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幽猫ゆうしゃ ~瘴気の世界だけど今日も元気です~  作者: 藍晶石ナイト


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7/9

その子は、僕の名前を知っていた

神谷慧は生を選んだ。


「あなたの選択に感謝いたします、神谷慧さん。」


いつまでも聞いていたくなるようなやわらかい声だった。

慧、俺の名前は神谷慧。

ずいぶん久しぶりに名前を呼ばれた気がした。

嬉しさと、少しの違和感を覚える。

俺の名前を呼んだのは、とても美しい女性だった。



◇◇◇



「幽霊騒ぎ?」


「はい…今度は川で幽霊が出るみたいで…」


エリシアさんは視線を泳がせながら言った。


「その…夜になると村外れの川で知らない子供が遊んでいるみたいです…」


僕はミケを撫でながらエリシアさんの話を聞いていた。

王都に行くための打ち合わせをするためだ。


「私は幽霊が苦手なので、ミナトさんとミケさんについてきていただけないでしょうか?」


「僕は構わないけど、その子どもって幽霊なの?近くの村の子どもって可能性はないのかな?」


「近くの村まで歩いて数時間かかるみたいなんです。」


「子どもの足だともっとかかるよね。」


「はい、なので…人間じゃない可能性が…高いんです…」


どんどん顔が青くなるエリシアさん。

まだ昼間なのに。ちょっと想像しただけでこんな風になるなら一人で行かせられない。


「エリシアさん!僕に任せてよ!」


「ミケも行くにゃ、川魚獲りつくすにゃ。」


「お二方が来てくださるなら心強いです!」


「何なら僕とミケだけで行ってくるよ。」


「それはいけません!」


エリシアさんは鼻息を荒くしてビシッと決める。


「そもそもこの件は私が頼まれた件です!なので私には見届ける義務があるのです!」


立ち上がり天井を見つめる彼女の足はかなり震えている。

武者震いということにしておこう。



◇◇◇



「夜釣りツアーに行くにゃ。」


「幽霊退治だよミケ。」


ランタンを引っ提げてミケと一緒にエリシアさんを待つ。

女の子の準備はかかるから仕方ないね。


「すみません…遅れてしまって…」


「遅かったね、だいじょう…ぶ?」


遅れて登場したエリシアさんは両手に松明を持つだけでなく、頭にも二本括り付けていた。

エリシアさんと夜のお散歩デートは淡い気持ちと一緒に弾けて消えた。

(ミケは猫なので頭数に含めない。)


「明るい方が幽霊も逃げてくれるかなって…」


「松明四刀流!?」


さすがに頭に松明を括り付けるのは危ないのでとってもらった。


「あわわ…灯りが減って不安です…」


「大丈夫だよ!万が一の時は僕を囮にして逃げて!」


「わかりました!囮お願いします!」


目をキラキラさせながら囮をお願いするエリシアさん。

本当に幽霊が怖いんだとよくわかる。


恐怖で動けないエリシアさんを引きずったりなんだり一悶着あったが、割愛。



「ここで魚を釣るにゃ。」


「ミケちゃん、私の腕の中にいてくれませんか?」


可愛い女の子が二人でイチャイチャしてる。

可愛いに可愛いが重なるとすごく可愛いね。


おっといけない、エリシアさんのためにも早く幽霊を見つけて何とかしなきゃ。

僕は五感を研ぎ澄ませ気配を探ってみた。

少し離れた場所から水音が聞こえる。

ぱしゃ、ぱしゃ、と水を叩くような音。

その間に、子どもの笑い声のようなものが混ざっていた。

二人に声をかけようとしたが、これ以上エリシアさんを怖がらせるわけにもいかない。

僕はそっとその場を離れた。



声を頼りに探せば、すぐに人影を確認できた。

遠目でよく見えないが確かに人がいる。

そいつは一人で川に入り、水をバシャバシャ跳ねさせながら楽しそうに笑っていた。


僕が最初に思ったことは怖いではなかった。

寂しい子どもが遊んでいる、だった。

悪霊ではなさそうだ。話が通じるかもしれない。

声をかけてみよう。


岩陰からタイミングをうかがっていたのだが、その子が川から上がる気配を感じた。

息をひそめ身を隠す。

何て話しかけようと考えてたら、ドサッ…と倒れる音がした。

僕は慌てて飛び出し駆け寄った。

すぐそばに月明かりに照らされて倒れたその子がいた。

その子は想像したよりも大きかった。

僕と同じぐらいの歳かもしれない。

肩を掴み揺らし声をかける。


「君!大丈夫?しっかりして!」


僕はその子の、【彼】の顔を覗き込んだ。

少し目を開いてこちらを見ている。

身体は冷えているが、川の水で冷えたのだろう。早く温めないと。

彼は何かを伝えようと口を動かしている。


「…ト…ナト…」


「え?なに?」


彼の唇がもう一度動く。


「…ミナト…」


「え!?僕!?」


彼は僕の名前を呟きながらもう一度目を閉じた。

僕は慌てて立ち上がった。



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