの言う通りですわ。とはいえ、お世辞抜きで我らの中で一番強いのは若様ですけれど」
いつの間にかラゴスとレイナも帰ってきたようだ。二人とも席に着いてお茶をすすっている。
「二人とも固いことを言うのう。……そうじゃ、せっかくだから店主に俺のとっておきを見せてやろう。店の前にでも飾っておけば、厄除けくらいにはなるかも知れん」
ガスパウロはそう言うと、両手の指をコキコキ鳴らし始めた。何でも彼の得意芸は、硬貨を二つに引きちぎることらしい。
「ふん!」
「ま、マジですか?!」
「きゃ~っ!」
この後、俺とクリスは金貨、銀貨、銅貨……と、若の十八番フルコースを見せてもらったのだった。
◆
「……ところで店主。儂らはアースドラゴンをさがしているのだが、何かいい情報はないかの」
「ここ数日で何件かの目撃例があります。表の通路を少し先にすすんだ道幅の広い所で遭遇したようです」
「ほう……それはいい話を聞いた。店主殿、恩に着るぞ。では行くとするか」
ガスパウロはそう言うと、おもむろに席を立ったのだが……。
「しかし本当にこれだけでいいのですかな。どうも桁がひとつ違うような気がしますが」
「これでもウチとしてはもらい過ぎなくらいです」
「し、しかし……白狼族である我らが店で支払いをけちるなど」
「これは正規の値段でして、これ以上頂くわけにはいきませんよ」
「しかしそれではこちらの体裁が……」
「何とも無欲な店主よの。せめてあれを!」
レジ前での俺とラゴスとのやり取りを聞いたガスパウロが、しびれを切らしたように声を上げた。
「道すがら、適当に狩ったロックバードの魔石だ。記念にでも取っておいてくれ」
「そ、そんなこんな高価なもの、頂けないです」
(セトーミ様!)
なおも断ろうとする俺の袖を、クリスがちょんちょんと引いた。
「いや、店主殿、我らもただでこんなことする気はないぞ」
そう言ってガスパウロは、いたずらっぽく片目をつぶる。
「我らは、アースドラゴンを求めてしばらくの間、このあたりを見て回る。ただし我らは冒険者ではない以上、規約で十階層より下へは立ち入りが禁止されているからの。ちなみに明日もこの店で食事をしたいのだが」
「はい、喜んで!」
「では、楽しみにしているぞ」
「ですが若、くれぐれもあまり前に出られるのはお控えください」
「あら、ラゴス。若に任せとけば安心よ」
「こ、こら、レイナ! 何を言うのじゃ! 若がその気になられては一大事!」
「すまんラゴス。儂は最初から「その気」なのだが」
「それでこそ次期棟梁にふさわしいお姿ですわ~♪」
「若、お待ちを! 軽挙はこのラゴスが許しませぬぞ~!」
こうして白狼族の一行は、慌ただしくも楽しげに店を後にしていった……が、明日も来るらしい。また大量の小麦粉が必要になるな。
俺はロックバードの魔石を眺めながら、ため息と笑みを同時にこぼしたのだった。




