第10話 本物のシャーマンによる異世界のぶっかけうどん
眩しい。
店内に入るや、明るい照明に驚かされた。
しかも、見た事の無いガラスが使われている。
ピカピカのテーブルや椅子。
店内は、ダンジョンの中とは思えない程、清潔である。
これ程明るく清潔な店内は王都でもありえない。
何人かの冒険者から「怪しい店があるようだが、どうせ罠だろう」なんて話を聞いていたが、入って正解だった。
しぶる仲間を説得し、店に入ると、すぐにシャーマンを名乗る男が出迎えてくれた。
自慢じゃないが、俺は常時発動型の【危険感知】(中)のスキルを持っている。おかげで、他の冒険者が警戒して入らなかったこの店が安全だということはわかっていた。
そして、握手をして改めて「シャーマン」を名乗るこの店のマスター、セトーミさんが嘘をついていないことも分かった。
「三人様ですね。テーブル席におかけください」
給仕の女は俺たちを案内すると、頼んでもいない水を運んできた。
驚くべきことに店内で飲む分には水は無料だと言う。
透き通った水にガラスのグラス。
ロゼは氷が入っていることに驚いていたが、俺が驚いたのはお替わり用の水が入った軽いガラスの方だ。思いの外軽い。見たこともない素材だ。
俺はここで確信した。
間違いない。セトーミさんは本物のシャーマンだ。
厨房を覗くと奥には見たこともない魔道具が見える。
あんな貴重な物を人目にさらすなんて無防備極まりないが、それだけセトーミさんは自信があるのだろう。さすがはシャーマン。生半可な実力ではできないことだ。
しばらくして、給仕の女が料理を運んできた。
目の前に置かれた『ぶっかけうどん』なる未知の食べ物。
ずっしりとした黒い器の中に、白い麺が入っている。
やけに太い。
テーブルに立ててある木の棒で食べるらしいが、使いあぐねる俺たちを見かねた給仕の女がフォークを貸してくれた。
美味い!
一口食べて、この大陸、いやこの世界ではあり得ないモノだとわかった。
「王都のパスタをより太く洗練させたもの」だとか「王家御用達のパスタに上品なソースをかけたもの」といった例えが出てこないからだ。
言うなれば唯一無二。ソース以外はどこにでもある食材にもかかわらず、こんなうまい料理になるのか。
この世のものと比較できない異質な極上の料理を俺たちは味わった。
「これは本当に異世界の食い物で間違いないな」
「はい! 何しろセトーミ様は、本物のシャーマン様ですから」
給仕の女は、何故かドヤ顔をしている。
「ちょっと失礼」
「きゃっ!」
念のため、本当のことかどうか、握手して試そうとしたのだが、すぐに手を振り払われてしまった。
「な、なにをされるのですか! 私には大切な人がいます!」
「いや、そういうことじゃなくてだな……」
どうやらこの女もスキルを持っている様だが、大したものではないようだ。
俺は、さっき少し手が触れたことでこの女が嘘をついていないことがわかったが、向こうは、むっと頬を膨らませてこっちを睨んでいる。おそらく握手しても相手の好意や快不快を微かに感じ取れるのがせいぜいといった程度の力だろう。
「もし、セトーミ様が見られたらどうなさるおつもりなのですか!」
「え、あ……。あ、そうか、そういうことか! 済まなかった! 俺はアンタのこと、てっきり単なる給仕とばかり思ってたんだ。まさか奥さんだったのか!」
「お、奥さんだなんて……」
「すまん、この通りだ」
「は、はうう……」
――――――
「どうぞ、お水のお替りお注ぎします」
「あ、ど、どうも……」
この後、何故か女の態度が急に優しくなったのはさておき、問題はシャーマンとどれだけ親しくなれるのかだ。
「セトーミさん、アンタは本当にここで商売を続けてくれるのか」
「はい。そのつもりですが」
ダンジョンの10階層にこんな店が出来たということは、ギルドとすればダンジョン攻略の最前線基地を得たと同じだ。
『潮の廻廊』の10階層でこの店を見出し、しかもマスターであるシャーマンと友誼を結ぶことは、ドラゴンを何頭倒すことよりも価値がある。
「セトーミさん、これからもよろしくな!」
「こちらこそ!」
ようやく運が向いてきたようだ。俺はテーブルの下でぎゅっと拳を握りしめたのだった。




